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元悪役令嬢(現女王)と元王太子(現求職中人材)
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1年前に王国を揺るがす大事件がおきた。
王家が転覆したのである。
詳しいことは省くが、創世の神木龍が現れ、デベナムズ王家を廃し、当時第二王子の婚約者に過ぎなかった侯爵令嬢マリラ・ウルワースを新たな王として据えた。
神木龍といえば神と同義で、王国中に教会がある。顕現するなどまずない存在だ。
なにはともあれ、ここにウルワース王朝が誕生した。
王家と王国を揺るがしたこの事件の発端は、なんということはない、第二王子の浮気と、婚約破棄騒動だった。
全く自分には非はなかったのに、王太子としての地位を失うことになったレジナルド・デベナムズは、「ドミノ倒しのように地位を失った男」として「ドミノ倒し元王太子」と名を馳せることになった。
弟が浮気をしたら、その婚約者が勘当されて、貴族ではなくなった結果、神木龍の加護を得て、次の王に決まった。
……全くわけが分からない。
風が吹いたら桶屋が儲かるくらいわからない。
当人にもわからないのだから、周囲の人間にもわからないだろう、とレジナルドは思うのだが、何故か「つまり、こいつは既に王族ではないのだからバカにして良いのだ」ということだけはわかる人間が数多くいて、これはまた別の意味でレジナルドを驚かせた。
今までレジナルドにまとわりついてきた貴族令嬢たちもめっきり減った。
もとより、自分で選んで王太子になったわけではなかったので、当初の驚愕が落ち着いたところで、レジナルドは新たな仕事を探すことにした。
デベナムズ家は侯爵家の地位と決して広くはない地方の領地をもらったが、レジナルドはさっさと相続権を弟夫妻に譲った。
フワフワとしたところのある弟は、王族でなくなった今、自分で人生を切り開けそうにはなかった。
領地運営なら、なんとかできるだろう。一応部下がもり立ててくれそうだし。
「ということで、平民になるんじゃないかと思います」
そうレジナルドが報告するとマリラ女王陛下は首をかしげた。
「平民になりたかったんですか」
「そういうわけじゃないんですけどね」
あはは、とレジナルドは笑った。
あんたが俺の王位を取ったんだろう、という気はしないでもなかったが、まあ、なんというか、そういうめぐり合わせだったんだろう。
本人に悪気がないことはよく分かる。
「まあ、でも、ほら、マシューに普通に働ける感じ、しないじゃないですか」
「……まあ、確かに」
マリラは頷いた。
幼い頃から大好きだった婚約者だが、婚約破棄をした今振り返ると確かに「第二王子様」という立場が与えてくれる周囲の支援におんぶに抱っこだった感はないでもない。
「ま、その点、俺は文官仕事、めちゃくちゃしごかれたから、まあ、生きていけるかなって」
ということで、売り込みなんですけど、どうでしょうね、陛下、俺を雇わない?
元王太子はとても元王太子とは思えない口調で言った。
「む~」
マリラは唸った。
王太子殿下だった彼とマリラは表面上の付き合いしたことがなかった。
こんな人だっただろうか。
品行方正な王子様だと思っていたのだけれど。
ちょっと混乱するマリラをニコニコ見ていたレジナルドは、それから少しだけ真面目な顔になった。
「あとさ、俺みたいなのは側で見張ってた方が良いと思うわけよ、陛下」
「……それは」
「いやぁ、元王太子なんて反逆の旗印に担ぎ出したいやつがいつ出てきてもおかしくないじゃない。そばに置いて見張っているって形にしといたほうが良いと思うんだよね」
「そんなことをしても近づいて来る人は近づいて来るんじゃないかしら」
マリラがそう言うと、レジナルドは突然真顔になった。
「陛下、言葉遣い、変えたほうが良いですよ」
立場にあった言葉遣いってあるんですよ。
女言葉だとバカにされる、とレジナルドは言った。
「そうで……そうか」
「そうですよ。で、まあ、言葉遣いは、おいおい直していくとして、あと、あれですよ、ほら、俺が断りやすいじゃないですか、陛下に見張られてるからって」
「そ……そんなもの……か……」
「そんなものです。陛下付きの文官になったら四六時中一緒にいることになりますし」
レジナルドの言葉にマリラは、モジモジと、何か言いたそうにして……それから思い切ったように口を開いた。
「それはつまり……あの……」
「なんですか?」
「そなたの父親が……言ったこと……は……関係ないんで……だな……?」
「うちの父親が……ああ」
レジナルドは「マリラ・ウルワースと結婚しろ」と、タイミングも何も考えずに言い放った父親を思い出してポン、と手を叩いた。
「あー、王族の地位を確保するためにマリラ陛下と俺が結婚すればいいって言ってたあれ?! そんなのあるわけないじゃないですか」
「そ……そうか……そうだよな。それが狙いで文官として王宮に来ようと思ったってわけじゃ……」
「マリラ陛下と結婚したいのは王位のためじゃなくて、マリラ陛下が可愛らしくて素敵な女性だからですよ!」
「!!!」
ポンっ!
と、音がしそうな勢いでマリラは真っ赤になった。
「まあ、でも、これはこっちの単純な希望なんで、陛下にその気がないってコトはわかってます。ま、とりあえず陛下付き文官のチームに入れてくれるとありがたいです」
仕事はちゃんとしますよ、とレジナルドは笑った。
「待って……、いや、待て。それなら男爵位ぐらいは渡す」
マリラは慌てて言った。
「ただし、新たな家名と引き換えで良ければ、だが……」
デベナムズの名前を捨てて、新たな家を立て、男爵位を受け取って恭順の意を示せ。
なんだかんだ言って、この陛下政治的な勘はあるんだよな、とレジナルドは思った。
かくして、レジナルド・ウェイトローズ男爵、陛下付き第三文官が誕生したのである。
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「わらしべ悪役令嬢──婚約破棄されそうだということで勘当されましたが、なんだかどんどんのしあがっている気がします」の続編です。前編を読まなくても大丈夫なはずです。どうぞよしなに~。
王家が転覆したのである。
詳しいことは省くが、創世の神木龍が現れ、デベナムズ王家を廃し、当時第二王子の婚約者に過ぎなかった侯爵令嬢マリラ・ウルワースを新たな王として据えた。
神木龍といえば神と同義で、王国中に教会がある。顕現するなどまずない存在だ。
なにはともあれ、ここにウルワース王朝が誕生した。
王家と王国を揺るがしたこの事件の発端は、なんということはない、第二王子の浮気と、婚約破棄騒動だった。
全く自分には非はなかったのに、王太子としての地位を失うことになったレジナルド・デベナムズは、「ドミノ倒しのように地位を失った男」として「ドミノ倒し元王太子」と名を馳せることになった。
弟が浮気をしたら、その婚約者が勘当されて、貴族ではなくなった結果、神木龍の加護を得て、次の王に決まった。
……全くわけが分からない。
風が吹いたら桶屋が儲かるくらいわからない。
当人にもわからないのだから、周囲の人間にもわからないだろう、とレジナルドは思うのだが、何故か「つまり、こいつは既に王族ではないのだからバカにして良いのだ」ということだけはわかる人間が数多くいて、これはまた別の意味でレジナルドを驚かせた。
今までレジナルドにまとわりついてきた貴族令嬢たちもめっきり減った。
もとより、自分で選んで王太子になったわけではなかったので、当初の驚愕が落ち着いたところで、レジナルドは新たな仕事を探すことにした。
デベナムズ家は侯爵家の地位と決して広くはない地方の領地をもらったが、レジナルドはさっさと相続権を弟夫妻に譲った。
フワフワとしたところのある弟は、王族でなくなった今、自分で人生を切り開けそうにはなかった。
領地運営なら、なんとかできるだろう。一応部下がもり立ててくれそうだし。
「ということで、平民になるんじゃないかと思います」
そうレジナルドが報告するとマリラ女王陛下は首をかしげた。
「平民になりたかったんですか」
「そういうわけじゃないんですけどね」
あはは、とレジナルドは笑った。
あんたが俺の王位を取ったんだろう、という気はしないでもなかったが、まあ、なんというか、そういうめぐり合わせだったんだろう。
本人に悪気がないことはよく分かる。
「まあ、でも、ほら、マシューに普通に働ける感じ、しないじゃないですか」
「……まあ、確かに」
マリラは頷いた。
幼い頃から大好きだった婚約者だが、婚約破棄をした今振り返ると確かに「第二王子様」という立場が与えてくれる周囲の支援におんぶに抱っこだった感はないでもない。
「ま、その点、俺は文官仕事、めちゃくちゃしごかれたから、まあ、生きていけるかなって」
ということで、売り込みなんですけど、どうでしょうね、陛下、俺を雇わない?
元王太子はとても元王太子とは思えない口調で言った。
「む~」
マリラは唸った。
王太子殿下だった彼とマリラは表面上の付き合いしたことがなかった。
こんな人だっただろうか。
品行方正な王子様だと思っていたのだけれど。
ちょっと混乱するマリラをニコニコ見ていたレジナルドは、それから少しだけ真面目な顔になった。
「あとさ、俺みたいなのは側で見張ってた方が良いと思うわけよ、陛下」
「……それは」
「いやぁ、元王太子なんて反逆の旗印に担ぎ出したいやつがいつ出てきてもおかしくないじゃない。そばに置いて見張っているって形にしといたほうが良いと思うんだよね」
「そんなことをしても近づいて来る人は近づいて来るんじゃないかしら」
マリラがそう言うと、レジナルドは突然真顔になった。
「陛下、言葉遣い、変えたほうが良いですよ」
立場にあった言葉遣いってあるんですよ。
女言葉だとバカにされる、とレジナルドは言った。
「そうで……そうか」
「そうですよ。で、まあ、言葉遣いは、おいおい直していくとして、あと、あれですよ、ほら、俺が断りやすいじゃないですか、陛下に見張られてるからって」
「そ……そんなもの……か……」
「そんなものです。陛下付きの文官になったら四六時中一緒にいることになりますし」
レジナルドの言葉にマリラは、モジモジと、何か言いたそうにして……それから思い切ったように口を開いた。
「それはつまり……あの……」
「なんですか?」
「そなたの父親が……言ったこと……は……関係ないんで……だな……?」
「うちの父親が……ああ」
レジナルドは「マリラ・ウルワースと結婚しろ」と、タイミングも何も考えずに言い放った父親を思い出してポン、と手を叩いた。
「あー、王族の地位を確保するためにマリラ陛下と俺が結婚すればいいって言ってたあれ?! そんなのあるわけないじゃないですか」
「そ……そうか……そうだよな。それが狙いで文官として王宮に来ようと思ったってわけじゃ……」
「マリラ陛下と結婚したいのは王位のためじゃなくて、マリラ陛下が可愛らしくて素敵な女性だからですよ!」
「!!!」
ポンっ!
と、音がしそうな勢いでマリラは真っ赤になった。
「まあ、でも、これはこっちの単純な希望なんで、陛下にその気がないってコトはわかってます。ま、とりあえず陛下付き文官のチームに入れてくれるとありがたいです」
仕事はちゃんとしますよ、とレジナルドは笑った。
「待って……、いや、待て。それなら男爵位ぐらいは渡す」
マリラは慌てて言った。
「ただし、新たな家名と引き換えで良ければ、だが……」
デベナムズの名前を捨てて、新たな家を立て、男爵位を受け取って恭順の意を示せ。
なんだかんだ言って、この陛下政治的な勘はあるんだよな、とレジナルドは思った。
かくして、レジナルド・ウェイトローズ男爵、陛下付き第三文官が誕生したのである。
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「わらしべ悪役令嬢──婚約破棄されそうだということで勘当されましたが、なんだかどんどんのしあがっている気がします」の続編です。前編を読まなくても大丈夫なはずです。どうぞよしなに~。
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