55 / 58
第2航路:公用船契約に潜む影
第6-4便:ミーリアの仕掛けたワナ
しおりを挟む一応、会話の内容から何が起きたのかはなんとなく掴めたけど、詳細を確認するためにも訊ねてみることにする。
「ミーリア……これはどういうこと……?」
「あっ、トラップを仕掛けておいたの。建前では私のプライベートな貸切船の運航ということになってるけど、実質的には実務審査の再試験みたいなものでしょ?」
「う、うん。多くの人がそう思ってるだろうね……」
「だから黒幕はまた何かを仕掛けてくるはず。それでわざと私たちが隙を見せて、この船におびき出したってワケ。市の警備官をこっそり配置した上でね。ほら、私はブライトポート市の役人に顔が利くでしょ。おかげで信頼のおける人も厳選できたんだ」
何もかもが計画通りに運び、得意気な顔をしてVサインをしているミーリア。
そうか、昨夜の夕食に全員で行ったのは私たちの友好を深める意味合いももちろんあったけど、トラップの一環でもあったんだ。
宿を一緒にしたのもそれと同じ。1か所に集まっていれば、ミーリアにとっても実行犯にとっても私たちの行動を把握しやすい。船が無人のままの時間も多くなる。
昨日、彼女が『根回し』という言葉に含みを持たせていた理由がようやく分かった。
「シルフィ、実行犯たちが私たちの把握していない範囲で何かを仕掛けた可能性もあるから、運航前に隅々まで調べてね」
「うんっ、任せて。今回はライルくんもいるし、絶対に見落とさないよ」
「まっ、念のためさらに手を打ってあるけどね。もうすぐ分かると思う。――ほら、噂をすればなんとやらって、ね?」
ミーリアは視線と身振り手振りで川の上流を指し示した。その方向を見てみると、私はさらに驚愕して大きく息を呑む。
なんとこちらに向かって近付いてくるのは『グランドリバー号』。しかもその操船をしているのは社長だ。所要時間を逆算すると、深夜にリバーポリスを出航してきたということになるだろうか。
当然、今の口振りからするとミーリアは社長がこの時間帯に到着するであろうことを知っていたはず。でも社長が何の目的があってやってきたのか、未だに私には分からない。
……まさか意味もなくただミーリアに会いに来たということはないよね?
「お待たせ、ミーリア。で、どうだった?」
発着場へ到着した『グランドリバー号』から社長が降りてきて、ミーリアに問いかけた。
すると彼女はウインクをしながらバチンッと指を鳴らす。
「計画通りっ。これで次の布石が打てると思う」
「うん、あとはキミに任せた。こっちはこっちでやれることをやっておくよ」
「了解ですっ!」
「――あ、あのっ、なぜ社長がここへ?」
楽しげに話しているふたりの邪魔をするのは悪いと思ったけど、私には状況が全く分からなくて混乱しているので割って入って訊いてみた。
ディックくんやライルくんたちも私と同じ心境だったみたいで、みんなが社長の発する言葉に耳を傾ける。
「僕がここへ来た理由は3つ。ひとつ目は今回の計画がうまくいったか、いち早くミーリアに確認するため。あ、今回の計画というのは、実行犯にトラップを仕掛けて捕まえるということね」
「つまりそれを立案したのは社長だったってことですか?」
「正確には僕とミーリアのふたりだね。アイデアを出し合ったあと、より実行性がある計画に詰めていったのは僕。各所へ根回しをしたのは、大半がミーリアかな」
社長はさも当然といった感じで淡々と語った。
計算高く筋道を作りあげた社長とフットワーク軽く現場で走り回って調整をした実働部隊のミーリア。絶妙なコンビネーションでお互いに得意な分野を担当して、最大限のパフォーマンスを実現している。
絶対に敵に回したらいけない人たちだ。このふたりが組んだ時は特に末恐ろしい……。
ディックくんとライルくんも呆然と立ちつくしているから、同じことを考えているのかもしれない。
「ふたつ目は僕が操船してきた『グランドリバー号』にミーリアを乗せるため。それならより安全にリバーポリスへ送り届けられるだろう」
「あっ、もしかしてミーリアが『さらに手を打ってある』と言ったのはそのことですか!」
「シルフィを信じていないわけじゃないけど、念には念をってことだね」
確かに実行犯が得体の知れない何かを仕込んだ可能性もある。実際、実務試験で魔導エンジンが不具合を起こした時、私たちがその原因の特定に至るまで手間取った。
でももし『キャピタル号』にそういう不測のトラブルが起きても、ミーリアが乗るのが別の船ならリスクを大きく軽減できる。なにより彼女はリバーポリス市の市長秘書という重要な仕事を担当しているのだから、身の安全性を考えれば納得の措置だ。
「では、社長がここへ来た理由の3つ目はなんなんですか?」
「新型魔導エンジン・改Ⅱの真価を確かめるためだよ。僕らの船はシルフィたちの船に曳航される形にする。それなら過給器による出力の増加具合も確認できるし」
「なるほど、曳航するには通常よりも大きな出力が必要になりますもんね」
「それと僕は夜通し操船してきてさすがに眠い……。昨日の仕事を終えてすぐの出航だったから、完徹したようなものだしね」
「社長みたいな超人でも疲れるんですね」
「ははは、僕は普通の人間だよ。疲れて当然さ。……ふわぁ~ぁ」
大きなアクビをしている社長を見て、私は思わず笑ってしまった。さすがに最後に挙げた理由だけは、間の抜けているもののように感じたから。
でも社長はゆっくり眠れるのかな? だってミーリアが一緒に乗るんだから、ずっと話しかけられ続けてしまうだろうし。
切れ者の社長でもそこまで頭は回らなかったか……ふふっ。
「それじゃ、私は『キャピタル号』の出航準備に入りますね」
こうして私はライルくんやディックくんと役割を分担して作業を始めた。彼らはお客さんだから何もしなくても良いんだけど、手伝ってくれるというのでお任せしたのだ。
それにしても『グランドリバー号』のように大きな船を曳航するのは私にとって初めての経験だから、期待に胸が躍ると同時に緊張もする。操船はいつも以上に気を付けないと。
ちなみに『グランドリバー号』に乗ることになったのは社長とミーリア。それ以外の全員が『キャピタル号』という割り振りになった。
もしかしたらみんなもミーリアたちに気を遣ったのかもしれない。
(つづく……)
0
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる