災厄のオッドアイ  今世こそ聖眼の真価を取り戻します!

小采叶

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はじまり

1.リシェルは回帰の真実を知る

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 ドシンッ。全身に痛みが走り私は目を開けた。
「まぁ。相変わらずみすぼらしい恰好ね」
 目の前にいるのはベッドから私を引きずり落とした声の主、第一王女セシリアだ。その姿も昨日までの記憶よりずいぶんと幼い。
「何見てるのよっ。ほんっと気味が悪いわね」
 昨夜見た私が小さくなっていたのは夢じゃなかったの?
 セシリアはいつものように尖ったヒールの先で私のお腹を蹴る。その痛みでこれが現実なのだと思い知らされた。セシリアは蹴るに飽き足らず、持っていた扇子を振り上げる。とっさに手で顔をかばってしまうが、今度は背中に衝撃が走り、転がるように床にひざまずいてしまった。膝が痛む。後ろを振り向くと、第二王女イザベルがにたーと意地の悪い顔で笑っていた。
「お母さまがお呼びよ。さっさとしなさい」
 返事をする間もなく、背中に痛みが走る。セシリアが言いながら、私の背中を踏みつけているのだ。
「わかりました」
 やっとのことで返事をしながら立ち上がり、部屋を出ようと一歩踏み出した途端、頭上に怒鳴り声が響く。
「一体、いつまで待たせるの!!」
 見上げると王妃が冷たい目で私を見下ろしている。とっさに言葉がでなかった私に手を振り上げる。かばう間もなく、頬を強くぶたれてよろけてしまう。痛みと同時に頬がかぁっと熱くなる。
「気味が悪いだけでなく、愚図だなんて! 本当にどうしようもないわね。今日は神殿に連れて行くと言っていたはずよ。さっさと歩きなさい」
 そういうと、乱暴に私の髪を掴んで歩き始める。抵抗する力もなく、廊下を歩いて、離宮の外に出ると、今度は馬車に押し込まれた。とても王宮の馬車とは思えない質素なもので荷物用なのだろう。明らかに不機嫌な顔をした侍女と向かい合わせに座らされ、馬車は出発した。

 神殿に連れて行くってことは、今日で私は十歳になるのね。一体どうなっているのかはわからないけれど、いったんこの状況を把握しなくちゃ。あちこち身体が痛むがそれが現実味をおびていて、私は逆に冷静になっていった。

 エルディア王国では十歳になると神殿で必ず洗礼を受けることになる。そこでもともと持っている魔力や魔法の属性を記録されることになっている。高位の貴族はもともと魔力を多くもっていて、家門ごとに特化した属性もあるのだけれど、洗礼を受けることで加護と言われる特殊な能力を授かることができる。貴族以外の庶民、平民はもともと魔力は多くないが、洗礼を受けることで生活魔法は使えるようになるので、国民は誰一人漏れることなく、洗礼を受けることが義務づけられているのだ。
 それは、災厄のオッドアイと忌み嫌われている私であっても例外ではない。

 王都で一番大きな神殿の前に立ち、私はため息をついた。
 十歳の誕生日、洗礼の日、忘れるはずもない。
 ーー王国にはびこる瘴気や魔物が増えたのは、私が原因と宣言され、魔の森に追放されることになったあの日に戻ってきてしまった。
 エルディア王国を守護するカルナリエーー神殿の中央には大きな像が祀られ、その前で洗礼は行われるのだ。

 司祭に導かれるままに神殿の奥を進んで、カルナリエを象った大きな像の前で跪く。
 前回はまだ期待していた。このオッドアイは災厄などではないとカルナリエからのお告げがあるんじゃないか、加護の力でオッドアイではなくなるんじゃないかと。期待が大きかっただけに、私を王都から魔の森があるオルフェ領へ行かせよという神託に打ちのめされたな。
 振り返っているうちに司教の祈りの言葉が終わりに近づく。
「エルディア王国の守護神カルナリエ。この者に加護と今後の指針を示したまえ」
 その瞬間、カルナリエ像が光り輝く。
 ……あれ、こんなに眩しかったかしら。目を開けられないぐらいの強い光に思わず戸惑う。なんとか前を見ようと目を細めて開けた瞬間に、聞きなれない声が頭に響いてくる。

『リシェルよ。思い出したかい』
 目の前にカルナリエ像と同じ顔を持つ人がいつの間にか現れていた。
 その姿は男とも女ともつかず、柔らかな輪郭と澄んだ眼差しで跪く私を見下ろしている。
「え……まさか、あなたはカルナリエ様?」
『あぁそうだ。リシェルよ。全て思い出したかい。君は間違って、前の世界に迷い込んでしまった魂だった。あの世界では必要のない眼を持ち、つらい思いをしただろう』
 そういうと、少しせつなそうに目を伏せた。
『ようやく、本来生まれるはずだったこの世界へ連れてきたというのに、君はまた不幸なまま死んでしまった。前の世界との時間のずれのせいで君を取り巻く環境が大きく変わってしまっていたのだ。それに気づかず、いつも通りこの世界に君を送ってしまったのは私の落ち度だ』
「・・・・・・斬首されたのはやはり現実のことだったのですね。」
 マルグリッドに裏切られたことを苦々しく思い出しながらつぶやいた。
 そんなリシェルを優しく見つめながらカルナリエはつづけた。
『そなたには不本意かもしれないがリシェルとして二度目の人生を生きてもらことにしたのだが、このままではまた同じ運命をたどりそうだったからね。』
 リシェルとしての二度目の人生。時間が巻き戻ったのではないということ?

 どういうことか事態を呑み込めないでいる私にカルナリエは言葉をつづけた。
『そなたは間違って異世界に生まれ、そこでは十八歳で亡くなっている。そのあとに予定通りこのエルディア王国に生まれたんだ。ところが、さっきも言った通り、そなたが本来生まれるはずだった時期と大きくずれてしまってね……本来オッドアイは聖女の証として扱われるはずだったのに、その力を正しく発揮することなく斬首刑に処されてしまった。だから、もう一度この世に生まれなおし、リシェルとして二度目の人生を送ってもらっていたんだ」

 その瞬間、胸の奥に封じられていた記憶が一気に解き放たれた。十歳までの人生――孤独や痛み、昨日までそういうものだとして虐められていた二度目のリシェルとしての昨日までの記憶を鮮明に思い出した。
 ーー異世界に迷い込んだために生まれる時期が遅れ、かつて「聖なる証」とされたオッドアイは、時代の変化によって「災厄の象徴」とされる世の中になっていただなんて……


 二つの人生を抱えた感覚に圧倒されながら、私はかすかに呟きながら目の前のカルナリエを見つめた。カルナリエは、優しく私のオッドアイの瞳を見つめ返す。
 夢じゃなかった。全部、全部が起きたことだったなんて。

 カルナリエは静かに言葉を続けた。
『そなたは、一度目同様にオルフェ領へ送られる。今度こそ、魔の森と呼ばれているあの地を蘇らせるのだ。今でこそ人々に恐れられているが、あの場所は本来、神聖な地であった。そのオッドアイは災厄の瞳などではない。聖女が持つ聖眼なのだ。正しく使うことができれば、あの森をよみがえらせることができるだろう。そしてそれこそがこの国を救うことになる』
「私にできるんでしょうか・・・・・・」
 災厄の瞳と呼ばれ、すでに忌み嫌われている私にそんな大事な役目がつとまるのだろうか。

『このままではいずれまた世界は瘴気と魔物に支配されてしまうだろう。だが、これ以上、私がこの世界に関与することは理にはずれてしまう。リシェルよ。今度こそ、そなたが選び取った道を歩めるように――これまでの記憶は封印せず、そのままにしよう。これまで経験や学び、そして過去の痛みですら、すべてが君を導く力となる。忘れたいと願う記憶さえ、君を守る楯となるだろう』

 何と答えていいか言いよどんでいるうちに、カルナリエがどんどん遠ざかっていくのが見えた。『道をはずさなければ、力は発現され正しく使えるようになる。そして、なにより……今度こそ、幸せになるんだよ、リシェル』
 最後の言葉は頭の中に響くようだった。そして優しく微笑んだカルナリエは見えなくなっていた。

 はっと気づくと光は消えていて、元の神殿に戻っていた。カルナリエが見えていたのは私だけらしい。
「第三王女殿下にお伝えします」
 司祭はゆっくりと私に歩み寄り、前回同様に魔の森があるオルフェ領へ向かうように告げると、神殿の後方にいた王妃たちに報告へ向かっていった。
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