ライラックを添えて

九重 ななみ

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ハーデンベルギア

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「ようこそ、反乱軍へ。我々は貴殿の入隊を歓迎しよう」

 ガヤガヤと騒がしい室内で、屈強な男女達がジョッキを片手に談笑している。だが楽しそうな雰囲気とは裏腹に、窓から見える景色はとても凄惨なものである。
そんな所に、男、クレイ・グランドは居た。クレイは誰とつるむでも無く1人でひっそりと酒を嗜んでいた。

 ここはバードニア共和国、反乱軍・ベース1、大食堂。
バードニア共和国では、政府のやり方に異を唱え、打倒を促す民間軍とそれを鎮圧する政府軍との間で内紛が起きている。
その規模はバードニア共和国全土で繰り広げられており、今や安全な場所など皆無に等しい。至る所に戦闘の爪痕が残り、美しかった街並みも瓦礫の山と化した。

 「やぁ、ご一緒しても?」
クレイに声をかけたのは、反乱軍元帥であるアイネ・ガルシアだ。その後ろには見慣れない少女がいた。
「どうぞ」
クレイは人好きのする笑顔でアイネ達に着席を促す。
「君が軍に来てから1週間が経つが、君から見てココはどうかな?」
アイネはクレイに問いながら後ろにいた少女に酒を持ってくるよう頼む。少女は目線だけでクレイを一瞥し、すぐに背を向けてしまった。
「それで?」
少女を見送ったアイネがクレイに向き直って返答を促す。
「…士気の高さで言えば、政府軍を凌駕します。ただ…」
「ただ?」
「…その、まとまりが無い、というか…上下の統率は取れてると思うんですけど、横の統率が取れていないというか…」
クレイの言葉にアイネは一瞬目をぱちくりとさせたが、すぐに豪快に笑った。
「あっはっは!!なるほどねぇ…横の統率か!ここに居るやつらは良くも悪くも皆我が強いからな!」

「アンタも大概人の事言えないっスよ」

会話に入ってきたのは先程の少女だった。少女はアイネの前にジョッキを置き、その隣に腰を下ろす。
「君は…?」
「…」
クレイが問いかけるが、少女は口を開かない。桜色の髪を弄りながら無視を決め込んでいるようだ。
「すまない。彼女はザフィーラ。階級は二等軍曹だ」
黙りを貫くザフィーラの代わりにアイネが彼女を紹介する。
「ザフィ、昼間も話したが彼はクレイ・グランド。階級は」
「小隊長っスよね。覚えてるっスよそれくらい。政府軍に所属してたエリート様っしょ」
ザフィーラは髪を弄りながら興味なさげにアイネの言葉を遮った。
「覚えてるなら話は早い!ザフィ、これから暫くクレイと共に2人組2人組バディを組んでくれ」
「はァ!?何で私が…!私は1人でやれるって…!」
「ザフィ、上官命令だ」
「っ…!クソが…」
反発を見せたザフィーラに対してアイネが眼光を鋭くして黙らせる。ザフィーラは忌々しげにスラングを吐くことしかできなかった。
「クレイ、急ですまないが彼女の事を頼んだよ」
「は、はい…よろしくね、ザフィーラ」
「…」
「ザフィ」
「…っス」
自身の事を嫌いですと言わんばかりに態度で示すザフィーラを見て、クレイは今後の生活は大丈夫なのかとやや気がかりであった。



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