ライラックを添えて

九重 ななみ

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サルビア

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 翌朝、クレイとザフィーラはアイネに呼び出され司令室へと足を運んでいた。クレイは横に立つザフィーラを見るが、彼女はまだ眠たそうであった。
「早速ですまないが、君達に取り急ぎ行ってもらいたい場所がある」
「くぁ…」
「こら、ザフィーラ…!」
話の途中でも構わず欠伸をこぼすザフィーラにクレイは小声で苦言を呈した。
「…北部のノーゼンベルゲンにて第三小隊が交戦中との報せを受けた。君達には第三小隊の応援を頼みたい」
「第三小隊っていうと…あー、バルドんとこっスか」
「そうだ」
「…二人で行って意味あるんスか?ソレ。運悪きゃ共倒れっしょ。私、コイツと心中する気ないっスよ」
「なっ…!」
やる気の見られないザフィーラの態度にクレイは苛立つ。
(こうしてる間にも、第三小隊の人達は危険にさらされているというのに…!!)
「ランデブー後の判断は各々に任せる」
「ふーん…じゃ、お手並み拝見ってとこっスかね~」
「…それはこっちのセリフだ」
「はっ。誰に言ってんだか」
早速言い争う二人の様子にアイネは小さく溜め息をついた。
「出立は三十分後だ。各自準備を怠るなよ」
「「YES,mam!」」

 目的地であるノーゼンベルゲンへ向かう護送車の中でクレイとザフィーラは無言で向かいあって座っていた。沈黙に耐えきれず口を開いたのはクレイだ。
「なぁ、お前はノーゼンベルゲンに着いたらどうするんだ?」
「…どうするもなにも、状況確認しなきゃ何も出来ないでしょうが」
「それはそうだが…怪我人の保護とか、色々あるだろ」
クレイの言葉に対し、ザフィーラはそれを鼻で嘲笑う。
「はっ、これだからエリート様は…私達が最初にやるのは敵の数と物資の確認。怪我人の保護なんざ二の次、三の次っスよ」
「その間に命を落としたり怪我が悪化したらどうするんだ…!」
「そんなの怪我したそいつの責任でしょ。私には関係ないっス」
にべもなく言い放ったザフィーラ。そんな彼女にクレイはただ絶句するしかなかった。
「戦場では生きてる奴が勝者なんスよ。死にたくなけりゃ、そんな甘っちょろい考えは捨てることっスね」
ザフィーラの言葉だけが、護送車の中に重たく響いた。

 揺られること数時間、護送車がその動きを止めた。
「ザフィ、今日はここで野営だ。テント張ってくれ」
「ん」
護送車を運転するアニクがザフィーラに声をかける。ザフィーラは荷台に積んであった野営キャンプ用のテントを手に取り車から降りた。
「クレイだったか。アンタは火起こしを頼む」
「分かった」
クレイは背嚢からライターを取り出しポケットへと入れ、辺りの枯葉や木の枝を集める。
「アニク、そっち押えて」
「はいよ」
火起こしをしながらザフィーラ達の会話に耳を傾ける。クレイは何故自分より歳若そうな少女が反乱軍などという危険な場所に居るのか不思議で仕方なかった。
「あ、アニク、その草食べられるっスよ」
「おっ、どれだどれだ?」
「そこの白いの。ニリンソウっスね」
手を動かしながら顎で示した先には確かに小さな白い花が群生していた。ザフィーラは野草に詳しいようだ。
「湯掻いてそのまま食えるっス。でも花が生えてないのはトリカブトの可能性があるんで気を付けて」
「へぇ…お手柄だな、ザフィ。これ組んだら詰んじまおう」
「ん」
ザフィーラの意外な特技に驚きながらもクレイは火を起こす。
「アニク、ザフィーラ、火がついたぞ」
「おぉ!こっちももうすぐ終わるから暖まりながら待っててくれ!」
「了解」
アニクの言葉に甘え、火に当たる。

 腹ごしらえも済み、落ち着いたところでアニクが地図を取り出した。
「それじゃ、作戦会議だ」
「このまま北上して会敵する確率は?」
「情報だと五分五分だな…包囲されてるとは聞いていないが、明日の状況次第だ」
ザフィーラはそれを聞いて顎に手を当て考え込む。
「…前線を放棄することは?」
「これ以上前線を下げるのは…あまり得策じゃないが、状況次第ではやむを得んだろう…」
クレイの提案にアニクが答える。そこで口を開いたのはザフィーラだった。
「ランデブーポイント3km手前」
「…1人で突っ込むのか?」
「その方が早いっス。前線下げるにしても敵の数は減らした方がいい」
「勝算は」
「誰に言ってんスか」
ザフィーラは自信満々に笑みを深めるだけであった。



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