アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
32 / 200
第一章 龍の料理人

第31話

しおりを挟む
 昨日肉を買った肉屋へと向かっている途中、私はある店の前で歩みを止めた。そして私が歩みを止めると二人も足を止めた。

「なんじゃミノル、この店に何か用か?」

「あぁ、ちょっとな。多分ここでしか買えないものがある。」

 お店の中に入ろうとしたとき、突然ヴェルに後ろから声をかけられた。

「……言ってなかったけど、ちなみに私パンって嫌いよ?」

 露骨に嫌そうな表情を浮かべながらヴェルは言った。
 そう、今から入ろうとしていたのはこの世界のパン屋だったのだ。

「ちなみに理由を聞いても?」

「だって~あんな固くてパッサパサなの美味しくないもの。」

「……なるほどな。」

 どうやらこの世界のパンはヴェル曰く固くてパサパサしているらしい。柔らかいパンがないのは残念だが、生憎ここにはパンそのものを買いに来たわけではないから、一旦誤解を解こうか。

「大丈夫、ここにはパンを買いに来たわけじゃない。……厳密にいえばパンには変わりないが。」

 誤解を解くためにヴェルにそう話し、私は店の扉を開ける。すると、パンが並べられているショーケースのようなものの後ろからひどく怯えた魔族の女性が顔を出した。

「ひっ……あ、あの、な、何か御用でしょうか?」

「パンくずをもらいたいんだが、置いているか?」

「ぱ、パンくず……ですか?」

「あぁ、大量にほしい。」

「少々お待ちくださいっ!!」

 バタバタと慌てて店員の女性は店の奥へと消えた。そして数分後……。

「お待たせしましたっ!!こ、こちらでよろしいですか?」

 戻ってきた彼女は袋いっぱいに詰まったパンくずを携えていた。

「あぁ、問題ない。いくらだ?」

「こ、こんなパンくずなんかでお金なんてもらえませんっ!!どうぞ持って行ってくださいっ。」

「え、いや、でも……。」

「持って行ってください!!」

 その女性の気迫に押され、私は渋々それを受け取り店を後にした。

「無償で物をもらえるとは得をしたではないかミノルよ。」

「ん~、まぁな。」

 多分早く出て行ってほしかっただけだと思うけど。まぁ結果的にはこれが手に入ったからいっか。手に入らないよりかは遥かに良い結果だ。

「にしても、ミノルそんなパンのくずをどうするつもりなのよ。」

「これがまたいろんなことに使えるんだ。特に料理にはな……。」

「へぇ~……そうなんだ。」

 納得したようにヴェルは頷く。

「それで次はどこへ向かうのじゃ?」

「次は昨日寄った肉屋だ。」

「おぉ!!ではまたサーロインとやらでも買うのかの?あの肉は美味かったのじゃ~」

 昨日食べたサーロインステーキを思い出し目を輝かせるカミルだったが、生憎今回はサーロインのような高級な肉を買うつもりはない。

「今日は昨日みたいに高級なのは買わないぞ?」

「な、なん……じゃと?」

 予想外の私の返答にカミルは驚愕の表情を浮かべながらがっくりと肩を落とす。そして私の言葉に驚いたのはカミルだけではなかった。

「え、なんで?普通高級なものの方が美味しいんじゃないの?」

「普通はその通りだ。だが、高級な肉を使って美味しい料理を作るのは誰だってできることだ。だって肉そのものが美味しいからな。」

 そう、美味しい肉さえ使えば素人でだって美味しいものが作れてしまう。だから私は料理人としての腕を見せるためにあえて今回は高級なものは一切使わない。だが、それでいて最高に美味しいものを作る。

「さ、着いたな。」

 そんな話をしていたらあっという間に昨日訪ねた肉屋についてしまった。そして肉屋の前で立ち止まると中から昨日肉を勧めてくれたあの女性の店主が出てきた。

「か、カミル様にヴェル様まで……よ、ようこそいらっしゃいました!!本日は何かお探しですかっ?」

 少し緊張しているようだが昨日と同じように元気に私たちの接客をしてくれる彼女。正直客側としてはとても心地が良い気分になるからとても良い接客だと思う。

「今日は牛もも肉と豚バラ肉を探しに来たんだ。それで……ちょっと質問なんだがひき肉とかって置いてないよな?」

「ひき肉?初めて聞くお肉の名前ですね~……残念ですけどここでは扱ってません。でも牛さんのもも肉と豚さんのバラ肉だったら扱ってますよ?」

「そうか、なら牛もも肉をブロックで二つと、豚バラのブロックを二枚……で、牛もも肉の方はなるべく脂が少ないやつで頼む。」

「わっかりました~……。それではちょっとおまちくださいね~。」

 こちらにぺこりと一つお辞儀をして彼女は店の奥へと消えた。そして彼女がいなくなると、私の隣にいたヴェルが話しかけてきた。

「買うお肉が決まっていたってことはもう作る料理は決まったの?」

「おおかたな。」

 ひき肉がなかったのは残念だったが……幸い私にはその道具がある。日本にいたときに買っておいて本当に良かった。自分で買った道具だからインベントリの中に最初から入っていたんだ。
 ただ量が量だから大変な作業になるのは間違いない。だが、美味しいものを作るためには仕方がないな。

「お待たせしました~!!えっと、こちらが一角牛のもも肉のブロックですね。それでこちらが黒金豚のバラ肉二枚になります!!ご要望通りもも肉の方は脂肪が少ないものをご用意しました。」

「ん、ありがとう。」

 一角牛に黒金豚か……どんな見た目なのか名前から想像できるな。要望通りもも肉の脂肪は少ない。その反面バラ肉にはほどほどに脂肪がついている。いい塩梅だ。

「これでいくらだ?」

「金貨3枚ですっ。」

 金貨3枚か、まだカミルにもらったポケットマネーから支払えるな。インベントリからお金が入った袋を取り出してそこから金貨3枚を支払った。

「はいっ確かに金貨3枚いただきました!!他には何か入り用の物はございませんか?」

「いや、大丈夫だ。これだけあれば問題ない。」

「わかりました~……。あ、あの、それとはまた別のことなんですけど……さっき言ってたってものがどんなものなのか教えてもらえたりってします?」

 おずおずとしながら肉屋の店主の女性は聞いてきた。別に隠すほどのことでもないし教えてあげようか。それに次回来た時から用意してもらえたのならこちらとしても助かる。
 
「ひき肉っていうのはな………。」

 私はひき肉というものがどんなものなのか、そしてそれがどうやって作られるのかを彼女に教えた。すると、とても興味深そうに彼女は話に聞き入っていた。これはもしかすると本当に次回用意していてくれるのかもしれないな。
 彼女にひき肉のことを教えた後、私たちは店を後にしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

異世界で「節分」始めました。~聖なる大豆と恵方巻で、痩せた荒野を最強の農園国家に作り替えます~

黒崎隼人
ファンタジー
目覚めればそこは、草木も生えぬ死の荒野だった。 農家の息子・ハルトが手にしたのは、たった一粒の干からびた大豆と、謎のスキル【節分】。 「鬼はぁ、外ォッ!」 その掛け声と共に放たれた豆は、魔物(赤鬼)を一撃で浄化し、痩せた土地を肥沃な大地へと変える規格外の力を持っていた!? 無限に増えるSSSランクの聖なる大豆。一瞬で育つ野菜たち。 そしてスキルで生み出した「恵方巻」の美味しさは、行き倒れていた元エリート女騎士・セシリアの胃袋を完全に掴んでしまい……? 豆の精霊マメゾウや、グルメなギルドマスターを巻き込んで、ハルトの異世界農業生活が今、始まる。 豆まきで世界を救い、美味しい日本食で仲間を笑顔にする、ほのぼの農園ファンタジー!

追放された万能聖魔導師、辺境で無自覚に神を超える ~俺を無能と言った奴ら、まだ息してる?~

たまごころ
ファンタジー
王国一の聖魔導師アレンは、嫉妬した王子の策略で「無能」と断じられ、国を追放された。 辿り着いた辺境の村で、アレンは「ただの治癒師」として静かに暮らそうとするが――。 壊れた街を再生し、疫病を一晩で根絶し、魔王の眷属まで癒しながら、本人はただの村医者のつもり。 その結果、「あの無能が神を超えた」と噂が広がり、王と勇者は頭を抱えることに。 ざまぁとスカッとが止まらない、無自覚最強転生ファンタジー開幕!

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

処理中です...