118 / 200
第二章 平和の使者
第117話
しおりを挟む「今日も良い商談ができた。ありがとう。」
エノールと商談を終えて、店を後にする際に私は彼にお礼を言った。
「いえいえ!!こちらこそ、例のモノ……頑張って作り上げて見せますよ。」
「期待してる。それじゃ、また来るよ。」
そして彼の店を出ると、思わぬ人物が外で私のことを待っていた。
「やぁ、元気そうだねミノル。」
エノールの店の前で、こちらにヒラヒラと手を振りながら待っていたのはこの国の王……アルマスだった。
「あ、アル……マス?何でここに?」
「少し君と話がしたくてね。これからちょっといいかい?」
「構わないが……。」
突然のことに少し戸惑いながらも、私はノノと共にアルマスの後ろを着いていった。彼の屋敷に向かうのかと思いきや、彼が向かったのは屋敷とは別方向……森の方だった。
不思議に思った私は道中に彼に問いかける。
「どこへ向かってるんだ?」
「僕のお気に入りの場所さ。」
アルマスはお気に入りの場所……とだけ告げた。
そしていよいよエルフの森のなかに入ると、彼がこちらをクルリと振り向いた。
「念のため言っておくけど……僕から離れないようにね?この森で迷子になったら大変だから。」
少し笑みを浮かべながらアルマスは言った。
「あぁ、わかってる。」
この歳になって、迷子になるわけにはいかないからな。大人が迷子になるなんて……笑い話もいいところだ。
そんなことを思いながら、アルマスの後ろを歩いていると……。
「そろそろ見えてくるよ。この木々を抜ければ……ほら。」
そう言ってアルマスが指差した先にあったのは……。
「ふわぁ……綺麗。」
思わずノノが目の前に広がる景色を見てポツリとそうこぼした。ノノが見とれるのも当然で、私達の前に現れたのは広大で色鮮やかな花畑だった。
「こんなところが……。」
「綺麗でしょ?ここが僕のお気に入りの場所なんだ。」
思わず目の前に広がる景色に見とれてしまっていると、アルマスが口を開く。
「それじゃあこの辺で、すこし座って話をしようか。」
クイッとアルマスが手を動かすと、あろうことか足元の草たちがうごめき始め、徐々に椅子へと形を変えていった。
「これも魔法……なのか?」
「そうだよ。植物魔法……っていうんだけど、その名の通り草や木を自由自在に操る魔法だね。」
「……ちなみにアルマス以外にそれを使える人は……。」
「今のところいないね。」
だよなぁ~……。もし覚えられそうだったら教えてもらおうかと思ったが、現実そう甘くはないようだ。少し残念な気持ちになりながらも、私は草でできた椅子に腰かけた。意外にも座り心地は悪くない。
「それで?話ってなんだ?」
アルマスも腰かけたところで私は、彼に問いかける。
「君の率直な意見が聞きたかった……実際のところアベルのあの計画を聞いて君はどう思った?」
アベルのあの計画……というのは人間包囲網のことだ。エルフ、獣人族、魔族で同盟を結んで人間を会談の場に引きずり出すあの計画。
「正直無謀だとは思った。」
「だよねぇ~。僕も同じ意見さ。」
苦笑いしながらアルマスは言った。そんな彼に私はある質問を投げ掛ける。
「無謀だと思うのなら、なぜ同盟を結んだ?あの場で私の料理を美味しくないと一蹴してしまえば、それで……。」
「まぁそうだね。君からしたらそう思うか。でもねぇ~……あの料理は反則だよ?あれを食べて美味しくないと言えるのは、余程心のない者だけだと思う。……でもまぁ、アベルの計画を聞いてもしそれが本当にそれが現実になったら……と思ってしまったのもあるんだけどね。」
どうやらアルマスもアベルの計画が成功し、種族間平和が成り立ったら……ということを思ったらしい。
「君も無謀と思いながら、アベルのことを手伝ってるってことは、僕と同じで一縷の望みに懸けてるんだろ?」
「まぁ……そういうことだな。」
彼の言うとおり、私もアベルの計画が実現したら……ということを考えて彼女の計画に賛同しているに過ぎない。
「僕たちの次は獣人族か……彼等を相手に同盟を持ちかけるのはなかなか厳しそうだね。」
「人間にも魔族にも良い関係を築いているからな。……そういえばエルフは獣人族と何か関わり合いはないのか?」
ふと疑問に思ったことを私はアルマスに問いかけてみた。
「残念だけど全く無いよ。僕らの国は奴隷とか傭兵とかは一切受け付けてないからね。交易もないし、今回は役に立てそうにないかな。」
「そうか……。」
アルマスに獣人族と繋がりが何かあればそれが足掛かりになるかと思ったんだが……。
「まぁ、今までは直接的な関わり合いはなかったけど……これから僕らの方から少し獣人族に近づいてみるから。何か分かったら伝えるよ。」
「あぁ、お願いするよ。」
「……っと、話し込んでいたらどうやら時間が来てしまったみたいだ。」
「……?それは、どういう…………。」
アルマスの言葉に疑問を抱いていると、私達のいる場所が大きな影に覆われた。そして遥か上空から声が聞こえてきた。
「ミノル~!!飯の時間じゃ~!!」
「もう、そんな時間だったか……。」
「そのようだね、もう少し話したいことがあったけど……また今度この国に寄ったら、またその時話そうか。」
そして私とノノはアルマスに見送られながら、エルフの国を後にしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~
あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。
魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。
その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。
実は、ナザルは転生者。
とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。
ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。
冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。
それに伴って、たくさんの人々がやってくる。
もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。
ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。
冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。
ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる