アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
36 / 200
第一章 龍の料理人

第35話

しおりを挟む
 盛り付けたハンバーグを二人のもとに持っていくと、カミルはいつも通り目を輝かせていたのだが一方のヴェルは不思議そうにそれを眺めていた。

「おぉ~!!今日の飯も美味そうじゃぁ~。」

「これはなんていう料理なの?」

「ハンバーグっていう料理だ。」

「聞いたことない料理ね。」

 まぁ確かに聞いたことはないだろう。何せこの世界の料理じゃないし、もしこの世界で同じような料理があったとしても名前は違うだろうからな。

「ま、私から話を聞くよりも食べてみたほうがこの料理のことがわかるはずだ。冷めないうちに食べてくれ……。ってカミルはもう食べ始めちゃってるか。」

 私が早く食べるように勧めようとしたときには、もうすでにカミルはハンバーグを貪っていた。

「美味いのじゃぁ~……。ヴェル、喰わんのなら妾がもらうぞ?」

「私も食べるわよ!!……あむっ。」

 焦ったようにヴェルはハンバーグを一つフォークで刺し、一口で口へと放り込んだ。すると彼女は大きく目を見開いた。
 そして幾度かじっくりと咀嚼した後ヴェルはゴクリとそれを飲み込み、ほぅ……と一つ溜息を吐いた。

「どうだ?」

「……美味しいわ。こんなの初めて食べたかも。カミルが気に入るのもわかるわね。」

 どうやらハンバーグはヴェルの口に合ったらしい。うんうんと頷きながら次々にハンバーグを口に運んでいく。
 カミルとヴェルの二人の食欲はすさまじく、瞬く間にハンバーグは無くなっていった。そして遂に皿の上に残ったハンバーグは一つのみとなった。それをめぐってカミルとヴェルの間で激しく火花が散り始める。

「もちろん最後の一個は私にくれるわよね~?カミル?」

「いくら友とてミノルの料理は譲れんのじゃ!!」

 お互いににこやかな表情を浮かべながらも二人の間では炎と風が激しくぶつかり合っていた。お互いに譲れない戦いが始まっている。

「別にいいじゃない!!あんたの方が私よりもちょっと多く食べてるでしょ!?これは私が食べるべきなのよっ!!」

「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃぁぁぁ!!これは妾が食べるのじゃあぁぁぁぁ!!」

 駄々をこねる子供のようなカミルと、数的不平等を唱えるヴェル。

「まぁ、カミルにはいつでも作ってやれるし……ここは譲ってあげてもいいんじゃないか?」

「なっ……ミノルはヴェルの肩を持つのかの!?」

「そういうわけじゃないが、カミルはいつだって私の料理を食べられるだろ?それに今回ヴェルは客人として来ているだけだし……カミルはそれをもてなす義務ってやつがあるんじゃないか?」

「むぐ……た、確かにそうじゃが……。むぐぐぐぐ……し、仕方ないっ!!ミノルに免じて今回だけは譲ってやるのじゃ!!」

「ふふふっ、ありがとっ。それじゃいただきま~す。」

 大きく口を開けて最後の1つのハンバーグを食べるヴェルの姿をカミルはずっと物欲しそうな目で眺めている。
 今回我慢した分明日も精いっぱい美味しい料理を作ろう。そうでもしないとカミルの気もおさまらないだろうしな。

「はぁ~美味しかったぁ~。ご馳走様。にしてもカミルはうらやましいわね~こんな美味しい料理を毎日食べられるなんて……ねぇ?」

 ヴェルはさぞかし羨ましそうにカミルの方を見ながらつぶやいた。

「そうじゃろうそうじゃろう。妾は明日もそのまた明日も、妾はミノルの料理を食べられるのじゃ!!むっふっふ~羨ましかろう?」

 そんなヴェルに先ほどの悔しさを晴らすようにカミルが勝ち誇りながら言った。

「…………ふふっ、良いこと思いついちゃたぁ~。」

 突然ヴェルはにんまりと顔を歪め、何かを思いついたようだ。その歪んだ笑顔からは、彼女が言うようにではない何かが伝わってくる。カミルもそれを感じ取ったようで一瞬ビクッと体を震わせていた。
 そして私たちの予感は見事に的中することになる。

「私もここに住めばミノルのご飯を毎日食べられるわよね~?」

「な、何を言い出すのじゃ!!お主にはお主の住処があるじゃろうが!!」

「別に良いじゃない、部屋だっていっぱい余ってるんでしょ?」

「確かに部屋は腐るほど余っておるが……ダメじゃ!!」

「何でよ!?ケチッ!!」

 頑なにヴェルの申し入れを拒否をするカミル。しかし、ヴェルもなかなか食い下がらない。
 二人の間でにらみ合いが続く中私に白羽の矢がたった。

「~~~っ!!ミノルはどう思うのよ!!」

「ふっ、ミノルは妾の味方じゃ。嫌と言うに決まって……。」

「別にどっちでも良いぞ?ただ……何の対価も無しにここに住み着くのはどうかと思うがな。」

「ふぅん?じゃあミノルはそのってやつがあれば~私がここに住んでも良いって思ってるのね?」

 ヴェルの問いかけに私は大きく頷いた。するとカミルが焦った様子で私の方に詰め寄ってくる。

「み、ミノルまで何を言うのじゃ!!お主は妾の味方ではなかったのかの!?」

「もちろん味方だ。それ故に今一番カミルに利益が出て尚且つ一番穏便に済む方法を提案している。」

「む、むぅ……。ミノルなりの考えがあってのことじゃったか……ではヴェルよ、お主がここに住む対価として差し出すものによって妾が処遇を決めるのじゃ!!」

 私の提案を聞き入れたカミルは、ヴェルの方を指差してビシリと言った。

「ふふっ、私が差し出す対価なんて決まってるじゃない。」

 クスリと笑った彼女の姿が突然掻き消え、次の瞬間には私の目の前に彼女の顔があった。一瞬のことで何があったのかわからず動けないでいると、私の口に何か熱いものが触れた。そしてその感覚に驚く暇もなく、今度は甘くトロリとした液体が口の中に流し込まれる。
 流れ込んできたその甘い液体を飲み込むと、酷い酩酊時のようにドロリと意識が溶け、私は深い……深い闇の中へと沈んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

追放された万能聖魔導師、辺境で無自覚に神を超える ~俺を無能と言った奴ら、まだ息してる?~

たまごころ
ファンタジー
王国一の聖魔導師アレンは、嫉妬した王子の策略で「無能」と断じられ、国を追放された。 辿り着いた辺境の村で、アレンは「ただの治癒師」として静かに暮らそうとするが――。 壊れた街を再生し、疫病を一晩で根絶し、魔王の眷属まで癒しながら、本人はただの村医者のつもり。 その結果、「あの無能が神を超えた」と噂が広がり、王と勇者は頭を抱えることに。 ざまぁとスカッとが止まらない、無自覚最強転生ファンタジー開幕!

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

異世界で「節分」始めました。~聖なる大豆と恵方巻で、痩せた荒野を最強の農園国家に作り替えます~

黒崎隼人
ファンタジー
目覚めればそこは、草木も生えぬ死の荒野だった。 農家の息子・ハルトが手にしたのは、たった一粒の干からびた大豆と、謎のスキル【節分】。 「鬼はぁ、外ォッ!」 その掛け声と共に放たれた豆は、魔物(赤鬼)を一撃で浄化し、痩せた土地を肥沃な大地へと変える規格外の力を持っていた!? 無限に増えるSSSランクの聖なる大豆。一瞬で育つ野菜たち。 そしてスキルで生み出した「恵方巻」の美味しさは、行き倒れていた元エリート女騎士・セシリアの胃袋を完全に掴んでしまい……? 豆の精霊マメゾウや、グルメなギルドマスターを巻き込んで、ハルトの異世界農業生活が今、始まる。 豆まきで世界を救い、美味しい日本食で仲間を笑顔にする、ほのぼの農園ファンタジー!

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

処理中です...