アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第二章 平和の使者

第117話

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「今日も良い商談ができた。ありがとう。」

 エノールと商談を終えて、店を後にする際に私は彼にお礼を言った。

「いえいえ!!こちらこそ、例のモノ……頑張って作り上げて見せますよ。」

「期待してる。それじゃ、また来るよ。」

 そして彼の店を出ると、思わぬ人物が外で私のことを待っていた。

「やぁ、元気そうだねミノル。」

 エノールの店の前で、こちらにヒラヒラと手を振りながら待っていたのはこの国の王……アルマスだった。

「あ、アル……マス?何でここに?」

「少し君と話がしたくてね。これからちょっといいかい?」

「構わないが……。」

 突然のことに少し戸惑いながらも、私はノノと共にアルマスの後ろを着いていった。彼の屋敷に向かうのかと思いきや、彼が向かったのは屋敷とは別方向……森の方だった。
 不思議に思った私は道中に彼に問いかける。

「どこへ向かってるんだ?」

「僕のお気に入りの場所さ。」

 アルマスはお気に入りの場所……とだけ告げた。

 そしていよいよエルフの森のなかに入ると、彼がこちらをクルリと振り向いた。

「念のため言っておくけど……僕から離れないようにね?この森で迷子になったら大変だから。」

 少し笑みを浮かべながらアルマスは言った。

「あぁ、わかってる。」

 この歳になって、迷子になるわけにはいかないからな。大人が迷子になるなんて……笑い話もいいところだ。

 そんなことを思いながら、アルマスの後ろを歩いていると……。

「そろそろ見えてくるよ。この木々を抜ければ……ほら。」

 そう言ってアルマスが指差した先にあったのは……。

「ふわぁ……綺麗。」

 思わずノノが目の前に広がる景色を見てポツリとそうこぼした。ノノが見とれるのも当然で、私達の前に現れたのは広大で色鮮やかな花畑だった。

「こんなところが……。」

「綺麗でしょ?ここが僕のお気に入りの場所なんだ。」

 思わず目の前に広がる景色に見とれてしまっていると、アルマスが口を開く。

「それじゃあこの辺で、すこし座って話をしようか。」

 クイッとアルマスが手を動かすと、あろうことか足元の草たちがうごめき始め、徐々に椅子へと形を変えていった。

「これも魔法……なのか?」

「そうだよ。植物魔法……っていうんだけど、その名の通り草や木を自由自在に操る魔法だね。」

「……ちなみにアルマス以外にそれを使える人は……。」

「今のところいないね。」

 だよなぁ~……。もし覚えられそうだったら教えてもらおうかと思ったが、現実そう甘くはないようだ。少し残念な気持ちになりながらも、私は草でできた椅子に腰かけた。意外にも座り心地は悪くない。

「それで?話ってなんだ?」

 アルマスも腰かけたところで私は、彼に問いかける。

「君の率直な意見が聞きたかった……実際のところアベルのあの計画を聞いて君はどう思った?」

 アベルのあの計画……というのは人間包囲網のことだ。エルフ、獣人族、魔族で同盟を結んで人間を会談の場に引きずり出すあの計画。

「正直無謀だとは思った。」

「だよねぇ~。僕も同じ意見さ。」

 苦笑いしながらアルマスは言った。そんな彼に私はある質問を投げ掛ける。

「無謀だと思うのなら、なぜ同盟を結んだ?あの場で私の料理を美味しくないと一蹴してしまえば、それで……。」

「まぁそうだね。君からしたらそう思うか。でもねぇ~……あの料理は反則だよ?あれを食べて美味しくないと言えるのは、余程心のない者だけだと思う。……でもまぁ、アベルの計画を聞いてもしそれが本当にそれが現実になったら……と思ってしまったのもあるんだけどね。」

 どうやらアルマスもアベルの計画が成功し、種族間平和が成り立ったら……ということを思ったらしい。

「君も無謀と思いながら、アベルのことを手伝ってるってことは、僕と同じで一縷の望みに懸けてるんだろ?」

「まぁ……そういうことだな。」

 彼の言うとおり、私もアベルの計画が実現したら……ということを考えて彼女の計画に賛同しているに過ぎない。

「僕たちの次は獣人族か……彼等を相手に同盟を持ちかけるのはなかなか厳しそうだね。」

「人間にも魔族にも良い関係を築いているからな。……そういえばエルフは獣人族と何か関わり合いはないのか?」

 ふと疑問に思ったことを私はアルマスに問いかけてみた。

「残念だけど全く無いよ。僕らの国は奴隷とか傭兵とかは一切受け付けてないからね。交易もないし、今回は役に立てそうにないかな。」

「そうか……。」

 アルマスに獣人族と繋がりが何かあればそれが足掛かりになるかと思ったんだが……。

「まぁ、今までは直接的な関わり合いはなかったけど……これから僕らの方から少し獣人族に近づいてみるから。何か分かったら伝えるよ。」

「あぁ、お願いするよ。」

「……っと、話し込んでいたらどうやら時間が来てしまったみたいだ。」

「……?それは、どういう…………。」

 アルマスの言葉に疑問を抱いていると、私達のいる場所が大きな影に覆われた。そして遥か上空から声が聞こえてきた。

「ミノル~!!飯の時間じゃ~!!」

「もう、そんな時間だったか……。」

「そのようだね、もう少し話したいことがあったけど……また今度この国に寄ったら、またその時話そうか。」

 そして私とノノはアルマスに見送られながら、エルフの国を後にしたのだった。
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