42 / 258
津山三十人殺し
しおりを挟む戦前の事件でありながら今もなお語り継がれる日本史上最悪の大量殺人事件である。
管理人は小学生のころにTVで見た八つ墓村の印象が非常に強く、故渥美清氏の金田一耕介が妙に似合っていないと感じたのを覚えている。
個人的には金田一耕介にもっともはまり役であったのは古谷一行であったように思う。
横溝正史の傑作である八つ墓村のモデルとなった津山三十人殺しを知ったのは高校生のことである。
その事件のおどろおどろしい情念の深さは八つ墓村などよりさらに恐ろしいものであった。
太平洋戦争中の1938年5月21日未明、岡山県苫田郡西加茂村行重の貝尾集落で事件は発生した。
わずか2時間という短時間で30人(犯人を含めると31人)が殺されたこの事件はオウム真理教が地下鉄サリン事件を引き起こした現在でも短期間での犯行としては今なお破られることのない死者数を
記録している。
犯人の都井睦雄(とい むつお)は1917年5月3日岡山県苫田郡加茂村大字倉見に生まれた。2歳のときに父を、3歳のときに母を、ともに肺結核で亡くしたため祖母が後見人となり、その直後一家は加茂の
中心部である小中原塔中へ引っ越した。さらに、睦雄が6歳のときに一家は祖母の生まれ故郷の貝尾集落に引っ越した。
都井家にはある程度の資産があり、畑作と併せて比較的楽に生活を送ることができた。祖母は自身の体調不良などを理由に、都井に家にいることを要求したため、都井の尋常高等小学校への就学は1年遅れ、
就学後もたびたび欠席を余儀なくされたが成績は優秀だった。級長なども務め優等生として評価も高かったという。
その後担任教師に「上の学校」への進学を勧められたが、祖母に反対されたために断念せざるを得なくなった。
都井は、尋常高等小学校を卒業直後に肋膜炎を患って医師から農作業を禁止され、無為な生活を送っていた。
病状はすぐに快方に向かい実業補習学校に入学したが、姉が結婚した頃から徐々に学業を嫌い、家に引きこもるようになっていき、同年代の人間と関わることはなかった。
一方で、自身が子供向けに作り直した小説を近所の子供達に読み聞かせて、彼らの人気を博した。さらに、近隣の女性達とこの地域での風習でもあった夜這いなどの形で関係を持つようになっていった。
都井は性に貪欲で夜這いに積極的で複数の女性と関係を持つようになっていったという。
しかし、都井は事件の前年1937年に徴兵検査を受けた際に、結核を理由に丙種合格(実質上の不合格)とされた。
その頃から、都井はこれまで関係を持った女性たちに、都井の丙種合格や結核を理由に関係を拒絶されるようになった。当時兵役検査に不合格するということは男性として不能とされたに等しいほどの
不名誉な出来ごとだったのである。
もともとプライドの高かった都井は屈辱に怨念を積もらせていった。
同年、都井は狩猟免許を取得して津山で2連発式の散弾銃を購入。翌1938年にはそれを神戸で下取りに出し大型獣用の12晩ゲージ5連発ブローニング式猟銃を購入。大戦中アメリカ軍の戦闘機に装備され
戦後自衛隊にも配備されたブローニング12.7mm機関銃の製造元であり火器販売の名門ブローニング社のものである。
都井は購入後は毎日山にこもって射撃練習に励むようになり、毎夜猟銃を手に村を徘徊してまわったため近隣の人間に不安を与えるに至った。
都井はこの頃からすでに犯行を計画しており、自宅や土地を担保に借金をしていたのである。
しかし、都井が祖母の病気治療目的で味噌汁に薬を入れているところを祖母本人に目撃され、そのことで祖母が「孫に毒殺される」と大騒ぎして警察に訴えられたために家宅捜索を受け、猟銃一式の他
日本刀や短刀などを押収され、猟銃の所持免許も取り消されたため一度は計画は挫折したかに思われた。
この一件により凶器類をすべて失った都井であったが、知人を通じて猟銃や弾薬を購入したり、刀剣愛好家から日本刀を譲り受けるなどの方法により、時間をかけつつも再び凶器類を揃え、犯行準備を進めていった。
そして、以前懇意にしていたものの、その後都井の元から去って他の村へ嫁いだ女性が村に里帰りしてきた1938年(昭和13年)5月21日の深夜、都井は犯行を実行に移すことを決意するのである。
都井は事件の数日前から実姉を始め、数名に宛てた長文の遺書を書いていた。
さらに自ら自転車で隣町の加茂町の駐在所まで走り、難を逃れた住民が救援を求めるのに必要な移動時間をあらかじめ把握しておくなど、犯行に向け周到な準備を進めていたことが後の捜査で判明している。
自分の姉に対して遺した手紙は、「姉さん、早く病気を治して下さい。この世で強く生きて下さい」という内容であった。
1938年(昭和13年)5月20日午後5時頃、都井は電柱によじ登り送電線を切断して貝尾集落のみを全面的に停電させる。
しかし村人たちはこの停電を特に不審に思わず、これについて電気の管理会社への通報や、原因の特定などを試みることはなかった。
当時の電力事情では不意な停電は決して珍しいことではなかったからである。
日付の変わった翌5月21日1時40分頃、都井はついに行動を開始する。詰襟の学生服に軍用のゲートルと地下足袋を身に着け、頭にははちまきを締め、小型の懐中電灯を両側に1本ずつ結わえ付けた。
首からは自転車用のナショナルランプを提げ、腰には日本刀一振りと匕首を二振り、手には改造した9連発ブローニング猟銃を持った。
まさに映画八つ墓村で村人を惨殺する殺人鬼の姿そのままであった。
都井は最初に、自宅で就寝中の祖母の首を斧ではねて即死させた。その後、近隣の住人を約1時間半のうちに、次々と改造猟銃と日本刀で殺害していった。
被害者たちの証言によると、この一連の凶行は極めて計画的かつ冷静に行われたとされている。
「頼むけん、こらえてつかあさい」と足元にひざまづいて命乞いをする老婆に都井は「お前んとこにはもともと恨みも持っとらんじゃったが、(都井が恨みを持っている家から)嫁をもろうたから殺さにゃいけん
ようになった」と言って猟銃を発砲した(老婆は致命傷を負い、後に死亡した)。
しかしある宅の老人は、返り血を浴びた都井に猟銃を突きつけられたが、逃げることもせず茫然と座っていたところ、「お前はわしの悪口を言わんじゃったから、堪えてやるけんの」と言われて見逃されたという。
またある宅でも、その家の主人が「決して動かんから助けてくれ」と必死に哀願したところ都井は「それほどまでに命が惜しいんか。よし、助けてやるけん」と言い残しその場を立ち去っている。
都井の凶行はさらに続き、最終的に事件の被害者は死者30名(即死28名、重傷のち死亡2名)、重軽傷者3名にのぼった。死者のうち5名が16歳未満である。
計11軒の家が押し入られ、そのうち3軒が一家全員が殺害され、4軒の家が生存者1名のみとなった。押し入られた家の生存者たちは、激しい銃声と都井の怒鳴り声を聞き、すぐに身を隠すなどして助かった。
また、2名は襲撃の夜に村に不在だったため難を逃れている。
定説では結核などを理由に村で疎外されたことを恨み都井は凶行に走ったと言われている。
しかし果たしてそれだけか?
実は近年のTV局の取材で重要なインタビューを得ることができた。
都井には婚約者がおり、村の人間が肺結核である都井と女性を引き離すため、村の外の人間と女性を結婚させようとしたというのだ。
しかも女性は当時妊娠しており、当然の結果として生まれた子供はすぐに人知れず殺されたという。
この証言が事実であればその証言に該当する人物は寺山ゆり子以外には考えられない。
彼女は都井の襲撃を逃れ近所の寺井家に逃げ込み難を逃れているが、逃げ込んだ先の寺井茂吉は殺害されており、都井が殺す気があれば殺害する機会はあったと村人は考えていたらしい。
2008年の取材時、いまだその女性は90歳を超えて存命しており裏山のとある場所で死んだ人たちの冥福を祈る毎日を送っているそうだ。
実際に当時の警察の事故報告書の最後には、都井の遺書は全面的には肯定しがたきものであり、同様に生存関係者の証言も全面的には肯定しがたいと記載されており、こうした村内の暗部が
隠ぺいされた蓋然性は高いと管理人は感じる。
-都井の遺書-
愈愈死するにあたり一筆書置申します、決行するにはしたが、うつべきをうたずうたいでもよいものをうった、時のはずみで、ああ祖母にはすみませぬ、まことにすまぬ、二歳のときからの育ての祖母、祖母は殺してはいけないのだけれど、後に残る不びんを考えてついああした事をおこなった、楽に死ねる様と思ったらあまりみじめなことをした、まことにすみません、涙、涙、ただすまぬ涙がでるばかり、姉さんにもすまぬ、はなはだすみません、ゆるしてください、つまらぬ弟でした、この様なことをしたから決してはかをして下されなくてもよろしい、野にくされれば本望である、病気四年間の社会の冷胆、圧迫にはまことに泣いた、親族が少く愛と言うものの僕の身にとって少いにも泣いた、社会もすこしみよりのないもの結核患者に同情すべきだ、実際弱いのにはこりた、今度は強い強い人に生まれてこよう、実際僕も不幸な人生だった、今度は幸福に生まれてこよう。
思う様にはゆかなかった、今日決行を思いついたのは、僕と以前関係があった寺井ゆり子が貝尾に来たから、又西川良子も来たからである、しかし寺井ゆり子は逃がした、又寺井倉一と言う奴、実際あれを生かしたのは情けない、ああ言うものは此の世からほうむるべきだ、あいつは金があるからと言って未亡人でたつものばかりねらって貝尾でも彼とかんけいせぬと言うものはほとんどいない、岸田順一もえい密猟ばかり、土地でも人気が悪い、彼等の如きも此の世からほうむるべきだ。
もはや夜明けも近づいた、死にましょう。
どういうわけか現在の貝尾集落では30人ではなく36人が殺されたと伝えられているらしい。
あるいは人知れず命を奪われた子供や関係者がいたのかもしれない。
残念ながら都井が自殺してしまったこの事件が本当の意味で解明されることは永遠にないのだろう。
14
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
