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第三章 魔族と人間と

第177話

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 時刻が夕刻を過ぎた頃……これから私の仕事が始まる。

「っと、さて……それじゃあ始めるとするか。」

 私はコックコートを羽織り、前掛けの帯をきゅっと締め仕事を始める準備を始めた。

 まずはインベントリからこの前用意してもらった炊き出し用の調理器具一式を取り出し、セットを始める。
 着々と準備を進めていると、私のもとにアベルとノアの二人が向かってきた。

「ボクらも手伝おっか?」

「ありがたい話だが……この前の炊き出しとは訳が違うぞ?」

「大丈夫です!!手伝わせてくださいっ!!」

 ふむ……そこまでお願いされたら、断るわけにはいかないな。

「わかった。それじゃあ野菜の下処理とかを手伝ってくれ。」

「うん!!任せてよ~……それじゃあ早速……」

「あ……アベル、その前にノノとマームをこっちに連れてきてくれないか?」

 正直、今回ノノの手も借りないとやってられないぐらい大変な作業になる。

「はいは~い。……いよっと。」

 アベルは空間を切り裂くと、そのなかに両手を突っ込み、なにやらごそごそとまさぐり始めた。

「ん~……あっ!!これかな?」

 勢い良くアベルが空間の裂け目から両手を抜き出すと、その手の先からノノとマームの二人の姿が現れた。

「あれ……お師様?それにアベルさんに……ノアさんも。」

「急に引っ張られてビックリした……。」

「すまないな二人とも。一応安全が確保できたから、アベルに連れてきてもらったんだ。」

「私は……何をすれば良い?」

「マームは……そうだな一先ず料理ができるまでカミル達と周辺を警戒しててもらっても良いか?」

「わかった。」

 コクリとマームは頷くと、カミル達のもとへと飛んでいった。

「お師様!!ノノはお師様を手伝えばいいですか?」

「あぁ、私の作業も手伝ってもらいたいが……今回は主にアベルとノアと一緒に野菜の下処理とか、肉の下処理とかを頼む。」

「わかりました!!」

 さぁて……助っ人も来てくれたことだし、早速始めるか。

「今回使う野菜は、これとこれと……。」

 インベントリからポンポンと私は大量の野菜を取り出して並べていく。どんどん積み重なり、山のようになっていくそれを見てアベルがポツリと溢した。

「うわぁ……多いね。」

「そりゃあ三千人規模の超巨大な炊き出しだからな。ちなみにまだまだあるぞ。あと、これ米な。」

 野菜の他に、巨大な布袋にパンパンに詰まっている米を並べると、あっという間に辺りが大変なことになってしまう。

「一先ず最初はアベルとノアで米を研いでくれ。その間に私とノノである程度野菜の処理はしておくから。」

「りょ~か~い!!」

「任せてください!!」

 アベルとノアに米を任せて、私はノノと野菜の下処理を始めた。洗って切るだけ……と言っても量が量だからな。なかなか大変だ。

「お師様、今日は何を作るんですか?」

「今日は豚汁と魚の塩焼き……それと何種類か具を詰めたおにぎりにする。」

 取りあえず、簡単にできて……尚且つ栄養をとれるものを今は作りたい。手の込んだ料理を作るのは、この人数相手では朝までかかる。

「だから……ノノは私とアベル達が入れ替わったら魚の方に回ってくれ。」

「はいです!!」

 役割分担をしながら調理を進め、なんとか料理を完成させた私達は、兵士達に料理を配り始めた。

「はいは~い、皆順番に並んでね~。」

「おにぎりは好きな具が入ったのを選んで良いですよ~。」

 兵士達に食事を行き渡らせると、カミル達がこちらにやって来た。

「妾は大盛で頼むのじゃ!!」

「私も大盛でお願~い。」

「ノノ、私も……大盛ね?」

 三人が大盛の料理を受けとるなか、その傍らでアスラが目から濁流のように涙を流していた。

「魔王様が作った料理を頂けるとは……このアスラ、至極幸せでございます……。」

「おぅおぅ……お主はいちいち大袈裟じゃのぉ~。」

 そんな彼の姿を見てカミル達は少し引いている。そしてカミル達も持ち場に戻って食事を食べ始めた。

「ふぅ、ちょっと多く作りすぎたか。」

「ね~?ちょっと余っちゃったね。」

 流石に三千人規模の料理を作るのは私も初めてだったため、少し量をミスってしまった。
 でもまぁ、みんなのおかわり分があると思えばいいか……とポジティブに考えていると。ふとノアが街の方を見つめているのに気が付いた。

「ノア?」

 その視線の先には街の入り口からじっとこちらを見つめている子供達の姿があった。どうやら料理を作っている匂いが風に乗って街の中に流れ込んでしまっていたようだ。

 意図を察した私はノアに声をかけた。

「配ってくればいい。どうせまだまだ余ってるからな。」

「いいんですか!?」

「もちろんだ。あと、子供達に伝えておいてやってくれ……お腹が空いてる大人がいたら連れてきてとな。」

「わかりました!!」

 表情を明るくしたノアは、料理を持って子供達の方へと向かっていった。
 
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