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第二章 平和の使者
第130話
しおりを挟む「ふっふ~ん♪今頃ジュンコはどうしてるかな~?」
椅子に座り、テーブルに肘をつきながら、上機嫌にアベルは言った。
「まったく……君達は酷いことを考えるものだよ。獣人族の女王まで手玉にとるなんてね。」
アベルの対面に座るアルマスが私達の顔を見て、ふぅ……と大きなため息を吐いた。
「酷いこととは人聞きが悪いな。私はただ、料理を作ってもてなしただけだぞ?」
「ね~?ボクはジュンコを連れてきただけだし~。それに、ジュンコは自分からミノルの料理を食べたしね~。」
確かにあの時ジュンコは、私の料理を前にして我慢が効かないといった様子だったしな。
今の彼女がどうなろうが私の知ったことではない。言うなれば自業自得だ。
そんな話をしていたとき、コツコツと部屋の窓を手紙を咥えた鳥がつついていた。
「あ!!もう戻ってきた。」
あの鳥はアベルがジュンコへと飛ばした、言わば伝書鳩のような役割を担った魔物らしい。
確か手紙には食事会への招待状が入っていたはずだな。
アベルは手紙を受けとると、再び椅子に腰掛け中身を開いた。そしてにんまりと笑みを浮かべる。
「あはっ♪予想ど~りぃ~。みてみて!!しっかりジュンコの名前が書いてあるよ~。」
「ここまでは計画通りだな。」
あとはこの後……ジュンコがどう動くかで今後の行く末が決まる。
「流石の獣人族の女王も料理の誘惑には勝てなかったか……。でも、この後はどうするんだい?」
「ん~?この後って?」
「だから、彼女が食事会に来たとき……手ぶらで帰ると思うかい?もう今の生活に戻るのは嫌だから、君を要求してくると思うけどね。」
チラリとアルマスは私の方に視線を向けてきた。
「あ~、その事なら大丈夫。ちゃ~んと対策はしてあるから。もちろんジュンコも喜ぶ方法でねっ。」
「あぁ、バッチリな。」
もちろん、ジュンコが私という存在を要求してくることは想定内だ。それに対応するために、この数日間は忙しい日々を送ってきた。
「その対策が上手くいけば……アベル、君の思想の土台が完成ってわけだね。」
「そういうこと~。」
「ただ、問題はそれを黙って人間側が見過ごすか……ってところかな。」
「そだね。」
そう、人間側からしたら……この三国同盟は何としても止めたいはず……なのだが。
「でもね~、今のところあっちは何もしてこないんだよね~。ホント不気味……。」
「肝心の勇者だって表に出てきてないんだろ?確かに不気味ではあるね。このまま何もせずにいるはずがない。」
「……それか、エルフと獣人族、そしてボク達魔族を全て支配下にしようと何か企んでるのか……。」
「あり得ない話しではないね。」
もし、仮にアベルの言葉通りであれば……何かしら人間側には三国を相手にできる力があるということだ。
それが勇者一人の力なのか……それとも他の何かなのかはわからないが、不気味なことに変わりはない。
「でも、今のボクらにできることは何もないよ。普段通り、国境に攻めてくる人間を追い返すだけ。」
「そうだけどさ。……君はどう思う?」
アルマスは私に意見を求めてきた。
「アベルと同意見だ。今やれることをやるしかない。」
「やっぱり、そうだよね。……話が変わるけど、そういえばまたエルードと何か企んでるらしいね?」
「今度は耳に入ったか。」
「まぁね、今度は何を作ろうとしてるんだい?」
「それ、ボクも聞きたいな~。」
「前回エルードが作った醤油の派生の味噌って調味料と、酒だ。」
「ミソと酒?」
二人の頭の上には大きな?マークが浮かんでいる。
「お酒って、この前飲んだ葡萄酒みたいな?」
「まぁ、そんなところだ。葡萄酒はその名の通り葡萄が原料だが、今回エルードに依頼したのは米の酒だ。」
「米のお酒だって!?そんなものができるのかい?」
驚いた表情をうかべながらも、アルマスは食い気味に聞いてきた。
「あぁ、できる。しかも、とびっきり美味しいやつがな。」
「へぇ~……それは楽しみだ。また僕の国に名産物が増えてしまいそうだね。」
「アルマスも酒はいけるのか?」
「僕かい?まぁ嗜む程度だよ。……それでもアベルよりかは強いと思うけどね。」
クスリと笑いながら、アルマスはアベルの方を向いて言った。
アベルはこの前の一件で酒に弱い事が判明してしまったからな。まさか、少し舐めただけであんなになってしまうとは思わなかった。
……ちなみにシグルドさんは、とんでもなく酒豪だった。うん。
私自身酒には強い方だと思っていたのだが、シグルドさんには敵わなかった。
「うるさいなぁ~。ボクだってもう少し大人になればお酒位余裕で飲めるようになるし!!」
「もう君は十分大人だろ?まぁ……たま~に子供っぽいところがあるけどね。」
からかうアルマスと、それに噛みつくアベルの姿を見て、この二人はやはり仲が良いんだなと改めて思う私だった。
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