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女王陛下(元悪役令嬢)と元王太子(現おやつ係)
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「……それでどうして私のところにレモンタルトを持ってくるんです……来るんだ?」
マリラ女王陛下はイライラしたようにサイドテーブルをトントンと指で叩いた。
「そりゃあ、俺が陛下を口説きたいからに決まってるでしょ」
「なっ……!」
マリラの顔が真っ赤になる。
「彼女と食べろって言われたし、食堂のレモンタルト美味しいんですよ。王族の厨房とは方向性の違う美味しさだから、多分好きなんじゃないかと思って」
俺が先に毒見しますね~。どっちがいいですか?と、2つの皿をマリラに見せると、レジナルドはマリラが選ばなかった方を自分の手元に引き寄せ、ぱくりと口に入れた。
「うん。安定の美味しさ……!」
「そ……そう……か……?」
マリラはつられたように自分のレモンタルトを口にいれると目を丸くした。
「美味しい……」
「でしょう?」
ちょっと素朴な感じのタルト台に、味のくっきりとしたレモンがうまく調和している。
「ま、陛下もそろそろ疲れが出てくる頃かと思ったんですよね。甘いものくらい、分かりやすいのを時々食べたくなるでしょ」
「……!」
王宮料理人の作る菓子は繊細で様々な仕掛けがしてある。それを味わい楽しむ贅沢に少し疲れていたことにマリラは気づいた。
「うちの両親とか時々こっそり町の菓子屋に従者を飛ばしてたよ」
「そ……そうか……」
「ああいう繊細な菓子って作るための技術を常に磨いてないといけないからさ、王族がある程度消費しないといけないんですけどね、まあ、がっつり甘いものが欲しくなるときだってあるじゃん」
「……そうだな……」
マリラの目が遠くなる。
「わたしはまだまだ……だな……」
「何をいきなり」
「ん~、王族としてもまだまだだし、女王としても。やりたいことも全然進まないし」
「あーまあ、いいんじゃないですかね」
レジナルドは一口紅茶を飲んだ。
「別にうちらと同じで良かったんだったらわざわざ神木龍さんも王族を入れ替えたりしなかったでしょ」
「そう……かな……」
「まあ、王宮の文官たちってちょっと使いこなすのが難しいからそこはできる限り手伝いますって」
「女王付き文官として?」
「女王付き文官としてでも、他の役割でも……」
意味ありげにマリラを見ると、女王は頷いた。
「そうか……それではレジナルドは私だけの……」
「貴女だけの……」
「オヤツ係に任命したい……」
照れ隠しなのか真っ赤になって上目遣いに自分を見てくるマリラにレジナルドは思わず吹き出した。
「承りました。それじゃあ俺は陛下のオヤツ係だということで」
「まずは女性文官を増やすことだな」
「女性ならではの視点を活かしてもらうんですね」
「うーん。そういうのとも違う」
「え」
レジナルドは少し驚いて聞き返した。
「違うんですか」
「うん。女性ならではの視点っていうのはあまり期待していない……っていうか、世界に女性がいるってことを、文官達が忘れなければそれでいいと思っている」
「……忘れますかね」
「仕事は忙しいじゃないか。忘れるんだよ、自分たちと違う体験をする人間がいるということを」
「そうか……」
確かに資材部の防災備蓄の偏りなんかはそのあたりが原因だ。
「無能だからじゃない。むしろ有能な人間ほど忘れる。だから、いろんな種類の人間が職場にいるといい」
「それで、イーディス・スペンサーですか」
「うん……うまくいくかな……」
「それは食堂のおばちゃん次第ですね」
でも手を尽くしたんですよ、これでも、とレジナルドは頭をかいた。
マリラ女王陛下はイライラしたようにサイドテーブルをトントンと指で叩いた。
「そりゃあ、俺が陛下を口説きたいからに決まってるでしょ」
「なっ……!」
マリラの顔が真っ赤になる。
「彼女と食べろって言われたし、食堂のレモンタルト美味しいんですよ。王族の厨房とは方向性の違う美味しさだから、多分好きなんじゃないかと思って」
俺が先に毒見しますね~。どっちがいいですか?と、2つの皿をマリラに見せると、レジナルドはマリラが選ばなかった方を自分の手元に引き寄せ、ぱくりと口に入れた。
「うん。安定の美味しさ……!」
「そ……そう……か……?」
マリラはつられたように自分のレモンタルトを口にいれると目を丸くした。
「美味しい……」
「でしょう?」
ちょっと素朴な感じのタルト台に、味のくっきりとしたレモンがうまく調和している。
「ま、陛下もそろそろ疲れが出てくる頃かと思ったんですよね。甘いものくらい、分かりやすいのを時々食べたくなるでしょ」
「……!」
王宮料理人の作る菓子は繊細で様々な仕掛けがしてある。それを味わい楽しむ贅沢に少し疲れていたことにマリラは気づいた。
「うちの両親とか時々こっそり町の菓子屋に従者を飛ばしてたよ」
「そ……そうか……」
「ああいう繊細な菓子って作るための技術を常に磨いてないといけないからさ、王族がある程度消費しないといけないんですけどね、まあ、がっつり甘いものが欲しくなるときだってあるじゃん」
「……そうだな……」
マリラの目が遠くなる。
「わたしはまだまだ……だな……」
「何をいきなり」
「ん~、王族としてもまだまだだし、女王としても。やりたいことも全然進まないし」
「あーまあ、いいんじゃないですかね」
レジナルドは一口紅茶を飲んだ。
「別にうちらと同じで良かったんだったらわざわざ神木龍さんも王族を入れ替えたりしなかったでしょ」
「そう……かな……」
「まあ、王宮の文官たちってちょっと使いこなすのが難しいからそこはできる限り手伝いますって」
「女王付き文官として?」
「女王付き文官としてでも、他の役割でも……」
意味ありげにマリラを見ると、女王は頷いた。
「そうか……それではレジナルドは私だけの……」
「貴女だけの……」
「オヤツ係に任命したい……」
照れ隠しなのか真っ赤になって上目遣いに自分を見てくるマリラにレジナルドは思わず吹き出した。
「承りました。それじゃあ俺は陛下のオヤツ係だということで」
「まずは女性文官を増やすことだな」
「女性ならではの視点を活かしてもらうんですね」
「うーん。そういうのとも違う」
「え」
レジナルドは少し驚いて聞き返した。
「違うんですか」
「うん。女性ならではの視点っていうのはあまり期待していない……っていうか、世界に女性がいるってことを、文官達が忘れなければそれでいいと思っている」
「……忘れますかね」
「仕事は忙しいじゃないか。忘れるんだよ、自分たちと違う体験をする人間がいるということを」
「そうか……」
確かに資材部の防災備蓄の偏りなんかはそのあたりが原因だ。
「無能だからじゃない。むしろ有能な人間ほど忘れる。だから、いろんな種類の人間が職場にいるといい」
「それで、イーディス・スペンサーですか」
「うん……うまくいくかな……」
「それは食堂のおばちゃん次第ですね」
でも手を尽くしたんですよ、これでも、とレジナルドは頭をかいた。
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