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第一章 龍の料理人

第32話

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 そして私達は肉屋を後にした後、今度はまた別な店へと赴くため街を歩いていた。

「今度はどこへ行くのじゃ~?」

「次は卵を買いに行かないといけないんだ。」

「卵か、ピッピもまだまだ大人になるのに時間がかかるじゃろうからのぉ~。」

「……ってまさか……。」

「もちろんあの雛の名前じゃっ!!」

 エッヘンと大きく胸を張ってカミルは言った。

「……ホルスタンの名前はなんだったっけ?」

「モーモーじゃ!!」

 ……声に出しては言わないが、ね、ネーミングセンスが壊滅的だ。多分鳴き声で名前つけているんだと思うけど、もっと何か良い名前があったのではないだろうか?まぁ名前がないよりかは愛情が湧くだろうから、別に名前を付けることに反対ではないけどな。
 胸を張るカミルに苦笑いを浮かべていると、カミルの隣を歩くヴェルがぷっ……と笑いながら言った。

「相変わらず名前を付けるのは下手ねぇ~。」

「下手とはなんじゃ下手とはっ!!愛い名前じゃろ!!」

「じゃあミノルがどう思ってるのか聞いてみたら?」

 ヴェルの提案にのったカミルは私にずいっと詰め寄って問いかけてきた。

「ミノルも愛い名前だとは思わんかッ!?そう思うじゃろ!?」

「……ノーコメントで頼む。」

「の、のーこめんと?なんじゃそれはッ!!そういうのはいいから早く答えるのじゃ~!!」

 ぐいぐいと私の腕を引っ張りながらカミルは速く答えるように促す。そんな私の姿をヴェルはにやにやと笑いながら見ていた。きっと彼女は私がどう思っているのかを察したうえで傍観者になっているのだろう。

「ま、まぁまぁ……それよりもほら卵屋に着いたぞ。」

「ぐぬぬぬぬ……何と間の悪い、あとでもう一度聞くのじゃ~。」

 歯切れが悪そうにしているカミル。帰ったらこの出来事を忘れさせるぐらいインパクトのある料理を作って綺麗すっぱり忘れてもらおう。
 卵屋に入る前に私はヴェルの耳元でこう、囁いた。

「少しぐらい助け舟を出してくれてもよかったんじゃないのか?」

「あら~?私がそんなのを出さなくても正直に答えればよかったじゃない?……ま、風は嘘をつけないからあなたがどう思っているのかは私には筒抜けだけどね~。」

「……さて、なんの事だか。」

 にやにやとしながらヴェルは私の顔を覗き込んでくる。彼女の言う風とやらで私の感情や思いは全て読まれているらしい。さすがは風迅龍……だな。

 これ以上墓穴を掘る前に私はそそくさとお店の中へと入った。

「い、いらっしゃい……ませ。」

 入った私を出迎えたのは、本来腕がある部分が鳥のような羽根になっている魔族の女性だった。
 今までこの街で通りすがったときに見かけた魔族は角が生えてたり、皮膚が紫色だったりして特徴的な人もいたが、こういう風に腕が完全に鳥の翼になっている魔族の人は初めて見た。
 もっとまじまじと見ていたい気持ちもあるがそれは相手に失礼なのでさっさと卵を買うことにしよう。

「このぐらいの大きさの鶏の卵って置いてないか?」

「あ、えと……置いてます。……はぃ。」

 彼女は私の前に一つバスケットのような物を置いた。その中には綺麗な白色の卵が入っている。見た目はもう完全にスーパーとかに並んでいる卵と何ら変わりない。

「こちらで……いいですか?」

「あぁ、ばっちりだ。そうだ……念のため聞いておくが、これは全部無精卵だよな?」

 コカトリスの卵の時みたいに、インベントリに入れてたら勝手に孵化したなんてことは勘弁願いたい。その意を込めて私は彼女に質問した。

「はいです。間違いなく無精卵です。」

「そうか、なら安心したよ。……そうだなこの卵を30個ほどくれないか?」

「30個ですね、銀貨3枚になります。」

 ……銀貨?あれ?そんな硬貨持ってたかな……。インベントリを開いてお金が入った袋を取り出し、中を確認してみるが……中には金色に光輝く硬貨しか入っていない。
 試しに一枚渡してみるか……。

「すまない、持ち合わせが金貨しかないんだが……。」

「あ、大丈夫です。それじゃあお釣り……銀貨7枚です。」

 銀貨の持ち合わせがなかったので金貨を1枚支払うと、お釣りとして私の手元に銀色に輝く硬貨が7枚手渡された。
 これが銀貨ってやつか。金貨よりも価値が低い硬貨っぽいから……だいたい銀貨1枚が日本円で1000円ぐらいだろうか?
 だとしたらこの卵、結構良い値段なんだな。30個で3000円か……日本だとスーパーの特売で10個入りの卵が100円で買える。そう考えるとこの卵は1個が100円位の価値があるっぽいから余程高級な卵には間違いなさそつだ。

「ありがとう。……そういえばここでは他に何か珍しい卵とかって扱ってるのか?」

「珍しい卵ですか?……そうですね、一番おっきくて、希少価値が高いのはこちらの卵です。」

 彼女は私の前にダチョウの卵よりも少し大きなサイズの卵を持ってきた。そして私はその卵に見覚えがあった。

「……まさかそれって、コカトリスの卵か?」

「あ、そうですそうです。良くご存じでしたね?」

「まぁな、一度見たことがあるんだ。ちなみにそれでいくらぐらいなんだ?」

「この卵は1個あたり金貨3枚にしてます。私のお店にもなかなか入ってこない貴重な物なので……。」

 なるほどな。まぁ確かに普通はなっかなか手に入らない代物だろう。カミルに聞いた話だが、コカトリスは石化の魔眼やら、毒やら厄介なものをたくさん扱う魔物らしいからな。それぐらいの価値があって当然か。

「なるほど……な。教えてくれてありがとう。また卵が足りなくなったらよろしく頼むよ。」

「いえいえ、こちらこそたくさん買っていただいてありがとうございました。またのご来店お待ちしてます。」

 そして店を出るとカミルが今まで閉じていた口を開いた。

「これで買い物は終わりかの?」

「あぁ、ばっちりだ。」

「なら早く帰りましょ?私、あなたがどんなものを作るのか楽しみで仕方ないの。」

「うむ!!妾も腹が減って仕方なくなって来たところじゃ。早う帰るのじゃミノル!!」

 買い物を終えた私は二人に急かされながら街を後にしたのだった。
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