ドミノ倒し元王太子(22)――元悪役令嬢に仕事をもらったらなんだかどんどん事態が転がるんですけど?

新田 安音(あらた あのん)

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図書室司書長と歴史典礼部長

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「はあ?」
歴史課長からの報告を受けて歴史典礼部長は大声をあげた。全く想像もしていなかった事を言われたからである。

「ですから、図書室を使うことができません。現在、職員の全員が、何らかの形での罰則規定に引っかかっています」
「罰則規定?」
思わず聞き返してしまったのも無理はない。罰則があることは知っていたが、今までは目をつぶってくれていたのだ。

「一番多いのは返却遅延ですね。日数に応じて最大半年までの貸し出し禁止か、罰金になってます。業務上の理由で借りているので、罰金を選ぶのであれば、支払いは我が部の予算からするべきかと」
「……どのくらいなんだ?」
「罰金ですか?きちんとした金額は計算しないとわかりませんが、まあ、ざっくり見積もっても……」
金額を聞いた歴史典礼部長は唸った。払えないことはない。しかし相当な金額である。

報告してきたのは歴史課長で、そこにもイラッとした。今までも図書室の罰則規定についてうるさく言ってきていた歴史課の言うことだから、多少大げさに騒いでいるのだろうと、歴史典礼部長は考えた。

(今までも、若手には図書室の使い方をしっかりと教え込むべきだとか、何だとかうるさかったしな。優先順位の付け方が下手な奴だ)

「わかった。お前ではらちがあかないだろう。直接行って話して来る」

立ち上がって部屋を出ていく部長を課長は冷ややかに見送った。




「ムムムムリです」
予想に反して司書長は頑固だった。
「いいいいまでももも、たたたたいいへんなんです。たたたたとえばばば、せせせんしゅうは『おおおお王こここ国のれれれ冷害史』がぶぶぶ文学のたたた棚に返してありました」

「ああ……あれは……」
歴史典礼部長は少し言い淀んだ。
その本を借りたのは自分だという自覚があったのだ。
「いいいま、ととと図書室は、カタカタログ化かかのささ作業中なんです」
「ああ……それはわかっていたが……」
「きききのう、か…かく…確認作業をしましました」
司書長がベルを鳴らすと奥から部下が現れた。
「せ、せ、説明しししてしてあげて」

緊張すると吃音がひどくなることがわかっていた司書長は、読み上げのための人員を用意していたのだ。これは彼が相当本気だということだった。
(まずい)
歴史典礼部長は背中に汗がつたうのを感じた。

「昨日の調査の結果を読みあげますね」
職員は手元の紙を見るとスラスラと読み上げた。
「現在返却期限切れの書籍は398冊、そのうち376冊が歴史典礼部の職員によって借り出されています。レキテン部は、他の箇所よりも借りられる冊数、期限共に余裕を持たせた設定になっていますが、それでも大幅に延滞しているケースが目立ちます。また、この376冊のうち、22冊が返却手続きをせずに、本棚に戻されていました」
「い……急いでいて手続きを忘れただけだろう……返したんだからいいじゃないか」
「確かにお急ぎだったのかも知れません。しかし、あまりにも長い間返却されていない場合は紛失として処理されます。たまたま司書長が見つけることができましたからよかったものの、紛失扱いとなったら、現在の罰金の数倍にはのぼっていたでしょう」
「……」
「こういった無造作に返されている書籍によって派生している仕事の量が極めて多いことをご理解いただければ幸いです」
「すまない、しかしこの金額というのは流石に……」
「図書室では書籍の修理も行なっています。ほとんどは経年劣化による破損ですが、そうでない破損もあります。明らかにぞんざいにい扱われていたり、ひどい場合はお茶がこぼされていたり、ページのすみが折ってあったり……経年劣化以外の理由で現在修理待ちの書籍の89%が歴史典礼部に貸し出したものです。修理にかかった材料代だけでも今回の罰金だけでは賄うことができません」
「本当に申し訳ない……しかし、我々の仲ではないか……」
「昨年から何度か通告とお願いをお送りしておりますが、ご覧いただいておりましたでしょうか」
「う……」
部長は言葉につまった。
また何か文句を言っているだろうくらいの感覚でずっと無視していたのだ。一体ここからどうすれば抜け出せるか、と必死に考えを巡らせていた彼は次の職員の言葉に、後ろから殴られたような衝撃を受けた。

「レジナルド文官に言われた通りでした。1日かかりましたが、確認したところ、ここ数年の歴史典礼部の図書室の使い方は非常に問題があり、わたしたちとしてもこれ以上、今までのやり方を続けていくことはできません。ご理解ください」


(あ、あ、あ、あのドミノ倒し王子~!)
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