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第一章 龍の料理人
第102話
しおりを挟む「ほっほっほ、このお風呂というのはなかなか良いものですな。魔王様が気に入るのもわかります。」
体についた水気を乾いた布で拭き取り、口元の白い髭を整えながらシグルドさんは言った。彼もアベル同様にお風呂という文化が気に入ったらしい。
「この後に飲む蜂蜜牛乳がまた美味しいんですよ。シグルドさんの分も用意してあるので是非いかがですか?」
「よろしいのですかな?」
「えぇもちろん。」
楽しむなら最後の最後まで楽しんでもらわないとな。
「至れり尽くせりで申し訳ございませんな。」
「いいんです。今日はいい話も聞かせてくれましたからね。よかったらまた今度聞かせてくださいよ。」
「もちろん私が話せる範囲のことであれば、喜んでお話しいたしましょう。」
そしてシグルドさんとともにカミルたちが待っている厨房へと戻ってくると……。
「あ、シグルドにミノルおかえり~。」
「ただいま戻って参りました魔王様。」
「どうだったお風呂?すんごい気持ちよかったでしょ~?ボクの気持ちがちょっとはわかった?」
「えぇ、それはもう極楽のひと時でした。」
「でしょ~?」
アベルはお風呂の良さをシグルドさんと共有している。余程あの良さを分かってもらいたかったらしい。まぁ、アベルのその想いはちゃんとシグルドさんには届いていることだろう。彼もお風呂を楽しんでいたみたいだしな。
「シグルドさんこれをどうぞ。」
「おぉ、ありがとうございます。ではありがたく……。」
シグルドさんは、私から蜂蜜牛乳を受け取ると豪快に一気にそれを飲み干した。
「くっはぁ~……これは、たまりませんな。火照った体に染み渡る感じがなんとも……。」
「楽しんでいただけたようで何よりです。」
「美味しそうに飲むね~シグルド。」
「ほっほっほ、魔王様もさぞ美味しそうに召し上がっておられましたよ。」
「だって美味しいんだもん。」
そんなやり取りをアベルとシグルドさんはしていた。その姿はまるで孫と楽しそうに話をするおじいちゃんそのもの……。まぁ、そう見えるのはアベルがシグルドさんに比べて背がとても低いというのもあるんだろうが、にしてもそうにしか見えない。
ほほえましい光景を眺めていると、カミルに肘で腹をつつかれた。そして小さな声で耳打ちしてくる。
「ミノル、間違ってもアベルの背のことについて触れるでないぞ?心で思うだけに留めておくのじゃ。」
カミルがわざわざ私にそう注意してくるということは、よっぽど危険な何かを孕んでいるようだ。そのワードだけは口に出さないようにしておこう。わざわざ地雷を踏みに行く必要はないしな。
「あぁ、わかってる。」
「なら良いのじゃ。」
私にそう警告したカミルは一つ頷くと、もといた席に戻り再び腰掛ける。
「さてっと……じゃあボクはそろそろ帰ろっかな。またいつ人間が攻めてくるかわかんないしね。それじゃ、今日も美味しい料理とお菓子ご馳走さまっ!!」
「あぁ、また明日も作って待ってるからな。」
私達はパックリと開いた空間へと消えていくアベル達を見送る。にしてもあの魔法……何度も目の当たりにしているが便利そうだな。
「なぁ、カミル。」
「む~?なんじゃ~?」
「あのアベルが使ってる魔法って頑張れば覚えられるものなのか?」
「空間魔法のことかの?あれはとても頑張って覚えられるものではないぞ。」
「そうか……まぁだよな。……そういえば、お風呂に入ってるとき何かアベルと話したのか?」
覚えられないものは仕方がない。あれを使うことができたらとても便利そうだが……忘れよう。
空間魔法とやらのことを諦めた私は、話題を切り替えてカミル達に問いかけた。
「あぁ……さっき語っておった思想について少しの。」
「争いがない世界になれば毎日こうやってミノルの作る料理が食べられる~ってアベルが言ってたのよね。」
「なるほどな。」
まぁ確かに……平和な世界になればこうした平和な毎日がずっと続くだろうから、あながちアベルが言っていることも間違いじゃない。
「それでまぁ……アベルの思想を実現するために手を貸してくれないかと改めて頼まれたのじゃ。」
「受けたのか?」
「特に断る理由もなかったしのぉ~。それにこの生活が永遠に続くのはなんとも魅力的な話じゃ。」
「ね~?ま、ちょっと面倒なことも頼まれちゃったけど……。」
「面倒なこと?」
ふぅ……と一つ大きく息を吐き出してからカミルはそれについて口を開く。
「妾達以外の五龍の説得じゃ。あやつらの中にはどうしても人間を殺したいと思っておるやつがおるのでな。」
「なるほど……何かあてはあるのか?」
「今のところ無い。じゃから頭を悩ませておる。」
「私達はアベルの思想に賛成だし……地龍のアスラもアベルの意見には従うだろうから問題ないとしても、残りの二龍が問題よね~。」
「うむ、水龍ウルと雷龍ボルト……あやつらはどう説得したものかのぉ~。」
大きくため息を吐きながらカミルとヴェルは頭を悩ませる。
「まぁ、私に協力できることがあったら何でも言ってくれ。できることなら協力するからな。」
「私のことも頼っても……いいよ?」
「ノノもできることなら頑張りますっ!!」
「ふっ、まぁその時はお願いするかもしれないのぉ~。」
私が力になれることは限られているとは思うが……できうる限り彼女達の力になろう。
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