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第一章 龍の料理人
第21話
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料理に飛び付いたカミルはフォークで一気に何枚ものサーロインを串刺しにして豪快に口へと運んだ。そして何度か咀嚼してゴクリ……と大きな音をたてて飲み込むと恍惚とした表情を浮かべた。
「はぁぁぁ~……至福じゃぁ~。肉が甘く口の中でとろけるのじゃ~。」
さぞかし幸せそうにカミルはどんどん盛り付けられていたサーロインを平らげていく。そしてサーロインが無くなると、次はシャトーブリアンに狙いを定めた。
「これは……なんじゃ?さっきの肉よりも遥かに分厚い。」
「それはシャトーブリアンって部位の肉だ。」
「そんな肉買っておったか?」
カミルは首をかしげる。確かに私はサーロインとフィレ……この二つの部位しか買ってはいない。それをカミルも見ていたから不思議なのだろう。
「そいつはフィレって肉の中心部分の一番柔らかい肉なんだ。牛の中でも一番柔らかく、美味しい希少部位だな。」
「ほぉ~……一番柔らかいとな?」
「あぁ、それにフィレの食感はサーロインとはまた違うから、別の食感を楽しめるはずだ。」
「なるほど、なるほど~?ではでは……いっただくのじゃ~!!」
にんまりと笑みを浮かべたカミルは分厚いシャトーブリアンにフォークを刺し一口で口へと運ぶ。
「むっふ~……。」
「相変わらず豪快だな。」
カミルはシャトーブリアンを口一杯に頬張ると、両手で自分の頬を押さえくねくねと体をくねらせる。その姿はまるで全身で美味しさを表現しているかのようだ。
歯がなくても噛みきれてしまいそうなほど柔らかい肉の中には、これでもか……と旨味が凝縮された肉汁が詰まっている。
それは肉を噛んだ瞬間に口の中で弾け、大洪水を起こす。つまるところ、今カミルの口の中では肉汁の大洪水が起こっているというわけだな。
そしてカミルはじっくりとそれを味わった後、ゴクリ……と呑み込んだ。
「~~~ッはぁ~……口の中が幸せじゃ~。」
「それは結構だ。まだサラダもスープもあるからそれもしっかり食べてくれよ?」
「もちろんじゃ!!」
カミルは残ったスープとサラダにも手をつけ始めた。それを眺めた私は一人、厨房を後にしてホルスタンがいる中庭へと向かった。
というのも、カミルが所望していたお菓子を作るにはホルスタンから採れるバターが必要だからだ。
「よしよし……少し乳を搾っても良いか?」
「ンモッ!!」
頭を撫でながら問いかけるとホルスタンは体の向きを変え、私に横っ腹を見せるような形に体勢を変えた。私が搾りやすいように動いてくれたのだろうか?
「ありがとな。さて……え~っと確か先ずは不純物が混じってるかもしれない最初の捨て乳を搾るんだよな。」
以前一度知り合いの農家でやらせてもらったときには最初の3~4回の搾った牛乳は捨てていた。なにやら細菌が多くいるのだとか……。
それに従い、私も最初の何回かの搾った牛乳は捨てることにした。
「このぐらいでいいだろう。後は綺麗な布で一回拭いて……本搾りに入ればいいんだったか。」
ポタポタと垂れている牛乳を綺麗な布で拭き取る。これで細菌性の高い捨て乳を本当の牛乳に混ぜないようにするらしい。
「よし……じゃあこの瓶一本分搾らせてもらうぞ。」
ホルスタンに痛みとストレスを与えないように優しく牛乳を搾る。すると、あっという間に2L位入る瓶が一杯になってしまった。
「あっという間だったな。最後にもう一回綺麗な布で垂れている牛乳を拭き取ってあげたら……よし、終わりだ。ありがとな。」
「ンモ~ッ。」
ポンポンと感謝の意味を込めてホルスタンの頭を撫でてあげると、ホルスタンは再び足元に生えている草を食み始めた。
「……さて、カミルのとこに戻るか。」
新鮮な牛乳も搾れたし、戻ってお菓子作りの準備をしよう。先ずはバターを作るところから始めないといけないな。あの作業はなかなか骨が折れる作業なのだが……ここでお菓子を作る上では避けては通れない道だ。
そしてカミルがいる厨房へと戻ると……。
「んっふ~……満足じゃぁ~。」
台の上に幸せそうに突っ伏すカミルの周りにある皿には何一つ残っていなかった。私がここを出るときに残っていたサラダもスープも全て平らげてしまっていたようだ。
こういう風に全て綺麗に残さず食べてもらえることほど料理人冥利に尽きることはないな。
そう思っていると、戻ってきた私に気が付いたカミルが話しかけてくる。
「おっ?ミノル、戻ってきたか。どこへ行っておったのじゃ?」
「ちょっとこいつを貰いに行ってたんだよ。」
私はカミルに瓶いっぱいに入った牛乳を見せた。すると、最初は不思議そうにそれを眺めていたカミルだったが……だんだんと表情が青くなり終には。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁッ!!忘れておったのじゃ~ッ!!」
「い、いきなりどうした?頭を抱えて大きな声だして……。」
「うぁぁぁぁ~……ミノルっお主それで今から菓子を作るつもりじゃろ?菓子の分胃袋を開けておくのをすっかり忘れておったのじゃ~!!」
半泣きになりながらカミルは言った。
「カミル、少し良いことを教えてやろうか?」
「うっ、うっ……なんじゃ~?」
「甘いお菓子ってのは食べるときに体が本能で少~し胃袋を空けるんだぞ?」
俗にいう別腹ってやつだな。
「なっ……まっ誠か!?」
「本当だ。まっ、今からお菓子を作るから食べられるなら食べてみれば良いじゃないか。」
今から作るのは時間が経っても美味しく食べられるお菓子だし……焦って食べることはない。
「き、希望が見えてきたのじゃ~!!そうと決まればミノル、早く作るのじゃ!!」
一気に表情を明るくしたカミルは私を急かすように言った。なら、今回はちょっとカミルにも協力してもらおうかな。
「はぁぁぁ~……至福じゃぁ~。肉が甘く口の中でとろけるのじゃ~。」
さぞかし幸せそうにカミルはどんどん盛り付けられていたサーロインを平らげていく。そしてサーロインが無くなると、次はシャトーブリアンに狙いを定めた。
「これは……なんじゃ?さっきの肉よりも遥かに分厚い。」
「それはシャトーブリアンって部位の肉だ。」
「そんな肉買っておったか?」
カミルは首をかしげる。確かに私はサーロインとフィレ……この二つの部位しか買ってはいない。それをカミルも見ていたから不思議なのだろう。
「そいつはフィレって肉の中心部分の一番柔らかい肉なんだ。牛の中でも一番柔らかく、美味しい希少部位だな。」
「ほぉ~……一番柔らかいとな?」
「あぁ、それにフィレの食感はサーロインとはまた違うから、別の食感を楽しめるはずだ。」
「なるほど、なるほど~?ではでは……いっただくのじゃ~!!」
にんまりと笑みを浮かべたカミルは分厚いシャトーブリアンにフォークを刺し一口で口へと運ぶ。
「むっふ~……。」
「相変わらず豪快だな。」
カミルはシャトーブリアンを口一杯に頬張ると、両手で自分の頬を押さえくねくねと体をくねらせる。その姿はまるで全身で美味しさを表現しているかのようだ。
歯がなくても噛みきれてしまいそうなほど柔らかい肉の中には、これでもか……と旨味が凝縮された肉汁が詰まっている。
それは肉を噛んだ瞬間に口の中で弾け、大洪水を起こす。つまるところ、今カミルの口の中では肉汁の大洪水が起こっているというわけだな。
そしてカミルはじっくりとそれを味わった後、ゴクリ……と呑み込んだ。
「~~~ッはぁ~……口の中が幸せじゃ~。」
「それは結構だ。まだサラダもスープもあるからそれもしっかり食べてくれよ?」
「もちろんじゃ!!」
カミルは残ったスープとサラダにも手をつけ始めた。それを眺めた私は一人、厨房を後にしてホルスタンがいる中庭へと向かった。
というのも、カミルが所望していたお菓子を作るにはホルスタンから採れるバターが必要だからだ。
「よしよし……少し乳を搾っても良いか?」
「ンモッ!!」
頭を撫でながら問いかけるとホルスタンは体の向きを変え、私に横っ腹を見せるような形に体勢を変えた。私が搾りやすいように動いてくれたのだろうか?
「ありがとな。さて……え~っと確か先ずは不純物が混じってるかもしれない最初の捨て乳を搾るんだよな。」
以前一度知り合いの農家でやらせてもらったときには最初の3~4回の搾った牛乳は捨てていた。なにやら細菌が多くいるのだとか……。
それに従い、私も最初の何回かの搾った牛乳は捨てることにした。
「このぐらいでいいだろう。後は綺麗な布で一回拭いて……本搾りに入ればいいんだったか。」
ポタポタと垂れている牛乳を綺麗な布で拭き取る。これで細菌性の高い捨て乳を本当の牛乳に混ぜないようにするらしい。
「よし……じゃあこの瓶一本分搾らせてもらうぞ。」
ホルスタンに痛みとストレスを与えないように優しく牛乳を搾る。すると、あっという間に2L位入る瓶が一杯になってしまった。
「あっという間だったな。最後にもう一回綺麗な布で垂れている牛乳を拭き取ってあげたら……よし、終わりだ。ありがとな。」
「ンモ~ッ。」
ポンポンと感謝の意味を込めてホルスタンの頭を撫でてあげると、ホルスタンは再び足元に生えている草を食み始めた。
「……さて、カミルのとこに戻るか。」
新鮮な牛乳も搾れたし、戻ってお菓子作りの準備をしよう。先ずはバターを作るところから始めないといけないな。あの作業はなかなか骨が折れる作業なのだが……ここでお菓子を作る上では避けては通れない道だ。
そしてカミルがいる厨房へと戻ると……。
「んっふ~……満足じゃぁ~。」
台の上に幸せそうに突っ伏すカミルの周りにある皿には何一つ残っていなかった。私がここを出るときに残っていたサラダもスープも全て平らげてしまっていたようだ。
こういう風に全て綺麗に残さず食べてもらえることほど料理人冥利に尽きることはないな。
そう思っていると、戻ってきた私に気が付いたカミルが話しかけてくる。
「おっ?ミノル、戻ってきたか。どこへ行っておったのじゃ?」
「ちょっとこいつを貰いに行ってたんだよ。」
私はカミルに瓶いっぱいに入った牛乳を見せた。すると、最初は不思議そうにそれを眺めていたカミルだったが……だんだんと表情が青くなり終には。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁッ!!忘れておったのじゃ~ッ!!」
「い、いきなりどうした?頭を抱えて大きな声だして……。」
「うぁぁぁぁ~……ミノルっお主それで今から菓子を作るつもりじゃろ?菓子の分胃袋を開けておくのをすっかり忘れておったのじゃ~!!」
半泣きになりながらカミルは言った。
「カミル、少し良いことを教えてやろうか?」
「うっ、うっ……なんじゃ~?」
「甘いお菓子ってのは食べるときに体が本能で少~し胃袋を空けるんだぞ?」
俗にいう別腹ってやつだな。
「なっ……まっ誠か!?」
「本当だ。まっ、今からお菓子を作るから食べられるなら食べてみれば良いじゃないか。」
今から作るのは時間が経っても美味しく食べられるお菓子だし……焦って食べることはない。
「き、希望が見えてきたのじゃ~!!そうと決まればミノル、早く作るのじゃ!!」
一気に表情を明るくしたカミルは私を急かすように言った。なら、今回はちょっとカミルにも協力してもらおうかな。
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