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3巻
3-2
南国らしい風通しの良さそうな回廊を通り抜けると、これまた南国独特の極彩色の彩に満ちた庭園が広がる。
自らの内に眠る雅晴にしても左内にしても見たことのない情景に、バルドは軽く目を見張った。
(まったく、大使などという公務でなければ、いろいろと羽を伸ばして楽しむところなのに……)
「お気に入りくださったようですな」
「はい、マウリシアではなかなか見られぬ見事な庭園で」
そんな表情の変化に気づいたのか、セパタが興味深そうにバルドの目を覗きこむ。
どうやら外見に似合わず気の付く男であるらしい。物腰や態度から察するに、上級貴族の出身なのかもしれない。
「この庭園の草木は、大陸広しと言えど、このサンファンでしか育たぬものばかり。お国自慢ながら、確かに滅多にお目にかかれるものではありませぬ」
誇らしげに胸を張るセパタにバルドは好感を持った。
これほど素直に祖国を誇りに思えるのは、王家に対する不満が少ないことを意味していた。
「どうぞお進みください。国王陛下がお待ちです」
その身長よりもさらに巨大な扉の前で、セパタはゆっくりと腰を折る。
この先はバルドたちだけで行かなければならないらしい。
バルドはセパタに向かって一礼すると、手のひらで扉を押した。
かなりの重さであるはずの扉は、まるで油でもさしたかのようになんの抵抗もなく、バルドの目の前で開いていった。
扉の先には、意外にもごく少数の人間しかいない。
数百人は軽く収容できるはずの空間に、ほんの十人足らずが並んだ光景は、いっそ物悲しいとさえ思えた。
現国王カルロス五世は、サンファン王国を海洋国家として発展させた名君として知られているが、反面戦に弱く、たびたび海戦で敗れた過去を持つ。
そのためサンファン王国では、武官の地位が相対的に上昇していた。
しかし軍務卿経験者の宰相ホアンが、先ごろのコレラで病死したことで、宮廷の空気は変わりつつある。
戦が遠ざかれば文官が台頭するのは道理であり、生産性のない軍事が平時には削減されることもまた、歴史の証明するところであるからだ。
彼ら文官は今回の後継者問題に際して、聡明で温厚な第二王子フランコを支持し、サンファン王国内の勢力図を塗り替えようと画策していた。
公爵家出身の母を持ち、宮廷内で圧倒的な支持を得ているフランコが、決して安閑としていられない理由が、実はここにある。
文官の巻き返しを恐れた軍部が、同じ海軍国同士で同盟国でもあるマジョルカ王国を後ろ盾に、第三王子ペードロを推戴することに決めたからだ。
「余がサンファン国王カルロスである。マウリシア国王のご配慮痛み入る」
「お初に御意を得ます、バルド・セヴァーン・コルネリアス男爵でございます。拝謁のご叡慮を賜り恐悦至極に存じ上げます」
まだ四十代の男の盛りであろうに、カルロスの様子はまるで、六十代も後半に差し掛かったような衰え具合であった。
目は落ちくぼみ肌の色は浅黒く艶を失って、血色の悪さが一目瞭然である。
将来を期待していた長男を失ったのだから、仕方のないことかもしれないが、これは……。
「先日教えていただいた疫病の治療法には、感謝の言葉しかない。おかげでようやく感染も収束し、犠牲者も予想の半数以下にまで減らすことができた。もう少し早く知ることができれば……いや、これは言っても詮無い話だな」
最初から適切な治療ができていれば、アブレーゴ王子が助かった可能性は高い。しかし、マウリシアのレイチェル王女より早く発病していた王子に、治療法を届けることは不可能だった。
もちろんカルロスもその程度のことは承知している。
「図々しい願いだとわかってはいるが、治療法がマウリシアから伝えられたということは内密に願いたい。少なくともしばらくの間は」
「――もとより公にするつもりはございません」
バルドの返答を聞くと、カルロスは疲れたように太いため息をつく。
大きな身体と広い肩が悄然として、見た目よりはるかに小さく感じられた。
「すまぬ……今、王権が揺らぐような事態があってはならぬのでな」
要するに、コレラの感染拡大にアブレーゴが一役買っていたという事実が大きい、ということだ。
そのために犠牲になった貴族や国民の間で、不満が高まっているのだろう。
もともと今回のコレラは娼館で発生したもので、アブレーゴも犠牲者の一人なのだが、宮廷内に病原菌を持ち込んでしまったのは間違いなくアブレーゴである。
そのわだかまりを落ち着かせ、王室に対する尊崇を維持するために、コレラの治療法は王家が発見したということにしたいらしかった。
さらにバルドが発明し、今回技術を提供する予定の手押しポンプの普及も、王家の人気取りとして利用するに違いない。
マウリシア王国としては、サンファン王国が政治的に安定してくれることが国益につながる以上、それらの要求は想定の範囲内であり、バルドに含むところは何もなかった。
「我が陛下におかれては、万難を排してカルロス陛下の要望に応えるようにとのこと。お気遣いは無用でございます」
「うむ、この借りは終生忘れぬ」
カルロスの言葉には万金の価値があった。
この言葉が引き出せただけで、バルドの目的は半ば以上達せられたと言ってよい。君主の他国に対する誓約には、それだけの重みがあるのだ。
いずれ対トリストヴィーで共闘しようというマウリシア側の思惑を、カルロスほどの男が見抜いていないはずがなかった。
事実上、マウリシア王国とサンファン王国の間で秘密同盟が結ばれたに等しい。
「バルド男爵に我が息子を紹介しておこう……来なさい、フランコ」
カルロスの言葉を受けて、国王の右に控えていた少年が、俯かせていた顔を上げた。
その顔を見たバルドは思わず言葉を失う。
バルド自身も女の子と間違えられるような容姿の持ち主ではある。しかし身体つきはほぼ一人前の男であり、ここ数年で見間違えられたことは一度もない。
一方、フランコの玲瓏な顔立ちは、どう見ても美しい少女以外のものには見えなかった。
燃えるように煌めく赤毛に、切れ長の濡れた瞳。整った小さな鼻梁と真っ赤に熟れたような唇は、雅晴の記憶にある宝塚歌劇団の女優を思い起こさせる。
女性的な風貌の男性というより、男装の麗人と表現したほうがよほど正確なように思われた。
「フランコ・コルドバ・デ・サンファンでございます。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ、殿下の知遇を得られ恐縮至極」
嫋やかな柳腰を揺らして優雅に頭を下げるフランコに、慌ててバルドは礼を返す。
そのためバルドは、思わず口をついて零れたらしい、昔馴染の問題あり過ぎる独り言を聞き逃してしまった。
「おお……なんと美しい! あれが男性とは、神のお導きか!」
もし聞こえていたら、バルドは全力でこの同行者を殴り倒していたかもしれない。
同性に強い性的興味を持っているはずのテレサは、いまや恋する乙女の顔で、食い入るようにフランコを見つめていた。
テレサが己の性癖を自覚したのは八歳のころである。
それ以前、バルドと知り合ったときなどは、娘をバルドの嫁にと目論んでいた父マティスに「バルドと遊んでどう思ったか」と聞かれて、「なかなか面白いやつ」と漠然と答えていた。
その後、親の期待とは裏腹に、バルドとは仲良くなったものの男女の感情が芽生えることはなく、むしろバルドの傍にいた美少女セイルーンへの想いが募った。
小さくて愛らしいものが好きなのは、自分が女であるからだと思っていたが、やがて他の女性の好きと自分の好きは違うらしいことに気づく。
テレサの幼馴染に、リナという少女がいた。
くるくるとせわしく動き回る活発さが特徴的な美少女で、よくテレサを連れ出しては川や湖でママゴトをして遊んだ。
やがて二人は歳を経て、ある日リナは恋をする。
相手はリナの兄の友人である商人の息子で、二つ年上の頭の良さそうな少年だった。
恋に目覚めたリナの、美しく咲いた華のような、零れんばかりの輝きに、テレサの胸は騒いだ。
生まれて初めて感じる猛烈な嫉妬が、親友を奪われるという理由から来ているのではないことに、そのときテレサはようやく気づいたのである。
リナを愛している。
あの小柄な身体を抱きしめたい。
日焼けした健康的な小麦色の肌をペロペロしたい。
具体的には、女の子の秘密の大事な部分をああしてこうして……。
なぜか蕩けるような微笑を浮かべて、真っ赤に頬を染める怪しいテレサがそこにいた。
要するに自分が欲情を覚えるのは、どういう神の悪戯か同性の美しい少女だけであるらしい、とテレサは悟ったのだ。
のちにセイルーンをはじめとする数々の美少女を、恐怖のどん底に追い込むセクハラ魔神テレサ爆誕の瞬間であった。
もちろん彼女の初恋の告白が、「変態!」の名のもとにむなしく砕け散ったのは言うまでもない。
その変態テレサともあろうものが、れっきとした男性のフランコから一瞬たりとも視線を外せなかった。
先日、バルドより一足早く十五歳の誕生日を迎えたテレサにとって、ここまで男に心を奪われるのは初めての経験であった。
テレサにとっては珍しい、男の友人であるバルドに出会ったときですら、これほどの心の衝撃を感じることはなかった。
心臓を鷲掴みにされたかのように胸が苦しい。
傲岸不遜を絵に描いたようなテレサが、息を殺してただ見つめているだけしかできないなど、バルドが気づけば目を剥いて驚くだろう。
「ああ……なんて美しいんだ……この世にこれほど美しい存在があったのか」
そう、フランコは他の誰よりも美しく妖艶だった。
問題があるとすれば、その美しさが決して男性としてのものではなく、女性としてのものであるということだった。
「ようこそサンファン王国へ。とりわけ、我が国にあの恐るべき伝染病の治療法をもたらしてくれたバルド男爵には、どれだけ感謝しても足りません」
これまた男性のものとしては、甲高く細いソプラノで礼を述べながら、フランコ王子は頭を垂れた。
実際のところ、アブレーゴがもたらしたコレラは、王室に深刻な危機をもたらしていた。
フランコは発病こそしなかったものの、マウリシアからの情報通り、病人を隔離して感染者の排泄物を適切に処理していなければ、どうなっていたことか。
可能性としては国王をはじめ、王族が全滅することすらありえた。
王室の名誉とその存続を守ったという点において、バルドはまさに救国の恩人と言っても差し支えないのであった。
おそらくウェルキンが、幼いバルドを大使として送り出した理由も、そのあたりにあるのだろう。
くつくつと悪人顔で嗤うウェルキンの姿が目に浮かぶようだ。
「都合上、表立って表彰することはできないが、私で力になれることなら可能な限り力になろう。年齢も近いことだし、友人として付き合ってもらえればありがたい」
フランコは十七歳の誕生日を迎えたばかりだが、バルドを見て、彼が十四歳の半ばとは到底思えなかった。むしろ自分より年上なのではないかと感じるほどだ。
年齢に似合わぬ重責と、生まれ持った才能を持つ者同士、フランコがバルドに親近感を覚えたのは当然のことなのかもしれなかった。
それにしても――とフランコは思う。
先ほどから自分を凝視している赤毛の少年は何者なのだろう?
あの熱に浮かされたような熱い眼差しに、覚えがないではない。
フランコの身分を知らぬ騎士が、稀に彼のことを女性だと思って、凝視してくることはあった。ただ、男性があそこまで露骨な視線で見つめてくるのは珍しい。
よく見れば女たちを騒がせそうな、なんとも美しい美丈夫である。
淡い赤毛に好奇心の強そうな大きな瞳が特徴的で、しなやかな均整のとれた体格も、艶のある白磁のような肌も、男性にしておくのが惜しいと思えるほどだ。
率直にいって、フランコの好みに合致する、と言ってもよい。
いつも視線を集めることには慣れているはずのフランコだが、なぜか心臓がドキリと跳ねたような気がして、笑顔を保つことに苦労した。
「フランコには立場上、ほとんど友らしい友がおらん。バルド卿も遠慮なく相手をしてやってくれ」
「……それでは卑小の身ではございますが、お言葉に甘えまして……バルドとお呼びいただければありがたい」
これまで沈黙していたテレサが、衝動に突き動かされるように叫んだのはそのときだった。
「私の名はテレサ・ブラッドフォードと申します。どうか私も、殿下の友人の列にお加えくださいませ!」
「え……? あなたは女性……なのですか?」
これまでずっとテレサを少年だと思い込んでいたフランコは、驚きの声を上げた。
思わず絶望的に平坦な胸に目が向くが、凛々しい騎士服に身を包んだテレサの佇まいはまさに男装の麗人と呼ぶべきもので、彼女が女性と知って驚いたのはフランコばかりではなかった。
国王カルロスもまた、驚きに立ち上がりテレサを見つめたのだ。
「――ブラッドフォードというと、マティス子爵のご息女か?」
「はい。父は辺境の田舎領主でございますが、よく御存じで」
「マティス殿には蒼炎騎士団におられたときに一度な。あのときすでにマティス殿は副団長であったが、実力では騎士団随一と呼ばれていたものだ」
母の尻に敷かれているあの父が、他国まで勇名を轟かせていたとは。
一言口を開けば「女らしくしろ」「嫁に行け」とうるさいが、思ったより有能であったらしいと、テレサはわずかだが父を見直した。
だからといってマティスの言うことを聞くつもりは微塵もなかったけれど。
テレサにマティスの面影を見たのか、カルロスは疲れた顔から一転して、楽しそうに微笑んでいる。
過ぎ去った懐かしい日々を思い起こして、多少ながら鬱屈した気分から回復したらしかった。
「さあ、ペードロも挨拶しなさい」
「はい、父上」
カルロスに勧められて、もう一人の少年が意気揚々と進み出た。
活発そうな覇気と浅黒い南国特有の肌は、どうやらマジョルカ王国出身である母譲りの血が強く出たようであった。
「ペードロ・マジョルカ・デ・サンファンです。お会いできてうれしく思います!」
嘘のつけない正直そうな少年である。
これで、実はフランコと王位を争っているとは、傍目からは想像もつかない。
もしかしたら彼自身、そんな自覚はまったくないのかもしれなかった。
(やれやれ……どちらに転んでも厄介なこと、このうえないじゃないか。あの狸め……)
第二王子フランコ十七歳、第三王子ペードロ十三歳、ともにバルドたちとは近しい年頃である。
それぞれ自らの派閥を抱えているとはいえ、若い彼らの本音を聞き出すのにバルドほどの人材はいないだろう。
すでに王子たちも、警戒心より好意を抱いたように感じられる。
年齢が幼いということは、それだけで相手の警戒心を削ぐことができるものだ。それは他国の王族といえど例外ではない。
おそらくバルドを大使に任じたウェルキン国王は、そこまで想定していたのだろう。
なるほど、腹黒い狸と言われても仕方があるまい。
バルドが望むと望まざるとにかかわらず、王族との接近はバルドに様々な情報と干渉をもたらすはず。そうして得た情報を利用してマウリシア王国に国益をもたらす義務が、バルドにはある。
厄介過ぎる状況に頭を抱えたいバルドの隣で、テレサは満面の笑みを浮かべたまま、フランコに熱い視線を送り続けていた。
対するフランコもその視線を不快なものとは感じておらず、むしろ心なしか、顔の血行がよくなったような気がした。
「面白くもない! マウリシアの使者ごときにペコペコしおって!」
軍務卿であるサンタクルズ侯爵は、マウリシア王国大使の挨拶の席から自分が締め出されたことに、憤りを隠せなかった。
どうやら宰相以外は王族しか立ち会わなかったらしい。
薄々ではあるが、強くなり過ぎた軍部の力を国王が削ぎにかかったことを実感しているサンタクルズの危機感は深刻である。
このままでは、重要な意思決定に軍部は何も関わることができないまま、衰退の道を辿ることになるであろう。
それはサンファン王国の安全保障上、決して容認することのできない事態であった。
「……トリストヴィーの連中が、内戦の影響で海賊をのさばらせてしまっているというのに……まったく、あの戦下手は何もわかっておらん!」
戦下手とはもちろん、主君カルロスのことである。
政治家としては有能だが、海戦の才能が皆無であるカルロスは、内乱で疲弊したはずのトリストヴィー公国艦隊にすら連敗した。
現在、サンファン王国がマルマラ海で一定以上の影響力を行使できるのは、マジョルカ王国との同盟と、王に代わって海戦の指揮をとった英雄ディエゴ・デ・モリアスがいたからこそだ。
彼の英雄が早逝しなければ、今のこの体たらくはなかったかもしれない。
稀有な戦術指揮能力で幾たびもの海戦に勝ち続けてきたディエゴは、船上で病を発し、陸地の優秀な治癒師の治療を待つことなく、彼が愛した船上で病死した。
軍務卿への昇進を断り、現場にこだわった英雄に相応しい死と言うべきかもしれない。
しかし、望めば宰相にすら手が届いたであろうディエゴの死は、間違いなく軍部の求心力を失わせることとなった。
そこにきて先ごろの、海軍出身の宰相ホアンの病死である。
いかに軍といえども、実戦部隊だけで構成されているわけではない。
むしろ軍という組織は、一般の行政組織以上に、事務系官僚による予算獲得という煩雑な政治的交渉能力を必要とする。
もしかしたらディエゴは、そうした暗闘の醜さを嫌って、現場に留まっていたのかもしれなかった。
しかし現実に軍を預かる者として、サンタクルズはディエゴのように潔癖でいるわけにはいかない。彼には部下の生活を守る責任があり、軍のポストや人員の削減を受け入れることなど、決してできないのだ。
官僚は往々にして、組織の権益を守るために国益に反する行動を取るものだが、戦場では勇猛で部下思いの名将として名高いサンタクルズでも、そうした官僚の宿痾とは無縁でいられないのであった。
「……なんとしてもペードロ殿下にご即位いただかなければ……殿下自身が幼過ぎて役に立たんのが困りものだが……」
なれば傀儡として利用する価値もある。
世の中はとかく都合よく良いところだけ、というわけにはいかないのだ。
すでにフランコ王子のもとに貴族と文官勢力が結集している以上、今さら軍がフランコを支持しても得るものは少ない。
軍の権益を守るためには、フランコ王子を出し抜いて、何としてもペードロ王子に王太子となってもらわなければならなかった。
問題は、宮中の貴族と違い、軍部の武官にそうした政治的工作を得手とする人材が非常に少ないということである。
噂話から賄賂、ハニートラップに義理人情まで動員した面倒な裏工作は、軍務卿として行政に携わるサンタクルズ自身も苦手とするところであった。
軍という暴力装置を握っているため、迂遠な解決手段を弄するより、直接的な対処を好む傾向が軍出身者にはある。
「……バルトロメオを呼べ」
サンタクルズは呼び鈴を鳴らして秘書に短く命じる。
その名が軍の秘密諜報部の長であることを知っていた秘書は、緊張に顔を強張らせて、主のために深々と腰を折った。
自らの内に眠る雅晴にしても左内にしても見たことのない情景に、バルドは軽く目を見張った。
(まったく、大使などという公務でなければ、いろいろと羽を伸ばして楽しむところなのに……)
「お気に入りくださったようですな」
「はい、マウリシアではなかなか見られぬ見事な庭園で」
そんな表情の変化に気づいたのか、セパタが興味深そうにバルドの目を覗きこむ。
どうやら外見に似合わず気の付く男であるらしい。物腰や態度から察するに、上級貴族の出身なのかもしれない。
「この庭園の草木は、大陸広しと言えど、このサンファンでしか育たぬものばかり。お国自慢ながら、確かに滅多にお目にかかれるものではありませぬ」
誇らしげに胸を張るセパタにバルドは好感を持った。
これほど素直に祖国を誇りに思えるのは、王家に対する不満が少ないことを意味していた。
「どうぞお進みください。国王陛下がお待ちです」
その身長よりもさらに巨大な扉の前で、セパタはゆっくりと腰を折る。
この先はバルドたちだけで行かなければならないらしい。
バルドはセパタに向かって一礼すると、手のひらで扉を押した。
かなりの重さであるはずの扉は、まるで油でもさしたかのようになんの抵抗もなく、バルドの目の前で開いていった。
扉の先には、意外にもごく少数の人間しかいない。
数百人は軽く収容できるはずの空間に、ほんの十人足らずが並んだ光景は、いっそ物悲しいとさえ思えた。
現国王カルロス五世は、サンファン王国を海洋国家として発展させた名君として知られているが、反面戦に弱く、たびたび海戦で敗れた過去を持つ。
そのためサンファン王国では、武官の地位が相対的に上昇していた。
しかし軍務卿経験者の宰相ホアンが、先ごろのコレラで病死したことで、宮廷の空気は変わりつつある。
戦が遠ざかれば文官が台頭するのは道理であり、生産性のない軍事が平時には削減されることもまた、歴史の証明するところであるからだ。
彼ら文官は今回の後継者問題に際して、聡明で温厚な第二王子フランコを支持し、サンファン王国内の勢力図を塗り替えようと画策していた。
公爵家出身の母を持ち、宮廷内で圧倒的な支持を得ているフランコが、決して安閑としていられない理由が、実はここにある。
文官の巻き返しを恐れた軍部が、同じ海軍国同士で同盟国でもあるマジョルカ王国を後ろ盾に、第三王子ペードロを推戴することに決めたからだ。
「余がサンファン国王カルロスである。マウリシア国王のご配慮痛み入る」
「お初に御意を得ます、バルド・セヴァーン・コルネリアス男爵でございます。拝謁のご叡慮を賜り恐悦至極に存じ上げます」
まだ四十代の男の盛りであろうに、カルロスの様子はまるで、六十代も後半に差し掛かったような衰え具合であった。
目は落ちくぼみ肌の色は浅黒く艶を失って、血色の悪さが一目瞭然である。
将来を期待していた長男を失ったのだから、仕方のないことかもしれないが、これは……。
「先日教えていただいた疫病の治療法には、感謝の言葉しかない。おかげでようやく感染も収束し、犠牲者も予想の半数以下にまで減らすことができた。もう少し早く知ることができれば……いや、これは言っても詮無い話だな」
最初から適切な治療ができていれば、アブレーゴ王子が助かった可能性は高い。しかし、マウリシアのレイチェル王女より早く発病していた王子に、治療法を届けることは不可能だった。
もちろんカルロスもその程度のことは承知している。
「図々しい願いだとわかってはいるが、治療法がマウリシアから伝えられたということは内密に願いたい。少なくともしばらくの間は」
「――もとより公にするつもりはございません」
バルドの返答を聞くと、カルロスは疲れたように太いため息をつく。
大きな身体と広い肩が悄然として、見た目よりはるかに小さく感じられた。
「すまぬ……今、王権が揺らぐような事態があってはならぬのでな」
要するに、コレラの感染拡大にアブレーゴが一役買っていたという事実が大きい、ということだ。
そのために犠牲になった貴族や国民の間で、不満が高まっているのだろう。
もともと今回のコレラは娼館で発生したもので、アブレーゴも犠牲者の一人なのだが、宮廷内に病原菌を持ち込んでしまったのは間違いなくアブレーゴである。
そのわだかまりを落ち着かせ、王室に対する尊崇を維持するために、コレラの治療法は王家が発見したということにしたいらしかった。
さらにバルドが発明し、今回技術を提供する予定の手押しポンプの普及も、王家の人気取りとして利用するに違いない。
マウリシア王国としては、サンファン王国が政治的に安定してくれることが国益につながる以上、それらの要求は想定の範囲内であり、バルドに含むところは何もなかった。
「我が陛下におかれては、万難を排してカルロス陛下の要望に応えるようにとのこと。お気遣いは無用でございます」
「うむ、この借りは終生忘れぬ」
カルロスの言葉には万金の価値があった。
この言葉が引き出せただけで、バルドの目的は半ば以上達せられたと言ってよい。君主の他国に対する誓約には、それだけの重みがあるのだ。
いずれ対トリストヴィーで共闘しようというマウリシア側の思惑を、カルロスほどの男が見抜いていないはずがなかった。
事実上、マウリシア王国とサンファン王国の間で秘密同盟が結ばれたに等しい。
「バルド男爵に我が息子を紹介しておこう……来なさい、フランコ」
カルロスの言葉を受けて、国王の右に控えていた少年が、俯かせていた顔を上げた。
その顔を見たバルドは思わず言葉を失う。
バルド自身も女の子と間違えられるような容姿の持ち主ではある。しかし身体つきはほぼ一人前の男であり、ここ数年で見間違えられたことは一度もない。
一方、フランコの玲瓏な顔立ちは、どう見ても美しい少女以外のものには見えなかった。
燃えるように煌めく赤毛に、切れ長の濡れた瞳。整った小さな鼻梁と真っ赤に熟れたような唇は、雅晴の記憶にある宝塚歌劇団の女優を思い起こさせる。
女性的な風貌の男性というより、男装の麗人と表現したほうがよほど正確なように思われた。
「フランコ・コルドバ・デ・サンファンでございます。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ、殿下の知遇を得られ恐縮至極」
嫋やかな柳腰を揺らして優雅に頭を下げるフランコに、慌ててバルドは礼を返す。
そのためバルドは、思わず口をついて零れたらしい、昔馴染の問題あり過ぎる独り言を聞き逃してしまった。
「おお……なんと美しい! あれが男性とは、神のお導きか!」
もし聞こえていたら、バルドは全力でこの同行者を殴り倒していたかもしれない。
同性に強い性的興味を持っているはずのテレサは、いまや恋する乙女の顔で、食い入るようにフランコを見つめていた。
テレサが己の性癖を自覚したのは八歳のころである。
それ以前、バルドと知り合ったときなどは、娘をバルドの嫁にと目論んでいた父マティスに「バルドと遊んでどう思ったか」と聞かれて、「なかなか面白いやつ」と漠然と答えていた。
その後、親の期待とは裏腹に、バルドとは仲良くなったものの男女の感情が芽生えることはなく、むしろバルドの傍にいた美少女セイルーンへの想いが募った。
小さくて愛らしいものが好きなのは、自分が女であるからだと思っていたが、やがて他の女性の好きと自分の好きは違うらしいことに気づく。
テレサの幼馴染に、リナという少女がいた。
くるくるとせわしく動き回る活発さが特徴的な美少女で、よくテレサを連れ出しては川や湖でママゴトをして遊んだ。
やがて二人は歳を経て、ある日リナは恋をする。
相手はリナの兄の友人である商人の息子で、二つ年上の頭の良さそうな少年だった。
恋に目覚めたリナの、美しく咲いた華のような、零れんばかりの輝きに、テレサの胸は騒いだ。
生まれて初めて感じる猛烈な嫉妬が、親友を奪われるという理由から来ているのではないことに、そのときテレサはようやく気づいたのである。
リナを愛している。
あの小柄な身体を抱きしめたい。
日焼けした健康的な小麦色の肌をペロペロしたい。
具体的には、女の子の秘密の大事な部分をああしてこうして……。
なぜか蕩けるような微笑を浮かべて、真っ赤に頬を染める怪しいテレサがそこにいた。
要するに自分が欲情を覚えるのは、どういう神の悪戯か同性の美しい少女だけであるらしい、とテレサは悟ったのだ。
のちにセイルーンをはじめとする数々の美少女を、恐怖のどん底に追い込むセクハラ魔神テレサ爆誕の瞬間であった。
もちろん彼女の初恋の告白が、「変態!」の名のもとにむなしく砕け散ったのは言うまでもない。
その変態テレサともあろうものが、れっきとした男性のフランコから一瞬たりとも視線を外せなかった。
先日、バルドより一足早く十五歳の誕生日を迎えたテレサにとって、ここまで男に心を奪われるのは初めての経験であった。
テレサにとっては珍しい、男の友人であるバルドに出会ったときですら、これほどの心の衝撃を感じることはなかった。
心臓を鷲掴みにされたかのように胸が苦しい。
傲岸不遜を絵に描いたようなテレサが、息を殺してただ見つめているだけしかできないなど、バルドが気づけば目を剥いて驚くだろう。
「ああ……なんて美しいんだ……この世にこれほど美しい存在があったのか」
そう、フランコは他の誰よりも美しく妖艶だった。
問題があるとすれば、その美しさが決して男性としてのものではなく、女性としてのものであるということだった。
「ようこそサンファン王国へ。とりわけ、我が国にあの恐るべき伝染病の治療法をもたらしてくれたバルド男爵には、どれだけ感謝しても足りません」
これまた男性のものとしては、甲高く細いソプラノで礼を述べながら、フランコ王子は頭を垂れた。
実際のところ、アブレーゴがもたらしたコレラは、王室に深刻な危機をもたらしていた。
フランコは発病こそしなかったものの、マウリシアからの情報通り、病人を隔離して感染者の排泄物を適切に処理していなければ、どうなっていたことか。
可能性としては国王をはじめ、王族が全滅することすらありえた。
王室の名誉とその存続を守ったという点において、バルドはまさに救国の恩人と言っても差し支えないのであった。
おそらくウェルキンが、幼いバルドを大使として送り出した理由も、そのあたりにあるのだろう。
くつくつと悪人顔で嗤うウェルキンの姿が目に浮かぶようだ。
「都合上、表立って表彰することはできないが、私で力になれることなら可能な限り力になろう。年齢も近いことだし、友人として付き合ってもらえればありがたい」
フランコは十七歳の誕生日を迎えたばかりだが、バルドを見て、彼が十四歳の半ばとは到底思えなかった。むしろ自分より年上なのではないかと感じるほどだ。
年齢に似合わぬ重責と、生まれ持った才能を持つ者同士、フランコがバルドに親近感を覚えたのは当然のことなのかもしれなかった。
それにしても――とフランコは思う。
先ほどから自分を凝視している赤毛の少年は何者なのだろう?
あの熱に浮かされたような熱い眼差しに、覚えがないではない。
フランコの身分を知らぬ騎士が、稀に彼のことを女性だと思って、凝視してくることはあった。ただ、男性があそこまで露骨な視線で見つめてくるのは珍しい。
よく見れば女たちを騒がせそうな、なんとも美しい美丈夫である。
淡い赤毛に好奇心の強そうな大きな瞳が特徴的で、しなやかな均整のとれた体格も、艶のある白磁のような肌も、男性にしておくのが惜しいと思えるほどだ。
率直にいって、フランコの好みに合致する、と言ってもよい。
いつも視線を集めることには慣れているはずのフランコだが、なぜか心臓がドキリと跳ねたような気がして、笑顔を保つことに苦労した。
「フランコには立場上、ほとんど友らしい友がおらん。バルド卿も遠慮なく相手をしてやってくれ」
「……それでは卑小の身ではございますが、お言葉に甘えまして……バルドとお呼びいただければありがたい」
これまで沈黙していたテレサが、衝動に突き動かされるように叫んだのはそのときだった。
「私の名はテレサ・ブラッドフォードと申します。どうか私も、殿下の友人の列にお加えくださいませ!」
「え……? あなたは女性……なのですか?」
これまでずっとテレサを少年だと思い込んでいたフランコは、驚きの声を上げた。
思わず絶望的に平坦な胸に目が向くが、凛々しい騎士服に身を包んだテレサの佇まいはまさに男装の麗人と呼ぶべきもので、彼女が女性と知って驚いたのはフランコばかりではなかった。
国王カルロスもまた、驚きに立ち上がりテレサを見つめたのだ。
「――ブラッドフォードというと、マティス子爵のご息女か?」
「はい。父は辺境の田舎領主でございますが、よく御存じで」
「マティス殿には蒼炎騎士団におられたときに一度な。あのときすでにマティス殿は副団長であったが、実力では騎士団随一と呼ばれていたものだ」
母の尻に敷かれているあの父が、他国まで勇名を轟かせていたとは。
一言口を開けば「女らしくしろ」「嫁に行け」とうるさいが、思ったより有能であったらしいと、テレサはわずかだが父を見直した。
だからといってマティスの言うことを聞くつもりは微塵もなかったけれど。
テレサにマティスの面影を見たのか、カルロスは疲れた顔から一転して、楽しそうに微笑んでいる。
過ぎ去った懐かしい日々を思い起こして、多少ながら鬱屈した気分から回復したらしかった。
「さあ、ペードロも挨拶しなさい」
「はい、父上」
カルロスに勧められて、もう一人の少年が意気揚々と進み出た。
活発そうな覇気と浅黒い南国特有の肌は、どうやらマジョルカ王国出身である母譲りの血が強く出たようであった。
「ペードロ・マジョルカ・デ・サンファンです。お会いできてうれしく思います!」
嘘のつけない正直そうな少年である。
これで、実はフランコと王位を争っているとは、傍目からは想像もつかない。
もしかしたら彼自身、そんな自覚はまったくないのかもしれなかった。
(やれやれ……どちらに転んでも厄介なこと、このうえないじゃないか。あの狸め……)
第二王子フランコ十七歳、第三王子ペードロ十三歳、ともにバルドたちとは近しい年頃である。
それぞれ自らの派閥を抱えているとはいえ、若い彼らの本音を聞き出すのにバルドほどの人材はいないだろう。
すでに王子たちも、警戒心より好意を抱いたように感じられる。
年齢が幼いということは、それだけで相手の警戒心を削ぐことができるものだ。それは他国の王族といえど例外ではない。
おそらくバルドを大使に任じたウェルキン国王は、そこまで想定していたのだろう。
なるほど、腹黒い狸と言われても仕方があるまい。
バルドが望むと望まざるとにかかわらず、王族との接近はバルドに様々な情報と干渉をもたらすはず。そうして得た情報を利用してマウリシア王国に国益をもたらす義務が、バルドにはある。
厄介過ぎる状況に頭を抱えたいバルドの隣で、テレサは満面の笑みを浮かべたまま、フランコに熱い視線を送り続けていた。
対するフランコもその視線を不快なものとは感じておらず、むしろ心なしか、顔の血行がよくなったような気がした。
「面白くもない! マウリシアの使者ごときにペコペコしおって!」
軍務卿であるサンタクルズ侯爵は、マウリシア王国大使の挨拶の席から自分が締め出されたことに、憤りを隠せなかった。
どうやら宰相以外は王族しか立ち会わなかったらしい。
薄々ではあるが、強くなり過ぎた軍部の力を国王が削ぎにかかったことを実感しているサンタクルズの危機感は深刻である。
このままでは、重要な意思決定に軍部は何も関わることができないまま、衰退の道を辿ることになるであろう。
それはサンファン王国の安全保障上、決して容認することのできない事態であった。
「……トリストヴィーの連中が、内戦の影響で海賊をのさばらせてしまっているというのに……まったく、あの戦下手は何もわかっておらん!」
戦下手とはもちろん、主君カルロスのことである。
政治家としては有能だが、海戦の才能が皆無であるカルロスは、内乱で疲弊したはずのトリストヴィー公国艦隊にすら連敗した。
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軍務卿への昇進を断り、現場にこだわった英雄に相応しい死と言うべきかもしれない。
しかし、望めば宰相にすら手が届いたであろうディエゴの死は、間違いなく軍部の求心力を失わせることとなった。
そこにきて先ごろの、海軍出身の宰相ホアンの病死である。
いかに軍といえども、実戦部隊だけで構成されているわけではない。
むしろ軍という組織は、一般の行政組織以上に、事務系官僚による予算獲得という煩雑な政治的交渉能力を必要とする。
もしかしたらディエゴは、そうした暗闘の醜さを嫌って、現場に留まっていたのかもしれなかった。
しかし現実に軍を預かる者として、サンタクルズはディエゴのように潔癖でいるわけにはいかない。彼には部下の生活を守る責任があり、軍のポストや人員の削減を受け入れることなど、決してできないのだ。
官僚は往々にして、組織の権益を守るために国益に反する行動を取るものだが、戦場では勇猛で部下思いの名将として名高いサンタクルズでも、そうした官僚の宿痾とは無縁でいられないのであった。
「……なんとしてもペードロ殿下にご即位いただかなければ……殿下自身が幼過ぎて役に立たんのが困りものだが……」
なれば傀儡として利用する価値もある。
世の中はとかく都合よく良いところだけ、というわけにはいかないのだ。
すでにフランコ王子のもとに貴族と文官勢力が結集している以上、今さら軍がフランコを支持しても得るものは少ない。
軍の権益を守るためには、フランコ王子を出し抜いて、何としてもペードロ王子に王太子となってもらわなければならなかった。
問題は、宮中の貴族と違い、軍部の武官にそうした政治的工作を得手とする人材が非常に少ないということである。
噂話から賄賂、ハニートラップに義理人情まで動員した面倒な裏工作は、軍務卿として行政に携わるサンタクルズ自身も苦手とするところであった。
軍という暴力装置を握っているため、迂遠な解決手段を弄するより、直接的な対処を好む傾向が軍出身者にはある。
「……バルトロメオを呼べ」
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