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第一章 龍の料理人
第16話
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中に入ると、カミルへと向かって一人の恰幅のいい男が急ぎ足で近づいてきた。
「こっ、これはこれはカミル様……我が商会に一体何の御用でしょうか?」
「妾が用があって来たわけではない。ここに用事があるのは妾の供じゃ。」
そう言ってカミルはこちらの方を見てきた。そしてカミルの視線を追うようにこちらを見てきたその男と私は目が合う。
「奴隷……でございますか?」
男が私のことを奴隷と口にした瞬間、カミルの表情が怒りに染まる。その怒りを体現するかのようにカミルの周りにメラメラと炎が漂い始めた。
「口を慎め劣等魔族が……。薄汚い奴隷と妾の供を愚弄するかっ!!」
「ひっ!!も、申し訳ございませんカミル様!!なにとぞ……なにとぞお許しをっ!!」
男はカミルの怒気を恐れ、地に平伏し許しを乞い始めた。しかしカミルの怒りは一向に収まりがつきそうにはない。このままでは本当に彼が焼き殺されてしまいそうだ。
「カミル落ち着いてくれ。この人を殺してしまったら、物が買えなくなってしまう。」
「殺してすべて奪えばよいではないか?」
「それでは罪人と同じだ。さっき言っていた薄汚い奴隷と何ら変わらない。それともカミルは本当に私のことをそれにしたいのか?」
「む、むぅ……そういうわけではないのじゃ。」
私に諭され、カミルはあふれ出ていた怒気と炎を鎮めた。そして今一度男に向き合い彼を見下しながら言った。
「ふん……ミノルに感謝するのじゃな。こやつの言葉がなければ今頃お主は灰になっておったぞ。」
「は……まことに感謝申し上げます。」
彼は一度頭を上げて感謝の言葉を述べた後、もう一度深く頭を下げた。
「ま、まぁ頭を上げてください。今日はあるものを探しに来たんです。」
「なんでもおっしゃってください。我が商会の名に懸けてお揃え致します。」
「それじゃあ、手始めに……料理に使えるような調味料をすべてここに揃えてもらえませんか?」
「調味料でございますか?かしこまりました。直ちにご準備いたしますので、こちらの部屋でお待ちになっていてください。……おい、カミル様方にお茶をお出ししろ。私はご所望の物をそろえてくる。」
そして彼は私たちを接待用の部屋に案内し、一人の従業員にお茶を持ってこさせるように言いつけると、店の奥へと消えていった。
「し、失礼いたします。こちらアサム茶です。」
「アサム茶?」
「は、はいっ。ここから東にあるアサムの高山地帯でのみ採れる茶葉を使って作られたお茶になります。そっ、それでは会長がお戻りになるまでもう少々お待ちください。」
私たちにお茶を出し、軽く説明をするとその従業員の女性はそそくさと恐れるように部屋を後にしていった。
「ずいぶん怖がられてるな。」
「これも他の古龍のやつらがあちこちで恐怖を振り撒いておるせいじゃ。まったくこちらとしては傍迷惑な話じゃ。」
「他の古龍って言うと、昨日会った風迅龍……ヴェルだったっけ?」
「あやつは重度の引きこもりじゃから滅多に表に出てくることはない。問題は他の三龍じゃ。あやつらはまさに暴虐の権化よ。そのせいでこんなにも恐れを抱かれておる。」
うんざりしたようにため息交じりにカミルは言った。余程迷惑しているらしい。
「そういうことだったか。」
カミルの話に納得しながらも、私は出されたお茶に手を付けた。紅茶のように香ばしく甘い香りだが、色は黄色に近い。
味は……ん~、渋味が強いな。苦いし……正直言って美味しくない。一口飲んだ私を見てカミルは少し含み笑いを浮かべながら言った。
「くっくく……美味しくなかろう?」
「香りはいいがな。苦みと渋味が強くて正直美味しくはない。抽出方法が間違っているのかもな。」
こういう茶葉を使うものは、お湯の温度だったり水の種類によって味が大きく変わる。まっ、実物を見てないし……どういう風にこれを淹れているのかわからないから根本的な原因はわからないがな。
出されたものを残すのもあれなので、その苦いアサム茶を一気に飲み干し空になったカップをテーブルの上に置いた。
「ふぅ……こういうのは甘ったるいお菓子とかが一緒にあれば多少は美味しく感じるんだろうな。」
「菓子か、ミノルがいた世界にはどんな菓子があったんじゃ?」
「いろいろあったぞ?それこそ数えきれないぐらいな。」
「うらやましい限りじゃのぉ~。なにせこの世界には菓子と言ったら一つしかない。穀物の粉末を甘く味付けして焼いただけのかった~い菓子だけじゃ。アレも美味しくないぞ~?」
私はカミルの言葉を聞いて耳を疑うとともに、この世界にある二つの調味料の存在を知った。
「穀物の粉末……それに甘みを付与するものもあるのか?」
可能性としては小麦粉と砂糖という可能性が濃厚だが……それさえあればいろんなお菓子が作れるはず。料理の設備もそこそこいいものが開発されているのにもかかわらず、料理やお菓子といったもののジャンルは狭そうだ。
「うむ、おそらくそれもあやつが持ってくるじゃろう。……にしても遅いの、妾を待たせるとはいい度胸をしておるわ。」
「まぁまぁ、使えそうなものを全てと言ったからそろえるのに多少時間はかかるだろう。もう少し待ってようじゃないか。」
「む~……お主がそういうのであればもう少しだけ待ってやるのじゃ。」
待ちくたびれてそわそわし始めたカミルをなだめていると、部屋の扉がコンコンとノックされ、その扉のから先ほどの男が入ってきた。
「お、お待たせいたしました。」
「大丈夫です。それでどうですか?どのぐらい集まりました?」
「ご満足いただけるほどかと……。おい、そこに置いてあるのを持って入ってきてくれ。」
ぱんぱんと彼が手を叩き扉の向こうに声をかけると、何人かの従業員らしき人達が入ってきてテーブルの上に集めたものを並べていった。
さて、このなかに使えるものがどれだけあるか……しっかり見分けないとな。
「こっ、これはこれはカミル様……我が商会に一体何の御用でしょうか?」
「妾が用があって来たわけではない。ここに用事があるのは妾の供じゃ。」
そう言ってカミルはこちらの方を見てきた。そしてカミルの視線を追うようにこちらを見てきたその男と私は目が合う。
「奴隷……でございますか?」
男が私のことを奴隷と口にした瞬間、カミルの表情が怒りに染まる。その怒りを体現するかのようにカミルの周りにメラメラと炎が漂い始めた。
「口を慎め劣等魔族が……。薄汚い奴隷と妾の供を愚弄するかっ!!」
「ひっ!!も、申し訳ございませんカミル様!!なにとぞ……なにとぞお許しをっ!!」
男はカミルの怒気を恐れ、地に平伏し許しを乞い始めた。しかしカミルの怒りは一向に収まりがつきそうにはない。このままでは本当に彼が焼き殺されてしまいそうだ。
「カミル落ち着いてくれ。この人を殺してしまったら、物が買えなくなってしまう。」
「殺してすべて奪えばよいではないか?」
「それでは罪人と同じだ。さっき言っていた薄汚い奴隷と何ら変わらない。それともカミルは本当に私のことをそれにしたいのか?」
「む、むぅ……そういうわけではないのじゃ。」
私に諭され、カミルはあふれ出ていた怒気と炎を鎮めた。そして今一度男に向き合い彼を見下しながら言った。
「ふん……ミノルに感謝するのじゃな。こやつの言葉がなければ今頃お主は灰になっておったぞ。」
「は……まことに感謝申し上げます。」
彼は一度頭を上げて感謝の言葉を述べた後、もう一度深く頭を下げた。
「ま、まぁ頭を上げてください。今日はあるものを探しに来たんです。」
「なんでもおっしゃってください。我が商会の名に懸けてお揃え致します。」
「それじゃあ、手始めに……料理に使えるような調味料をすべてここに揃えてもらえませんか?」
「調味料でございますか?かしこまりました。直ちにご準備いたしますので、こちらの部屋でお待ちになっていてください。……おい、カミル様方にお茶をお出ししろ。私はご所望の物をそろえてくる。」
そして彼は私たちを接待用の部屋に案内し、一人の従業員にお茶を持ってこさせるように言いつけると、店の奥へと消えていった。
「し、失礼いたします。こちらアサム茶です。」
「アサム茶?」
「は、はいっ。ここから東にあるアサムの高山地帯でのみ採れる茶葉を使って作られたお茶になります。そっ、それでは会長がお戻りになるまでもう少々お待ちください。」
私たちにお茶を出し、軽く説明をするとその従業員の女性はそそくさと恐れるように部屋を後にしていった。
「ずいぶん怖がられてるな。」
「これも他の古龍のやつらがあちこちで恐怖を振り撒いておるせいじゃ。まったくこちらとしては傍迷惑な話じゃ。」
「他の古龍って言うと、昨日会った風迅龍……ヴェルだったっけ?」
「あやつは重度の引きこもりじゃから滅多に表に出てくることはない。問題は他の三龍じゃ。あやつらはまさに暴虐の権化よ。そのせいでこんなにも恐れを抱かれておる。」
うんざりしたようにため息交じりにカミルは言った。余程迷惑しているらしい。
「そういうことだったか。」
カミルの話に納得しながらも、私は出されたお茶に手を付けた。紅茶のように香ばしく甘い香りだが、色は黄色に近い。
味は……ん~、渋味が強いな。苦いし……正直言って美味しくない。一口飲んだ私を見てカミルは少し含み笑いを浮かべながら言った。
「くっくく……美味しくなかろう?」
「香りはいいがな。苦みと渋味が強くて正直美味しくはない。抽出方法が間違っているのかもな。」
こういう茶葉を使うものは、お湯の温度だったり水の種類によって味が大きく変わる。まっ、実物を見てないし……どういう風にこれを淹れているのかわからないから根本的な原因はわからないがな。
出されたものを残すのもあれなので、その苦いアサム茶を一気に飲み干し空になったカップをテーブルの上に置いた。
「ふぅ……こういうのは甘ったるいお菓子とかが一緒にあれば多少は美味しく感じるんだろうな。」
「菓子か、ミノルがいた世界にはどんな菓子があったんじゃ?」
「いろいろあったぞ?それこそ数えきれないぐらいな。」
「うらやましい限りじゃのぉ~。なにせこの世界には菓子と言ったら一つしかない。穀物の粉末を甘く味付けして焼いただけのかった~い菓子だけじゃ。アレも美味しくないぞ~?」
私はカミルの言葉を聞いて耳を疑うとともに、この世界にある二つの調味料の存在を知った。
「穀物の粉末……それに甘みを付与するものもあるのか?」
可能性としては小麦粉と砂糖という可能性が濃厚だが……それさえあればいろんなお菓子が作れるはず。料理の設備もそこそこいいものが開発されているのにもかかわらず、料理やお菓子といったもののジャンルは狭そうだ。
「うむ、おそらくそれもあやつが持ってくるじゃろう。……にしても遅いの、妾を待たせるとはいい度胸をしておるわ。」
「まぁまぁ、使えそうなものを全てと言ったからそろえるのに多少時間はかかるだろう。もう少し待ってようじゃないか。」
「む~……お主がそういうのであればもう少しだけ待ってやるのじゃ。」
待ちくたびれてそわそわし始めたカミルをなだめていると、部屋の扉がコンコンとノックされ、その扉のから先ほどの男が入ってきた。
「お、お待たせいたしました。」
「大丈夫です。それでどうですか?どのぐらい集まりました?」
「ご満足いただけるほどかと……。おい、そこに置いてあるのを持って入ってきてくれ。」
ぱんぱんと彼が手を叩き扉の向こうに声をかけると、何人かの従業員らしき人達が入ってきてテーブルの上に集めたものを並べていった。
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