ドミノ倒し元王太子(22)――元悪役令嬢に仕事をもらったらなんだかどんどん事態が転がるんですけど?

新田 安音(あらた あのん)

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資材部と王宮図書室司書長

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今日も王宮図書室は静かに戦っていた。

図書室の戦いは混沌との戦いである。
世界は混沌としており、書籍はその混沌に秩序を与える。
王宮図書室司書長が知る限り、その秩序を保つことこそが図書室の使命であった。

図書室の予算は少ない。
書籍は寄付されてくるので少なくともなんとかなるだろうと経理部が考えるからだ。
かつては王太子が何かとわがままを言って、椅子を修理する予算や暖房を入れる予算などを獲得してくれたものだった。
しかし、その王太子も今は「雑魚キャラ」とか言うものになってしまったのだと歴史典礼部長に教えられた。
極めて遺憾である。
王太子は書籍への造詣も深く、話していて楽しい相手だったのだが。

友人の少ない司書長にとって、歴史典礼部長は数少ない友人と呼べる人間であるが、しかし、歴史典礼部の職員の図書室の使い方には確かに最近目に余るものがあった。
レジナルド第三文官が指摘したように、調べればわかることをわざわざ聞いてきたり、本を所定の場所に返さなかったり。
書籍の破損も激しく、修理には高価なマクマーン紙を使わなければならない。
職員の人手がそこにさかれてしまうと、カタログ化の作業がさらに遅れてしまう。カタログが整備できないと、司書の仕事がさらに増える。
悪循環とはこのことだ。

司書長は毎朝図書室を隅から隅まで歩いて回る。あるべきところではないところにある本など、そこで気づいた場合には少しだけ引き出しておく。
後に職員が走り回って正しい場所に戻すのだ。

「司書長……司書長!」
そんな司書長に、職員が数名、真っ青な顔で話しかけてきた。
資材部が、マクマーン紙をきちんと計上するよう求めてきたのだという。予算分は既に使い切っているのだから、と。
もちろん、きちんと計上するべきだということはわかっていた。
今までは何枚かずつ、資材部での破損という形で目こぼしをしてもらっていたはずだ。

「ここのところ、歴史典礼部から返ってくる本に破損が多くて……」
しょんぼりと職員が説明する。
「修理にものすごい時間が取られてたんですけど、マクマーン紙もずいぶん使ったから、多分これ以上目こぼしをできる状態じゃなくなったんだと思います……」

「そうですか……」
司書長はため息をついた。
もともとが図書室の予算は少ないのだ。これ以上、マクマーン紙をふんだんに使えなくなるのであれば、どこから予算を引っ張ってこればいいのか……。

「歴史典礼部がもう少しきちんとした図書室の使い方をしてくれれば良いんですよ」
「今の部長になる前はここまでひどくなかったよな……」
「資材部から、そういえば聞かれました。『何かレジナルド第三文官に言われたことはないですか』って……」

「……わかりました」
王宮図書室司書長は、図書室を混沌から救うため、一つの覚悟を決めた。
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