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第一章 龍の料理人

第20話

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 そしていつも通りカミルは城の中庭に降り立つと、優しく私を下ろしてくれた。さて、まずはインベントリを開いて……。

「で、この牛の画像を触る。」

 デフォルメされた牛の画像を触ると、私の目の前にさっき街で購入したホルスタンという種類の牛が出現した。

「ンモッ。」

「今日からここがお前の家だ。外は魔物がいるからここから出ないようにするんだぞ?」

 あたりをきょろきょろと見渡すとホルスタンは、下に生えている雑草を食べ始めた。

「これで面倒な雑草の処理は勝手にこいつがやってくれそうじゃな。」

「面倒って言っても……カミルの場合燃やし尽くすだけだろ?」

「まぁの~。じゃが生草は燃えにくいのじゃ、それに燃やすと匂う。乾燥している草ならあっという間に燃えるのじゃが……。」

 確かにカミルの言う通りだな。生草は燃やすと独特のにおいがする。だからカミルは城の中は綺麗にしていても、周りの手入れはしてなかったのか。……それか単に面倒だっただけかもしれない。

「で?こ奴はこのまま放置していてよいのか?」

「あぁ、大丈夫なはずだ。」

 日本でも牛は自然の中で生活させるっていう酪農方法がある。本当は広大な自然の中で自由に生活させるのだが……。まぁ、この城の中庭も結構広いスペースがあるから牛一頭程度だったらある程度は縛られずにストレスフリーに生きれるだろう。

「では料理を作りに行くのじゃッ!!妾は腹ペコじゃ~!!」

 とんでもない力で私の手を取ったカミルは、上機嫌に鼻歌を口ずさみながら私のことを城の中へと引きずる。

「だからっ!!自分で歩けるって!!引っ張るな!!」

 力が強くなったというのに、カミルに引きずられると何も抵抗ができない。カミルの生き血とやらのおかげで多少力が強くなったとはいえ……本家カミルの力の足元にも及ばないようだ。
 何の抵抗もできずにずるずると引きずられ、結局厨房まで引きずられてきてしまった。

 当のカミルは私のことを厨房まで引きずると、満足したように大きく頷きいつもの位置に小走りで向かう。そして早く作れと言わんばかりにそわそわした様子でこちらをじっと見つめてくる。

 それじゃあ……カミルの我慢の限界が来る前に手早く作るとしようか。

「……っとさて、まずは肉の掃除からしていかないとな。」

 塊のサーロインとフィレをインベントリから取り出してまな板の上に置いた。まずはサーロインの掃除からしよう。
 塊のサーロインの掃除方法はいろいろあるが……私のやり方は、至極単純だ。サーロインの腹に近いほうの脂身はある程度残し、背骨に近いほうの脂身と筋を取り除くというやり方だ。

「背骨に近いほうの筋は口の中に残りやすいからな。しっかり取り除いていこう。」

 筋は使わないけど、この脂は使い道がある。まぁこの筋も圧力鍋とかで煮込めばちゃんとした料理になるが、残念だが……今回は見送りだ。後で脂は焼いて溶かして固めて牛脂にしよう。

「これで良し、次はフィレの掃除だ。」

 フィレの掃除はサーロインよりも簡単で単に横一本に入ってる筋を取り除いたらそれで終わりだ。

「あとは真ん中のシャトーブリアンだけを切り分けて……終わり。」

 シャトーブリアンというのは一度は耳にした言葉があると思う。だが、あまり知られていないのがこれはフィレという部位の一部であるということだ。正確に言えばこれはフィレの中央部分に存在する最も柔らかく、程よい脂がのっている部分なのだ。

「これだけはサーロインと同じくシンプルに焼いてカミルに食べさせてあげよう。」

 残ったフィレの部分はまた別の料理にしてカミルに食べ比べをしてもらえば面白そうだ。多分いい反応を示してくれると思う。今から楽しみだな。

 さて……あとはこれを全部切り分けて下味をつけて焼くだけだ。

 サーロインとフィレ、そしてシャトーブリアンに塩とブラックペッパーで下味をつけてこれを馴染ませておく。その間に……。

「口休めのスープとサラダを作っておこう。」

 きれいに洗った鶏ガラと香味野菜を鍋に入れて水を張り、火にかける。 
 あとはしっかりと灰汁を取り除いて、きれいなブイヨンを引くだけだ。時間をかけない分あっさりとしたブイヨンになるが……脂っこい肉をたくさん食べるから逆にちょうどいいだろう。

 しっかりと野菜の甘み、そして鶏ガラから旨味が抽出出来たら裏ごして塩でしっかりと当たりをつけたら完成……と言いたいところだが。

「今回はこの玉ねぎっぽい野菜を極薄スライスにしたものを散らそう。……これで良し。」

 スープはこれで良い。後はサラダだ。 

「サラダにはこのフィレを使おう。にしてな。」

 というのは外側を香ばしく焼き、内側をジューシーなレアの状態にする調理法のことだ。

 まずは下味をしっかりとつけたフィレに高温に熱したフライパンで焼き色をつける。そしたらあら熱をとり、肉を落ち着かせた後薄く……刺身のように切り分けて皿に並べていく。

「後はこの上にこの葉野菜とさっきの玉ねぎスライスの余りを散りばめて……最後にライムルの果汁を落とす。」

 本当は赤ワインを使ったソースを作りたかったんだが……あの商会にも置いてないらしかったからな。仕方ない。

「さ……仕上げだ。」

 フィレ同様に高温に熱したフライパンで切り分けたステーキを焼いていく。このとき大切なのは火加減だ。ちょっと火加減が弱いと表面に思ったように焼き色がつかず、中に火が入りすぎてしまう。かといって高温すぎれば焦げる。
 ま、慣れてくるとフライパンに手を近づけるだけで適切な温度がわかるようになってくる。要はだ。

 そして焼き上がったステーキを大皿に並べる。分かりやすいようにシャトーブリアンは別の皿に盛り付け、温めたスープとサラダをカミルの前に置いた。

「待たせたな。」

「……じゅる……よ、涎が止まらんのじゃ~。もう喰っても良いかの?のっ!?」

 料理を目の前にしてカミルの涎は留まることを知らないようだ。まるで漫画のように口元から滝のように溢れだしている。

「あぁ、食べるといい。冷めないうちにな。」

「良しッ!!ではいただくのじゃ~!!」

 我慢という名の鎖から解き放たれたカミルは凄まじい勢いで料理に飛び付き、食べ始めた。
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