アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第一章 龍の料理人

第9話

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 そしてカミルの言葉を守りつつ、先程覚えたを駆使し湖周辺で食べられそうな野草を集めていた時……私の中に、ある疑問が浮かび上がってきた。

 ……こうやって野草を採取するのも新鮮でいいが、せっかく違う世界に来たのならこの世界でしっかりとと定義されているものを一度見てみたいな。
 カミルはいつもこうやって狩りに出ているようだが……この世界に食材とかを扱っている市場とかはないのか?もしあるのなら行ってみたいところだが、カミルに聞いてみようか。

 一先ず今日の分は足りそうなぐらい食べられそうな野草は集まったから、一度カミルの元へと戻ろう。……そういえばさっきからカミルから釣れたと報告が来ないが、不漁なのだろうか?それも一度戻って聞いてみよう。

 一度採集を切り上げてカミルが釣り場にしていた場所に戻ると、そこではカミルが一匹のキラーフィッシュとにらめっこしていた。
 何やら面白そうな予感がするぞ?ちょっと様子を見てみようか。

「ううむ?確かミノルはこの辺に刃を突き立てておったな……いやこの辺じゃったか?……ぐぬぬわからぬ。」

 ……なるほど?どうやらカミルは私がやっていた活〆と血抜きを実践してみたいらしい。だが、やり方がわからず困り果てているようだ。

「ええい、ままよっ!!ここじゃっ……」

「違うぞ、ここだ。」

 自棄やけになり、見当違いな場所に鋭い爪を突き刺そうとしていたカミル。見かねた私はカミルの手を取り、正確な場所を教えてあげた。

「み、ミノル!?いつの間に……。」

「こいつと唸りながらにらめっこしてた辺りから見てたぞ?」

「むぅ……見苦しいところを見られたようじゃな。……そ、それでここに突き刺せば良いのか?」

「あぁ、骨を断ち切るように刺すんだ。」

 爪で骨が断ち切れるのか心配だったが、カミルは何の抵抗もないかのようにズブリ……と鋭い爪を深く突き刺した。すると、キラーフィッシュがビクンと体を跳ねらせ動かなくなった。

「コレが活け〆って技術だ。で、次はその魚の顔の横にあるカパッと開く所にあるエラを切り離すんだ。」

「こ、これか?」

「あぁ、それだ。それを切り離すと大量に血が出てくるから、後は血が止まるまで水に浸けておけばいい。」

「な、なるほどのぉ~。」

 この一通りの作業をカミルは、全てあの鋭い爪だけでやってのけてしまった。
 少なくともカミルのあの爪は包丁と同等……もしくはそれ以上の切れ味を誇っているようだ。

「……っとそうだ。カミル一つ質問があるんだが……いいか?」

「ん?なんじゃ?」

 一段落ついたところで私は差し伸べられたあの事について問いかけることにした。

「この世界の食材とかを売っている場所とかって知らないか?」

「……あるにはあるぞ?じゃが……お主を連れては行けぬ。」

「それは……どうしてだ?」

「妾は昨日も言った通り魔族じゃ。故に魔族の街にしか入れぬ。それはまた逆もしかり、人間のお主は魔族の街には入れぬ。」

 ……つまり人間と魔族の間には何か隔たりがあるということか?カミルの言葉に一つの可能性を見出していると、カミルの次の一言が私の考えていた可能性を確実なものにした。

「これはまだ話しておらんかったが……何千年も前から人間と魔族の間には大きな壁があるのじゃ。」

「……やっぱりか。」

 そんなことだろうとは思った。この世界に存在している全種族が仲良く手を繋いで暮らしているとは最初から思ってはいなかったが……。やはり私がいた地球でもこの世界でもという言葉は存在していないらしい。

 だが、何としても食材は買いに行きたいぞ。わがままを言うようで悪いがなるべく物は自分の目で見たい。
 それに食材の幅が広がれば、それは料理の幅が広がるということだ。

「カミルの魔法で私の姿を変化できないか?」

「うむぅ~……できないことはないが、そんなに長い時間変身は維持できぬぞ?それに妾の魔力が届く範囲にいなければすぐに変身は解けてしまうし……。」

「だが?」

 私の問いかけにカミルは唸りながらも小さく頷いた。

「はぁ~……まったく、ふつうこの世界の人間ならば、魔族の街に行くなど余程の死にたがりかぐらいしか言わぬぞ?」

「ふっ、あいにく私はこの世界の人間ではないのでね。」

「それもそうじゃったな。故にこの世界の道理も通用せぬか……。」

 ニヤリと笑う私を見てカミルは苦笑いを浮かべた。

「わかった。では明日にでも行くとしようかの。ただし、絶対に妾のもとを離れないことじゃ。これが約束できないのなら連れてはいけぬ。」

「もちろん約束しよう。」

 わがままを聞いてもらっているわけだし、それに魔族じゃない人間だとバレたときに私がどうなるかは想像に難くない。もっと言えばこれはカミルの信用問題にもなりかねない。対立関係にある人間という存在の私を魔族の街に連れ込んだとなれば大変な問題になってしまう。それだけは絶対に避けねばならない。

「そういえば、私がこの世界に来る前も狩りをして生計を立ててたんだろ?どうして街に行って食料を調達しなかったんだ?」

「それはな……まぁ今言わなくても明日街に行けばわかるのじゃ。」

 ふと疑問に思ったことを問いかけてみるが、カミルは明日行けばわかると言って答えない。おそらく何かしらの事情があるのは間違いなさそうだ。

「っとさて、今日はこいつで最後の一匹としよう。」

 そう言ってカミルが尻尾を持ち上げると、その先には四匹目のキラーフィッシュが喰いついていた。カミルはさっき私に教えられたとおりにそれを処理すると、水に浸けていた他の三匹と一緒に私に差し出してくる。

「くっふふ……手慣れたものじゃろ?」

「あぁ、いい処理の仕方だ。」

 キラーフィッシュをインベントリに仕舞うと、カミルはこちらに手を差し伸べてきた。

「では今日の狩りは終いじゃ。腹も減ったことじゃし、帰って飯にするのじゃ~。今日も美味いものを食わせてくれるんじゃろ?」

「あぁ、任せてくれ。できうる限りで最高の料理を提供しよう。」

「期待しておるぞ~。」

 料理を期待して口元から若干よだれが垂れつつあるカミルに抱えられて、彼女の住処であるあの城へと帰るのだった。
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