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第一章 龍の料理人
第101話
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カミルたちが湯船から上がってくると、その表情は先ほどとは違い普段通りの……いつも通りの表情だった。どうやら湯船に入っている最中、何かあったらしいな。
「ミノル~蜂蜜牛乳ちょうだ~い?」
湯船から上がってきたアベルは、私にいつも通り蜂蜜牛乳をねだってきた。
「妾も欲しいのじゃ~。」
「私にもお願いね~。」
「私もっ!」
「お師様、ノノも欲しいです!!」
アベルに続いて元気になったカミル達も風呂上がりの蜂蜜牛乳をねだってきた。もう最近はすっかりこれが習慣になってしまっているな。
「あぁ、わかった。ちょっと待ってな。」
冷蔵庫から一人一本分の蜂蜜牛乳を取り出し、皆の前に置いた。すると、アベルがあることに疑問を持ったらしく私に問いかけてきた。
「ねぇねぇミノル?何でこれはこんなに少ない量なの?カミル達だったらもっと飲むでしょ?」
「あ~……それは飲みすぎるとお腹を下しちゃうからだ。確かに風呂上がりの温まった体なら、こういう冷たいのは幾らでも受け付けるんだが……それに乗じて冷たいのを飲みすぎるとお腹を壊すんだよ。」
「あぁ~、なるほどね。お腹壊しちゃうのは嫌だな~……痛いし。」
納得したように頷きながら、アベルはぐいっと一気に蜂蜜牛乳を飲み干す。
「ぷはっ!!いや~……やめられなくなるねこれホントに。ボクの城にも欲しいな~。」
ポツリとそう呟いたアベルは、ハッと何かに気が付くとガタリと席を立った。
「……そうだよ!!ここを魔王城にしちゃえば良いんだ。」
「「「はっ!?」」」
アベルの突然の思い付きに私とカミル、そしてヴェルの三人は思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「いやいやいや!!ちょっと待つのじゃ!!」
「え?だって玉座もあるでしょ?部屋だっていっぱい余ってるみたいだし……」
「確かにあるにはあるのじゃが……。」
「じゃあいいじゃん?」
「いやいや、じゃからのぉ~……。そういうことではないのじゃ~。」
「え~……ダメ?」
キラキラとした物欲しそうな視線をカミルに向けるアベルだったが、その後ろに伸びる影から突然シグルドが姿を現した。
「いけませんぞ魔王様、あのお城は代々受け継がれている大切なお城なのです。」
「え~……だってボクもお風呂欲しいよ~?」
「ふむ、私の意見を申し上げさせて頂きますが……魔王城にお風呂なるものを作れば、このようにカミル様達と共にこの時間を楽しむことができなくなると思いますぞ?」
「え゛?」
シグルドの意見を聞いてアベルは固まった。まぁ確かにシグルドさんの言うとおり、魔王城にお風呂を作ったとしてもそこで入るのはアベルだけだろう。今みたいに皆で入ってワイワイ話すようなことはできなくなるだろうな。
「それは嫌だ!!それならこのままでいいや。」
「ほっほ、では私はこれにて……。」
再びシグルドさんが影に戻って行こうとした最中、私は彼の手を掴んだ。
「ちょっと待ってもらっても良いですか?」
「おや?ミノル様……私に何か御用でも?」
「せっかくですからシグルドさんも湯船に浸かって行きませんか?私も今から入るところだったので……。」
話したいことがある……と目で訴えると、彼は私の意図を察したようにコクリと頷いた。
「ほっほっほ、ではせっかくですから。お誘いを受けさせていただきましょうか。」
「シグルドもゆっくり浸かってくるといいよ。毎日毎日ボクのために働いて疲れてるだろうしね~。」
「では、魔王様行って参ります。」
「はいは~い。」
そして私はシグルドさんと二人で厨房を出て城の中を二人で歩いた。浴室へと向かっているその最中、私は彼にお礼を言うことにした。
「意思を汲み取ってくれてありがとうございます。」
「ほっほっほ、構いませんよ。それで?私に何か聞きたいことでも?」
「えぇ、アベルがさっき言ってた思想について少し……。」
「なるほど。そういうことでしたか。」
「詳しいことは中でゆっくりと聞かせてもらいます。先ずは体を温めてからにしましょう。」
浴室の扉を開けて私は服を脱ぎ、きっちりと畳んで籠に入れた。シグルドさんも私の真似をして服を脱ぎ隣にあった籠に服を入れる。
意外にもシグルドさんの服の下は筋骨隆々な肉体だった。おおきな古傷のようなものも見受けられる。いったいどんな修羅場を潜ってきたらこんなになるんだ?
「ほっほっほ、この傷が気になりますかな?」
視線を向けられていることに気がついたのか、シグルドさんは背中についている大きな傷痕を指差して言った。
「あ、すみません。あまりに大きな傷痕だったので……。何があったのかな……って。」
「この傷は私がまだ若かりし頃に受けた勇者の剣擊よる傷です。」
「勇者の攻撃ですか……。」
よくこんなに大きな傷を受けたのに生きていられたものだ。普通の人間なら死んでもおかしくないぐらいの傷だと思うんだが……。
「っと、すみません冷えるとあれなので早速入りましょうか。」
「そうですな。」
そして私はゆっくりと湯船に浸かり、少し体が温まってきた頃……私は改めてさっき廊下で話していた事について問いかけることにした。
「シグルドさんは、アベルのあの思想をどう思っているんですか?」
「私も最初は無理だ……と思っておりました。」
「最初は……というと今はどうなんです?」
「明くる日も性懲りもなく攻めてくる人間を毎回五体満足で追い返している魔王様の姿を見て、今はその可能性がゼロではないと、思うようになりました。」
顔を伝う汗を布でぬぐい、シグルドさんは続けて言った。
「今の今まで行われてきた世の理に終止符を打とうとしているのですよあの御方は。今では私もその思想に惹かれてしまいました。」
「……そうですか。」
「逆に、ミノル様は魔王様の思想を聞いてみてどう思われました?」
「正直な話ですが……無理と思いましたね。私がもといた世界でも世界平和というものは結局実現しなかったので……。」
世界平和なんて夢のまた夢……地球では戦争を起こさないための抑止力と言って大国は核を保有している。
「そうでしたか……ですが、あのお方ならばやりますよきっと……きっとね。」
私の方を見てにこりと笑いながらシグルドさんは言った。
「ですが、あの御方だけでは成し遂げることはできないでしょう。ですから、ミノル様……魔王様が困っていたら手を差し伸べていただけますかな?」
「……まぁ、私にできることなら手伝いますよ。」
そう答えるとシグルドさんは満足そうににこりと笑ったのだった。まるでその答えを待っていたかのように……。
「ミノル~蜂蜜牛乳ちょうだ~い?」
湯船から上がってきたアベルは、私にいつも通り蜂蜜牛乳をねだってきた。
「妾も欲しいのじゃ~。」
「私にもお願いね~。」
「私もっ!」
「お師様、ノノも欲しいです!!」
アベルに続いて元気になったカミル達も風呂上がりの蜂蜜牛乳をねだってきた。もう最近はすっかりこれが習慣になってしまっているな。
「あぁ、わかった。ちょっと待ってな。」
冷蔵庫から一人一本分の蜂蜜牛乳を取り出し、皆の前に置いた。すると、アベルがあることに疑問を持ったらしく私に問いかけてきた。
「ねぇねぇミノル?何でこれはこんなに少ない量なの?カミル達だったらもっと飲むでしょ?」
「あ~……それは飲みすぎるとお腹を下しちゃうからだ。確かに風呂上がりの温まった体なら、こういう冷たいのは幾らでも受け付けるんだが……それに乗じて冷たいのを飲みすぎるとお腹を壊すんだよ。」
「あぁ~、なるほどね。お腹壊しちゃうのは嫌だな~……痛いし。」
納得したように頷きながら、アベルはぐいっと一気に蜂蜜牛乳を飲み干す。
「ぷはっ!!いや~……やめられなくなるねこれホントに。ボクの城にも欲しいな~。」
ポツリとそう呟いたアベルは、ハッと何かに気が付くとガタリと席を立った。
「……そうだよ!!ここを魔王城にしちゃえば良いんだ。」
「「「はっ!?」」」
アベルの突然の思い付きに私とカミル、そしてヴェルの三人は思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「いやいやいや!!ちょっと待つのじゃ!!」
「え?だって玉座もあるでしょ?部屋だっていっぱい余ってるみたいだし……」
「確かにあるにはあるのじゃが……。」
「じゃあいいじゃん?」
「いやいや、じゃからのぉ~……。そういうことではないのじゃ~。」
「え~……ダメ?」
キラキラとした物欲しそうな視線をカミルに向けるアベルだったが、その後ろに伸びる影から突然シグルドが姿を現した。
「いけませんぞ魔王様、あのお城は代々受け継がれている大切なお城なのです。」
「え~……だってボクもお風呂欲しいよ~?」
「ふむ、私の意見を申し上げさせて頂きますが……魔王城にお風呂なるものを作れば、このようにカミル様達と共にこの時間を楽しむことができなくなると思いますぞ?」
「え゛?」
シグルドの意見を聞いてアベルは固まった。まぁ確かにシグルドさんの言うとおり、魔王城にお風呂を作ったとしてもそこで入るのはアベルだけだろう。今みたいに皆で入ってワイワイ話すようなことはできなくなるだろうな。
「それは嫌だ!!それならこのままでいいや。」
「ほっほ、では私はこれにて……。」
再びシグルドさんが影に戻って行こうとした最中、私は彼の手を掴んだ。
「ちょっと待ってもらっても良いですか?」
「おや?ミノル様……私に何か御用でも?」
「せっかくですからシグルドさんも湯船に浸かって行きませんか?私も今から入るところだったので……。」
話したいことがある……と目で訴えると、彼は私の意図を察したようにコクリと頷いた。
「ほっほっほ、ではせっかくですから。お誘いを受けさせていただきましょうか。」
「シグルドもゆっくり浸かってくるといいよ。毎日毎日ボクのために働いて疲れてるだろうしね~。」
「では、魔王様行って参ります。」
「はいは~い。」
そして私はシグルドさんと二人で厨房を出て城の中を二人で歩いた。浴室へと向かっているその最中、私は彼にお礼を言うことにした。
「意思を汲み取ってくれてありがとうございます。」
「ほっほっほ、構いませんよ。それで?私に何か聞きたいことでも?」
「えぇ、アベルがさっき言ってた思想について少し……。」
「なるほど。そういうことでしたか。」
「詳しいことは中でゆっくりと聞かせてもらいます。先ずは体を温めてからにしましょう。」
浴室の扉を開けて私は服を脱ぎ、きっちりと畳んで籠に入れた。シグルドさんも私の真似をして服を脱ぎ隣にあった籠に服を入れる。
意外にもシグルドさんの服の下は筋骨隆々な肉体だった。おおきな古傷のようなものも見受けられる。いったいどんな修羅場を潜ってきたらこんなになるんだ?
「ほっほっほ、この傷が気になりますかな?」
視線を向けられていることに気がついたのか、シグルドさんは背中についている大きな傷痕を指差して言った。
「あ、すみません。あまりに大きな傷痕だったので……。何があったのかな……って。」
「この傷は私がまだ若かりし頃に受けた勇者の剣擊よる傷です。」
「勇者の攻撃ですか……。」
よくこんなに大きな傷を受けたのに生きていられたものだ。普通の人間なら死んでもおかしくないぐらいの傷だと思うんだが……。
「っと、すみません冷えるとあれなので早速入りましょうか。」
「そうですな。」
そして私はゆっくりと湯船に浸かり、少し体が温まってきた頃……私は改めてさっき廊下で話していた事について問いかけることにした。
「シグルドさんは、アベルのあの思想をどう思っているんですか?」
「私も最初は無理だ……と思っておりました。」
「最初は……というと今はどうなんです?」
「明くる日も性懲りもなく攻めてくる人間を毎回五体満足で追い返している魔王様の姿を見て、今はその可能性がゼロではないと、思うようになりました。」
顔を伝う汗を布でぬぐい、シグルドさんは続けて言った。
「今の今まで行われてきた世の理に終止符を打とうとしているのですよあの御方は。今では私もその思想に惹かれてしまいました。」
「……そうですか。」
「逆に、ミノル様は魔王様の思想を聞いてみてどう思われました?」
「正直な話ですが……無理と思いましたね。私がもといた世界でも世界平和というものは結局実現しなかったので……。」
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私の方を見てにこりと笑いながらシグルドさんは言った。
「ですが、あの御方だけでは成し遂げることはできないでしょう。ですから、ミノル様……魔王様が困っていたら手を差し伸べていただけますかな?」
「……まぁ、私にできることなら手伝いますよ。」
そう答えるとシグルドさんは満足そうににこりと笑ったのだった。まるでその答えを待っていたかのように……。
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