【R-18】金曜日は、 貴女を私の淫らな ペットにします

indi子/金色魚々子

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心に触れて ⑨


 小さな声で「おねだり」してから、なんて事言ってしまったのだろうと頭の中でパニックになる。恥ずかしくなって、カッと足先から頭まで熱くなっていく。やっぱり今の忘れてください!と早口で言いながら顔を上げると……ご主人様も、顔を赤くして口元を抑えていた。


「あの……ご、ご主人様?」

「そんな風に可愛い事言われるとは。どうなっても知りませんよ?」

「え、あ……」


 戸惑う私の顎を掬い、ご主人様は柔らかく唇を押し付けてきた。さっきみたいな性急なキスではなく……お互いの存在を確かめ合うような、そんな優しい口づけだった。
 離れた時、ご主人様の瞳は熱っぽく潤んでいた。いつものクールな「副島課長」ではなく、私をペットとして可愛がるような「ご主人様」の姿ではなく……一人の男性の姿が、そこに見えた気がした。


「どうなっても、いい?」


 私は小さく頷く。……彼はもう一度甘く口づけをしてから、私を脱衣所に押し込んだ。


「タオルはあるものを使ってください」

「あ、あ、はい」

「着替えはすぐに持ってきますから、ごゆっくり」

「はい、ありがとうございます……!」


 バタン!と大きな音と共に、ドアが閉まる。私は慣れないお風呂場で、一人っきり残されていた。
 
頭から温かいシャワーを浴びながら、私はほうっと息を吐いていた。柔らかなぬくもりを素肌で感じながら、先ほどのご主人様の姿を思い浮かべる。
 あんな風に表情を変える彼を、私はこの歪な関係が始まってから初めて見た。人間味に溢れていて、優しくて……そんな顔を見せられると、勘違いしてしまいそうだ。

――この人なら、私の事ちゃんと好きになってくれるんじゃないかって……。


 そんな雲の様にふわふわとしていて儚い妄想を頭の中で打ち消して、私はシャンプーを手に取った。ノズルをプッシュすると、ふわっとご主人様のいつもの香りがバスルーム中に広がり……おもわず甘い快楽を思い出した私の目の前は、少しくらっと歪んだ。
 バスルームを出ると、脱衣所にはご主人様のものと思われるグレーのパジャマが置いてあった。それに袖を通し(彼の服に身を包まれたこのときも、やっぱりあの熱を思い出して体の芯が勝手に熱くなった……)、髪の毛を乾かしてリビングに向かうと……そこに、ご主人様の姿がなかった。ローテーブルの上には、「コンビニに行ってます」というメモ書きが置いてある。それを読んだ私は、ソファに寝転がっていた。
 先ほども思ったけれど、シンプルを通り越して殺風景な部屋だ。彼らしいと言えばそうなんだけど……ここでどんな生活を送っているのかを考えるだけで、胸の奥が勝手にざわめきだす。私は起き上がり、頭を振った。これ以上ぼんやりしていると、不埒な妄想ばかり浮かんできそうだ。
 メモ書きが置かれていたローテーブルの上には、経済雑誌や労務管理についての本が置いてある。さすが、勉強熱心なんだな……と思いながらその束を眺めていると、その間に一冊だけ背表紙に何も書かれていない冊子がまぎれていた。……どうしてもそれが気になってしまい、まだ帰ってこない事を祈りつつ、ゆっくりと引き出してその本のページを開く。
それは、アルバムだった。今よりも少し若いご主人様……きっと、大学生くらいの姿がそこにあった。サークルかゼミのメンバーとうつした写真なのだろう、どの写真を見ても小さく笑うだけで、今のクールさの片鱗が見て取れる。それを見ながら、私は微笑んでいた。今の私よりも若いその姿が、幼くって可愛く見えてきたのだ。
ページをめくっていると、一枚の写真がひらっと床に落ちていった。慌てて拾い上げようとアルバムを閉じ、少し屈むと……その写真にうつる二人の姿が目に飛び込んできた。
まだ若い彼の肩に触れあうような近さで、快活に笑う女の人がピースサインを向けている。その姿を見た時、じりじりと焼けつくような痛みが心臓に走った。その写真を持つ指先が小刻みに震え、さっと氷水に浸した時の様に冷たくなる。
玄関から鍵が回る音が聞こえた時、ハッと正気を取り戻した。ばれない様に写真をアルバムの間に挟み、それを本の間に押し込むように隠す。リビングのドアが開いた時、私は平静を気取ってソファに座っていた。


「おかえりなさい」

「……ただいま」


 ご主人様はソファまで足を進ませ、私のおでこに軽くキスを落とした。その唇は、先ほどの情事の時に比べたら少しだけ冷たかった。


「私もシャワー浴びてきますから、いい子で待っているように」

「はい……」


 見上げると、ご主人様は笑っている……あの写真と同じように。ふっと思わず目線を反らすと、彼は私が照れたと勘違いしたのか、次は頬にキスをして脱衣所に向かっていった。姿が完全に見えなくなってから、私はもう一度、膝を抱え丸くなりながらソファに寝っころがった。目を閉じると、今度はさっきの写真の二人が瞼の裏にありありと映し出される。
 私はそれを打ち消すように、強く目を瞑った……。
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