鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸

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2章 呪われた炎

第58話 開戦

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 僕は、従者たちと別れスラム街の中を歩いていた。あの路地を曲がれば、少し開けた場所がある。そこに、あいつがいるはずだ。

 路地の切れ目に到着し、一度足を止める。
 あいつと相対すれば、戦いは避けられないだろう。でも、僕がやらないといけないことだ。

「……行こう」

 僕は、もう一度深呼吸してから、足を一歩踏み出した。

 路地の先には、赤い髪のポニーテールの男が待ち構えていた。鞘に入れた刀を肩にのせ、トントンと叩いている。そして、僕の顔を見てニヤリと微笑んだ。

「やぁやぁ、やっと来たでござるか。スキル無し」

「時間通りのはずですが?」

 スラム街の広場で、マーダスと相対する。周りには誰もいない。ディセたちに頼んで住民たちには避難してもらっていた。
 だから、これから僕たちが争っても巻き添えは防げるはずだ。

「それにしても、まんまと釣られて、ここまで来てくれるとは、ありがたいことです。罠だとは考えなかったんですか?」

 僕は、あえて挑発するような言葉を発する。どうせ戦いは避けられないのだから覚悟を決めろ、そう自分に言い聞かせていた。

 僕とあいつの距離はまだ数メートル離れている。あいつの間合いの外から、警戒を解かないようにして、相手の回答を待つ。

「これのことでござるか?」

 マーダスが手紙を取り出す。そこには、〈果し状〉と書かれていた。

「先週、愚妹がこれを持ってきたでござる。そなたからの決闘の申し出だと言って」

「そうです。わざわざ倒されに来てくれて、ありがとうございます」

「ははは!これは面白い!拙者がそなたなんぞに負けるとでも?」

「すぐにわかります」

「では、さっそくやろうか」

 マーダスは言いながら刀を鞘から抜き、鞘を腰に差し込む。すると、音も立てず、手紙はいつのまにかバラバラになっていた。パラパラと手紙だったものが宙に舞う。

「……」

「剣筋も見えなくて驚いたようでござるな?そんな調子で拙者と戦えるのでござるか?」

 図星だった。僕の目では、あいつの剣筋は追い切れなかった。
 しかし、動揺はない。今の実力では、勝てないなんて分かりきっていたからだ。

「僕が勝ったら、ギフト授与式には何も言わずに欠席してください」

「拙者が勝ったら、そなたを斬り刻んだ後、そなたの大事な者たちも斬り刻む。もちろん、拙者の愚妹も返していただく。邪魔をするならピアーチェスも斬る」

 マーダスが邪悪な笑顔を向けながら、僕の覚悟を後押しするようなことを言ってくる。

「そんなことはさせません」

「だが、果し状には、好きにしろと書いてあったでござろう?」

「おまえが勝てたらな。マーダス・ボルケルノ」

「あまり調子に乗るなよ。ジュナリュシア・キーブレス」

 ニヤついた顔が暗くなるのを合図に僕は駆け出した。
 スラム街の中の用意していた1つ目の家に入り、眠っている騎士の腕に触れ、彼の技能を奪った。身体が軽く、早くなる。そして、彼の剣を手に取った。
 建物から出る。

 ガキン!マーダスの刀が音もなく迫っていたが、難なく察知し、それを弾き返した。僕は身体をひるがえして、軽いステップを踏みながらマーダスと距離を取る。

 ニヤついていたマーダスは、僕の動きを見て、笑うのをやめた。

「なんだ?その構えは?」

 僕は2本の短剣を逆手に構え、腰を低く落としていたのだ。

「ふぅー……それが自慢の剣筋ですか?」

「……付け焼き刃で拙者に勝てるとでも?」

「やればわかる」

「……舐めるなよ」

 怒りにも似た暗い声を出したあと、マーダスが一直線に斬り込んできた。速い。でも、今はあいつの剣が手に取るように見える。

 左上段からの剣戟、僕はそれを左の短剣で受け止め、それと同時に右の剣であいつの首元を狙った。

「くっ!?」

 マーダスが後ろに飛びのき、距離をとる。あいつの首元からは赤い血が流れていた。浅かった。仕留め切れてはいない。

「……なんだおまえは……」

 マーダスは自分の首元を触り、出血していることを確認した後、恨めしい声を出す。

「おまえの妹の友達だ。クソやろう」

「……面白い」

 そして、また剣戟が始まる。
 僕は全てを受け止めることができていた。しかし、さっきの一撃以降、マーダスには一太刀も入れれていない。あいつも僕の攻撃に慣れてきたのか、薄ら笑いを浮かべるようになってきた。

 くそっ!この人の剣技じゃもうダメか!

「カリン!」

 ボフッ。僕が合図をすると、煙玉が投げ込まれる。その隙をついて、僕は次の家へと向かった。
 2軒目の建物に入り、双剣を地面に放り投げ、次の武器を手にする。それから、寝ている女騎士の手に触れた。

 路地に戻る。路地の数メートル先で、マーダスがこちらを見て立っていた。刀の刃がついていない方で、肩をトントンと叩きながらニヤニヤと笑っている。

「逃げたわけではなかったでござるか」

「逃げるわけあるか」

「で?そのレイピアはなんでござるか?」

 僕が武器を持ち替えていることが気になるようだ。

「……」

 しかし、無視して僕はレイピアを正面に構える。半身をマーダスの方に向けて、左手は後ろに、それから左足で思い切り地面を蹴った。

 キンッ!僕のレイピアを柄で受け止め、驚いた顔を見せるマーダス。やはり、急な剣筋の変化には対応が遅れるようだ。その隙をついて、僕は全力でレイピアを叩き込んだ。

 キンッ!キンッ!キンッ!何度も何度も突き出す。マーダスはそれらの攻撃を受け流しはするが、何発かはカスっていた。そして――

 ずぶり。レイピアの芯が、マーダスの左手の掌を捕らえる。剣の3分の1ほどが貫通していた。

 よし!これで左手は使い物にならな――

「捕まえたでござる……」

「っ!?」

 罠だった。
 ズバッ。下段からの切り上げで僕の右腕を斬る。大量に出血して、たまらずレイピアを離した。
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