転生モブ令嬢は婿を取らなければいけないのに、【 皇 太 子 殿 下 】の求愛が止まりませんっ!?

indi子/金色魚々子

文字の大きさ
19 / 31
第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち

第4章 皇太子殿下の想いとモブ令嬢の気持ち ④


「ティナ!」

 アルフレッドが私の名を呼び引き留めようとする。けれど、私は手のひらで涙をぬぐいながらその場から逃げるように駆け出していた。こんな顔、誰にも見られたくない……そう思いながら逃げていた時、図書室にやって来たイヴが目に飛び込んだ。あぁ、きっとイベントを起こしに来たんだ。私が奪ってしまったけれど……上手くイヴも起こせますように。そう祈った瞬間、私の足は止まった。

「――っ!」

 イヴは一瞬だけ私を見て、口角をあげて笑った。まるでベロニカがいじわるをしている時の笑い方に似ていた。このゲームをプレイしていた時、スチルに出てくるイヴの表情はいつも柔らかくて優しいものばかり。今みたいな笑い方なんて、決してしないはずなのに。その光景があまりにも信じられなくて、私の涙はぴたりと止まっていた。違和感を覚えたけれど、私はイヴを引き留めることなく、彼女が図書室の奥に進んでいくのを見守るしかなかった。

***

「ねえ、シモンズさん」

 翌日、リリアが教室にいた私に声をかけてきた。いつも意地悪ベロニカと行動を共にしていた私は、リリアのような大人しい女の子から遠巻きにされていたから、とても珍しい。私が驚きながら顔をあげると、リリアは声を潜めた。どうやらあまり周りから聞かれたくない話らしい。私は廊下に出て、その隅っこでリリアと話をすることにした。

「最近、イヴと何かあったりした?」

 リリアはそう私に聞いてきた。

「え……? う、ううん。最近は話すらしたことないよ」

 図書室で一度だけすれ違ってはいるけれど、それだけ。ベロニカと一緒にいることが多い私に、イヴが話しかけてくることなんてないし、私から声をかけたのなんて彼女が転校してきた初日だけ。リリアの言葉に首を傾げると、リリアはそう聞いた理由を教えてくれた。

「そうなんだ。あのね、最近イヴによく聞かれるの。シモンズさんってどんな人なの? 皇太子様とは仲がいいの? って」

 私の胸がドキリとうずく。リリアは私の事はよく知らないけれど、去年の郵便局での喧嘩から始まった私とアルフレッドの騒動について教えたらしい。イヴは不快そうに「ふーん」と言い、それから機嫌が悪くなってしまったらしい。リリアが声をかけても、返事すらなく不貞腐れた表情をしている。

「もしかして、イヴとシモンズさん、喧嘩でもしたんじゃないかと思ったんだけど、違う?」

 私はそれを否定する。

「だよね。二人が話しているところ見たことないし……でも、イヴが何か精神的に不安定っていうか、ちょっとイライラしているみたいで気になっちゃって」
「そうなの?」
「うん、だから心配してたの。もしシモンズさんが何かイヴの事で話を聞くことがあったら、私に教えてくれたら嬉しいな」

 友達思いのリリアはそう言って教室に戻っていった。私もリリアに続いて教室に戻り、イヴの様子を観察した。確かに、貧乏ゆすりをする回数が多く、爪をかじっている時もあり、どこからどう見てもイライラとしている様子だった。どうして気づかなかったのだろうと思うくらい、それを感じ取っていたのはリリアや私だけではなく、意外なあの人も同じだった。

「あの転校生、どうしたわけ?」

 マリリンに誘われて、私はベロニカも交えて三人で昼食を取っていた。マリリンが二人でお昼の取るのがしんどくなった時に、たまに誘われる。その席で、ベロニカがそう切り出した。

「確かに、最近ちょっと様子が変ですよね」

 私がそう言うと、ベロニカは「そうなのよ!」と大きな声で答える。

「私がちょっとちょっかいかけても無視したり、ひどいときには舌打ちなんてするのよ! このハワード公爵家令嬢である私に、貧乏庶民が舌打ちなんて許されると思う!?」

 ベロニカは相当ご立腹だった、マリリンがそれをなだめる。私は心の中で、舌打ち以上にひどい事をしているのでは……? とツッコミをしていた。

「確かに、前はまだ学園に慣れていなかったのかおどおどしていましたけれど、今日はベロニカさんがお声をかけても反応がなかったりしますね」

 マリリンも異変を感じ取っていたみたいだった。二人は何かあったのかしら? と首を傾げていた。

「そう言えば、あの転校生、アルフレッド様に色々ちょっかいかけていてそれも不快だったのよね」
「でも、最近あまり話しているところを見ることはなくなりましたね」
「そうなの?」

 私がマリリンに尋ねると、彼女は頷いた。

「最後に一緒にいるところを見たのはいつだったかしら……? 確か、図書室で見た気がするんですけど」

 私の心臓がドキリと大きく跳ねががった。図書室、アルフレッド、イヴ。私には心当たりがあった。私はマリリンがイヴの事を見かけるよりも前に、図書室でアルフレッドに抱きしめられていた。もしかしたら、イヴはあのイベントを起こすことができなかったのかもしれない。私の心がざわめき始める。幸いなことに二人はそのことに気づいてはいなかった。

「ティナさんは見なかったですか? 今年も図書委員でしょう?」
「う、ううん。見ていないけど」

 とっさに嘘をつく。

「殿下と何かあったのかしら? そもそも、あんな貧乏庶民の分際で皇太子殿下にお声かけする時点で大間違いなのよ。もっと高貴な身分でないと、見劣りするに決まっているわ。最低でも貴族じゃないといけないのに、おぞましい!」

 ベロニカがぷんぷんと怒っているのを見て、マリリンは「そうですわね」と持ち上げた。私は返事も出来ず、不安と愉悦が混じり合うのを表情に出ないよう必死に押し殺していた。私はきっと、イヴが起こすはずだったイベントを奪い取ってしまったのだ。イヴの攻略が失敗してしまったらどうしようという不安がこみ上げる。それと同時に、もしかしたら、と甘い考えが芽生え始めていた。もしかしたら、この世界のヒロインではない私が彼の【ヒロイン】になれるのかもしれない。そんな喜びが春の芽吹きのようにやってくる。

「ねえ、ティナ。私の話を聞いているの?」
「え? あ、申し訳ございません。ちょっとぼんやりしていて……」
「全く! そんなのだからお見合いに失敗するのよ!」

 ベロニカもマリリンも、私の異変には気づいていない様子だった。それにそっと胸を撫でおろす。

 あんなことがあったなんて、誰にも言えない。言いたくない。私とアルフレッドだけの秘密にしていたい。思い出すたびに、胸が暖かくなっていっていく。そして、とある後悔を抱くようになっていた。

 あの時――お兄様が駆け落ちしていなくなってしまった夜。お見合いをする、お婿さんを取るなんて言わなければ、私は彼と共に歩むことができたかもしれないのに。今更こんなことを考えても遅いのに。けど、私は【ヒロイン】としての自分の姿に焦がれてしまうようになっていた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (完結済ー全8話)

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。