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第三章 魔族と人間と

第152話

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 状況が落ち着いた後、私はノアにあることを問いかけた。

「そういえば、あれでノアに力は戻ったのか?」

「あ……あの子達の分はちゃんと戻ってきました!!ありがとうございました。」

「そうか、なら良かった。」

 あの方法でちゃんとノアに力を戻せることを実感し、ホッと胸を撫で下ろしていると、私の方をじっ……と見てアベルが不思議そうに呟いた。

「ん~……ミノル。なんかちょっと雰囲気変わった?」

「なにも変わってないと思うんだが……なにか変か?」

「うん、なんて言うのかな~……こうノアともまた違う別な何かがミノルにある気がするんだよね。」

 首をかしげながらアベルがそう言うと、それに続いてノアが声をあげた。

「あっ、私もそれ感じました。変……って言ったら失礼ですけど、何か不思議な力を感じるんです。」

「ふむ……。」

 それは恐らく……エルザの力を受け取ったからなのだろうか?勇者の力の源である女神レラの力に干渉しても、無事に済むように与えられた力だが。
 やはり同じ女神という繋がりで、アベルとノアはそれを敏感に感じ取っていたのだろうか。

「妾は相変わらず、ヴェルの力と妾の力しか感じないがの~……。」

「ね~?」

 カミルとヴェルは自分達が与えた力以外は感じないらしい。

 と、いうことは……やはりアベル達が感じているのは女神の力ということで間違いないだろう。

 ま、ここは適当に誤魔化しておこう。変にエルザの話をしてもあれだしな。

「多分あれじゃないか?私が魔法で勇者の力に触れたからだと思うぞ?耐性か何かがついたんじゃないか?」

「う~ん……そう、なのかなぁ?」

「だってカミル達に力を受け取ったときみたいに、力が増してるわけでもないし……な。」

 これはいたって本当のことだ。体を動かしてみても、特に変化は感じられない。

「まぁ何もないなら良いんだけどさ。……っとボク、アルマスのこと送ってくるよ。すぐ戻ってくるね~。」

 そう言い残すと、アベルは部屋の外へと出ていった。

「まぁ今日は1日ゆるりと体を休めておくのじゃな。無理は禁物じゃ。」

「そうそう、今まで働きづめだったんだから今日位休んでおきなさい?」

「休むのも……仕事のうち。」

 カミル達に口々にそう言われてしまった。そこまで言われては無理に動くことはできないな。

 そう渋々と納得していたときだった……。

 くぅ~~~…………。

「あっ!!」

 ノアのお腹が限界だと悲鳴をあげた。周りにいたみんなにそれを聞かれてしまった彼女は顔を真っ赤にして、手で覆い隠してしまった。

「む、もう飯時かの~。妾もつられて腹が減ってきたのじゃ。」

「ならノノがお師様の代わりに作りますっ!!」

「うむうむ、頼むぞノノ?ミノルが動けん今お主しか料理は作れんからの~。」

「任せてください!!それじゃあお師様はごゆっくり……安静にしててくださいね?」

「……ふっ。あぁ、わかった。ここでおとなしくしてるよ。」

 愛弟子のノノにまで釘を刺されてしまった私は、いよいよもう安静にしているほかなくなった。

 そしてみんなが部屋を後にして、私一人となったこの部屋は静寂に包まれる。

「さて、やることもないし……一先ず寝て体を休めるか。」

 そう思って目を閉じた次の瞬間だった。

「あぁ……愛とはなんて美しいものなのでしょうか。」

「!?」

 突然私の耳元でおっとりとした声が聞こえた。慌てて目を開けて、声のした方を振り返るとそこには一人の美しい女性がいて、私のことをうっとりとした目で見つめていた。

 彼女の容姿はどこかエルザに似ている。髪の色や瞳の色はまったく別物だが、顔立ちはそっくりだ。

「うふふっ、こんにちは。姉さんの遣いの人。姉さんから聞いてるかもしれないけど……一応ね。私はレラ、愛がだ~いすきな女神様なの。」

「なっ……なっ……なんで、いったいどうなって……。」

 戸惑う私の姿をクスリと笑いながらも、彼女は口を開く。

「あなた、姉さんに力をもらったでしょう?だから私の姿が見えるのよ。いいえ……見えるだけじゃないわ。ほら……感じて?」

 おもむろに彼女は私の腕を手に取ると、ぎゅっと抱きしめてきた。すると、その豊満な胸が押し潰されるように私の手に当たる。

「っ!!や、やめてくれ!!」

「あんっ……強引ね。それに……」

 慌てて手を引き抜くと、艶を帯びた声色で彼女はそう言った。

「こんなにもたくさんの愛を受けているのに、まだ経験がないのね?」

「生憎料理に全てを注いできたからな。」

 図星を突かれて私はそう言い返すことしかできなかった。

「うふふっ、いいわねぇ~あなたみたいな人。私だったら……。あなたに愛を向けているみんなはどうして我慢なんてしてるのかしら……。もったいないわ。」

 艶かしい目でこちらを見てくる彼女は、ふとあることに気がついた。

「あ、もしかしてあの子達は……のかしら?うふふっ。」

 一人で何かを納得すると、彼女は私の頬に手を当てて言った。

「あなたが恋愛を知らないのは、よ~くわかったけど~……そんなに鈍感じゃ、いつかあなたのせいでが訪れちゃうかもよ?それだけは……覚えておいてねっ?」

 それだけ言うと彼女は私の前から消えていった。

「私が破滅を?それはいったいどういう……。」

 彼女が最後に言った言葉が理解できずに悶々と一人の時間を過ごすミノルだった。
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