アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
152 / 200
第三章 魔族と人間と

第151話

しおりを挟む
 意識が急速に闇の中へと沈んでいき、それと一緒に体もどこか深いところへと沈んでいくような、不思議な感覚に包まれる。
 そんなとき久しく聞いていなかったあの声が聞こえた。

「またあなたは性懲りもなく生死の境界線を跨ごうとして……これで三回目ですよ?」

 声が聞こえたほうに視線を向けるとそこには一人の美しい女性がいて、こちらを呆れたような目で見ていた。

「まぁ、セレーネとレラをくっつけてくれたことは評価に値しますが……それでも自分の命をもう少しいたわったらどうです?」

「そう言われてもな……今回私は何でここに来る羽目になったんだ?あいにく身に覚えがないんだが……。」

 今回に関しては私はカミルにまた力を与えられたわけでもないし、別に死ぬようなことをした覚えはないのだが……。

 まさか……。

「あの抽出の魔法を使ったのが原因か?」

「その通り!!ちゃんと身に覚えがあるじゃないですかッ!!」

「でもなんでまた急に魔法を使ったからってこうなったんだ?今までも何度か使ったが……別に何の問題もなかったぞ?」

 そう、今まで抽出の魔法は何度も使ってきた。石鹸を作るために当たりの雑草からカリウムを抽出したり、牛乳から乳脂肪分だけを取り出してチーズを作ったり……結構頻繁に使っていた魔法だったんだがな。

「今回いったい何を抽出したと思ってるんですか?勇者の力……いいえ、言い換えるなら私の妹のレラの力ですよ?いくら龍の力を取り込んで強くなったあなたでも耐えられるはずないでしょ!!」

 エルザにがみがみと説教をされる。こんな経験はいつぶりだろう?この道を歩んで1、2年位はよく上の人に怒られたりはしていたが……それ以降経験はないな。

 こう久しぶりに説教されると、あのときの懐かしい感覚が甦ってくるようだ。

 しみじみとしながらエルザの説教を耳に入れていると……。

「ちゃんと反省してます!?」

「あぁ、してるしてる。してるからこうやってちゃんと聞いてるだろ?」

 反省する気がないなら最初から聞く耳を持っていない。

「まったくもぅ……説教してるのに嬉しそうな顔してる人初めて見ましたよ?」

「いや、なんか昔が懐かしくてな。久しく説教なんてされてなかったもんだからさ。」

「はぁ……そんな風にされたから怒る気も消えちゃいました。」

 大きくため息を吐き出すと、じと~っとした目線を私に向けてくる。

「本当はあまり下界に干渉するのは良くないんですけど……まだレラの力が完全に戻った訳じゃないみたいなので、今後もまだあなたの力が必要になるでしょう。でもその魔法を使う度にここに来られちゃ困るので……。」

 パチン!!

 彼女がぶつぶつと言いながら、パチン……と指を鳴らすと私の体に何かが流れ込んでくるのがわかった。

「これは?」

「私の力を少しだけ与えました。これでレラの力に干渉しても命に関わるようなことにはならないでしょう。」

「ほぅ……なるほどな。」

「あ、悪いことに使おうとしたらすぐに取り上げますからね?」

「わかってるさ。」

 もとより悪事などを働くつもりはない。まず第一に、アベル達の目があるなかでそんなことをする方が難しいだろう。

 そんなことを思っていると、エルザが何かに気がついた。

「……っと、どうやら今回はここまでのようですね。」

 エルザがそう呟くと、暗い空間に光が差してきた。その光に私の体が包まれていく最中、彼女は最後にこう言った。

「全部が終わったら、レラとセレーネとあなたに会いに行きますよ。それまでは……こっちに来ちゃダメですからね?」

 彼女が最後にそう言い残すと同時に私の視界がどんどんまばゆい光に包まれていき……目を覚ますと、私の目の前にはみんなの顔があった。

「どうやら気が付いたようだね。」

 私のとなりにいたアルマスが優しく微笑んできた。

「私は…………。」

「お師様~っ!!」

 状況を整理しようと頭を働かせようと思った刹那、目の縁を赤く腫らしたノノが私の胸に顔を埋めてくる。

 そして私の傍らでもう一人大泣きしている人物がいた。

「うぅ~……ほんどによがっだでずぅ~。ぐすっ……私のせいで死んじゃったのかと思いまじだぁ~!!」

 涙やら鼻水やらを大量に垂れ流しながらノアが言った。

「まったく、妾達に帰ってこいと言っておきながらお主自身が危うく帰らぬ身になるところじゃったぞ?」

 やれやれといった感じでカミルは私に言った。

「ま、こうしてちゃんと生きてたんだし良かったじゃない?カミルったら今は強がってるけど、ミノルが倒れたときは凄い慌ててたのよ?」

「なっ!!それは言わんでいいのじゃ!!」

 ヴェルがカミルのことをからかうなか、アベルが今に至った経緯を話してくれた。

「まぁ今まで何があったかって言うと、ミノルが倒れた後、すぐにアルマスに秘薬を作ってもらったんだ。おかげで今ミノルは目が覚めたって感じ。」

「そう……だったのか。」

 アベルから事の経緯を聞いた私はアルマスの方に向き直ってお礼を言った。

「ありがとう、助けられたみたいで……。」

「これぐらいどうってことないよ。秘薬の調合材料は余ってるぐらいだからね。それに、今の状況で君を失うのは痛い。まぁ、今はゆっくり休むと良いよ。それじゃ、僕はここらで失礼するね。」
 
 そう言い残すとアルマスは部屋を後にして行った。

 この世界に来てからというものの、命を救われてばっかりだな。恩を返さないといけない相手がたくさんいることを改めて実感した私は、思わず苦笑いを浮かべてしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...