アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
69 / 200
第一章 龍の料理人

第68話

しおりを挟む
 カミルががっくりと項垂れているなか、私は辺りに散りばめられた大量の証明書のコピーをかき集めトントン……とまとめていた。そんな最中、魔王アヴァールはあることに気がついたようだ。

「ん~、そういえば……さっきは見かけなかった顔が二人ぐらいいるね。この二人もカミルの従者なの?」

「妾の従者はミノルだけですじゃ~……。そっちの二人は妾の城の地下に居着いたジュエルビーの女王とミノルの奴隷ですのじゃ。」

「へぇ~!!ジュエルビーの女王なんて随分珍しいね。ボク初めて見たよ~。」

 まさに興味津々……といった様子で魔王はマームのことを至近距離でまじまじと眺め始める。

「……カミル。この人誰?」

 今までの話が頭に入って来なかったのか、マームはカミルに問いかけた。

「その御方こそ魔王様じゃ。」

「魔王……初めて見た。私マームよろしく……ね?」

「こちらこそよろしく~ボクは魔王……名前はアヴァールっていうんだ。」

 マームと魔王は握手を交わしながら自己紹介をお互いにしていた。マームが敬語を使わなくても怒っている様子はない。むしろ気にしていないようだ。

 そしてマームと軽い自己紹介を終えると魔王は私の方へと近付いてきた。

「それで~?今ミノルの後ろに隠れてるその獣人の女の子が……ミノルの奴隷なんだね?首枷は無いみたいだけど……。」

「首枷は外させたんです。この子は奴隷として扱う訳じゃないので。」

「へぇ?奴隷として扱わないんだったら……何に使うのその子?」

「後々私の料理のお手伝いをしてもらおうと思ってます。……まぁ私の弟子みたいなものですよ。」

 魔王にそう説明すると納得したようで大きく彼女は頷いた。

「なるほど……ね。っとさて!!今から君達はまたご飯を食べるんでしょ?もちろんボクも同席するからね~。なんてったって~ミノルはボクのだからね~。あはははっ!!」

「もちろん作りますよ。……ですが、私がここで料理を作り魔王様が食すにあたって一つだけ……お願いがあります。」

「ん~?なにかな?」

「この場では無礼講……を看過していただきたい。誰だって食事は平等に楽しむべき時間です。地位とか名誉とかそういうものは一切無しにして、食事を楽しんでいただきたいんです。」

 別にずっと敬語を使っても良いが……疲れるし、カミル達だって魔王がとなりにいる。ということで緊張は途切れないだろう。だからこのお願いだけは聞き届けてもらいたい。

「ふぅん……なるほど。……別に良いよ?」

 意外にも即答した魔王に呆気にとられていると、彼女は続けて言った。

「いや~……ボクもね魔王っていう位になってからというものの、皆が皆敬語を使ってくるから、そろそろうざったくなってきてたんだよね~。なんならこれからずっと無礼講でも良いんだよ?ボクはその方が好きだしね~。」

「じゃあ許可もとったから……私はそうさせてもらう。」

 いつも通りの話し方に戻す。

「そっちがミノルの素かぁ~。なんかあんまり変わんないね?」

「何を期待してたんだ?」

「え~?なんかこう……もっと怖~い感じの話し方なのかな~って思ってた。」

 そんな風に魔王と会話をしていると、おずおずとした様子でカミルとヴェルの二人が問いかけてきた。

「あ、あの~私達もじゃあ無礼講ってことでいいのかしら~?」

「良いよ?ボクが許可する。」

「うむむ……しかしいざ無礼講となると、どう話して良いのかわからんな。」

「なに、いつも通りで良いんだ。いつも私やヴェルに接するように魔王にも接すれば良い。」

 思い悩んでいたカミルに私がそう助言すると、魔王が口を開いた。

「ねぇ、無礼講ならさ~そのってのやめない?」

「じゃあ何て呼べば良いんだ?」

「アベルで良いよ。古い友達にはそう呼ばれてるから。」

 アヴァールを略してアベル……か。まぁ彼女がそう呼ばれることを望んでいるなら、そう呼ぼうか。

「それじゃあこれからここではアベルって呼ばせてもらうよ。」

「うんうん!!それでいいよ。」

 アベル……と呼ばれた彼女は何故かとても嬉しそうだ。古い友達のことでも思い出したのだろうか?

「さて、じゃあ私は早速料理を作るから……危ないからアベルはカミル達と一緒に座って待っててくれ。」

「はいは~い。」

 アベルがカミル達の方に向かって行ったのを見送って、いざ料理を始めようとした時……ノノが私の足に引っ付いてきた。

「あう~……。」

「ん?ノノも危ないからカミル達と一緒に……。」

 私が言い終える前にノノはブンブンと首を横に振った。

「手伝いたいのか?」

「あう!!」

 今度は何度もノノは首を縦に振る。どうやら私の手伝いをしたがっているらしい。本当ならノノの気持ちを汲み取って何か簡単なことを手伝わせても良いんだが、今日はダメだ。

「ノノ手伝いは明日からにしよう。今日はいっぱいご飯を食べてゆっくり寝て……体調を万全にするんだ。私が言っていることがわかるな?」

「あう……。」

 しょんぼりとした様子でノノはうつむいた。そんなノノの頭を手を乗せながらなだめるように私は言った。

「何もノノが必要ないってわけじゃない。料理っていうのは危険でな。私でも体調が万全でないときは、思わぬミスをして怪我をしたりする。怪我するのは嫌だろ?」

「あうっ。」

 私の言葉にコクリとノノは頷いた。

「だから、今日は私が何をしているのか……あそこから見ているだけで良い。例えば……どんな風に野菜を洗っているのか、肉にはどんな味付けをしているのかとかな。見るっていうのも勉強の一つだぞ?」

「あう!!」

 最後のあう!!からは、わかった……という強い意思が伝わってきた。そしてそう返事をしたノノは椅子に座りこちらをじっと見つめてきている。

 ……それで良い。今日はしっかりと私の作業をその目に焼き付けておくんだ。

 ノノの姿勢を見て満足した私はいよいよ料理に取りかかるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。 魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。 その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。 実は、ナザルは転生者。 とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。 ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。 冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。 それに伴って、たくさんの人々がやってくる。 もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。 ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。 冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。 ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...