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第2航路:公用船契約に潜む影
第5-6便:新型魔導エンジン・改Ⅱ
しおりを挟むそんな中、機械に関しては専門外のディックくんも温かな目で私たちを見守ってくれている。
「なんだかよく分からないが、何か改善の道筋が見えたようだな」
「うん、ディックくんのおかげ! 『グランドリバー号』の整備もほぼ終わったことだし、すぐにでもこの『新型魔導エンジン・改Ⅱ』の開発に取りかかるよ!」
「俺も何か手伝わせてもらえないか? 素人の俺に出来ることなんて限られているだろうが」
「ありがとう、ディックくん。一緒に頑張ろう。整備も少しずつ教えてあげる」
「よろしく頼む!」
ディックくんはパァッと明るい表情になって、私の手を取った。
私としても機械や魔導エンジンに興味を持ってくれる人が増えて嬉しい。特にディックくんは学術に対する考え方やセンスがいいから、あっという間に基本的な技術を身に付けてしまうかもしれない。成長が楽しみだなぁ。
「ライルくんも私たちに力を貸してくれる? それなら百人力なんだけど……」
「断る理由がどこにある? 俺の方からお願いしたいくらいだ。これは魔導エンジンに革命をもたらすことかもしれないしな。その瞬間に立ち会えるなんて、技術者としてこれ以上の幸せはない」
ライルくんは一歩前へ出て、私とディックくんの握っている手の上に自分の手を重ねた。そして私たち3人は顔を見合わせて頷くと、合わせた手にあらためて力を入れる。
なんか仲間意識が強まった気がするし、大プロジェクトが始まったような予感。おのずと心臓の鼓動は高鳴って、期待感に満ちてくる。
「――何を盛り上がっているのかは分からないけど、やるにしても明日からにしようね。今夜はもう遅いから」
「っ!? 社長!」
声のした方を振り向くと、そこにいたのは社長だった。やれやれと呆れ返った顔をしつつ、ドックにいる私たちのところへ歩み寄ってくる。
壁に掛けられている時計を見ると、時刻は午後11時過ぎ。ここまで時間が経過しているとは気付かなかった。もう本社のオフィスに残っている事務系の社員はほとんどいないに違いない。
もちろん、発着場や桟橋には夜行便の対応をする人たちがたくさんいると思うけど。
っていうか、社長はうちの会社の実質的なトップなのに、こんな時間まで仕事をしているなんてちょっと意外だ。
要領が悪い――ということはうちの社長に限ってないと思うから、こなしている仕事の量や質が私の想像以上なのだろう。
「帰宅しようと思ったら、ドックにまだ灯りが点いていたから様子を見に来たんだ。まぁ、シルフィが残業している可能性はありそうだなと予想はしていたけど、まさかディックくんやアルトさん、それにライルまで一緒にいるとは思わなかったよ」
「社長、ちょうど良かった! 実はお話があるんです――」
私は実務試験で魔導エンジンが不具合を起こした原因や新型魔導エンジン・改Ⅱのことなど、この日のドックで出た話を詳しく社長に伝えた。そして今後の対応をお願いする。
するとそれを真顔で全て聞き終わった彼は大きく頷く。
「なるほど、事情は分かった。なんとか僕が上手く動いてみるよ。それとキミたちによる新型魔導エンジンの改良も楽しみにしてる。ただ、今夜の残業はもうおしまいだよ」
「はいっ! 家に帰ってゆっくり休みます」
「ライルも依頼していた仕事をやってくれてありがとう。レポートは僕もじっくり読ませてもらうよ」
「何か気になる点があったらおっしゃってください」
レポートを手に取って満足そうな社長とどことなく誇らしげなライルくん。なんだかふたりは整備における本当の師匠と弟子みたいで良い雰囲気だ。
気も合うみたいだし、今後もこの関係が続いていってくれたら私も嬉しい。
「ところでディックくん。今夜はどこへ泊まるの? 今日の右岸へ渡る船は運航終了しちゃってる時間だけど?」
私は時計を見て気になっていたことをディックくんに訊ねた。
左岸発、右岸行きの渡し船の最終便は午後8時台の出航となっている。そしてその便は私が帰宅する際に自ら動かす船に、お客さんを乗せるという性質のものだ。
だから今日のように私が残業をする時は、別の操舵手さんにわざわざ右岸まで運航してもらっている。もちろん、その船の停泊場所は左岸側にあるから、右岸から左岸へ戻る便は回送ということになる。
つまり現時点で今日中に右岸へ渡る手段はほぼない。ディックくんとアルトさんはどうするつもりなんだろう?
そう私が疑問に思っていると、ディックくんはあっけらかんと答える。
「アルトに宿を手配させるさ。部屋にこだわらなければどこか空いているだろう」
「だったら『わたしの船』に乗りなよ。アルトさんも一緒に。私も右岸にある家まで帰るんだから、遠慮なんかしないで。それに私が個人的に運航する船に友達を乗せるだけだから、運賃だっていらないよ」
私は熱を込めてディックくんたちを説得した。ここでふたりを見捨てるなんて絶対に出来ないし、宿代だって勿体ない。
それにこんな時間まで付き合わせちゃったのは、私のせいみたいなものだもんね。
じっとディックくんを見つめ、私は返事を待つ。すると程なく彼はフッと口元を緩める。
「――では、乗せてもらうことにしようかな」
アルトさんも『ありがとうございます、シルフィ様』と言ってから私に向かって深々と頭を下げる。私としてはそこまで感謝されてしまうのは、むしろ申し訳ないような気もするけど。
よーっし、クロードを回収したら右岸へ向かって出航しよう!
(つづく……)
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