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第三章 魔族と人間と
第180話
しおりを挟む「ん……?むぐぐ……。」
ぐっすりと眠っていた私は、不意に感じた息苦しさと鼻腔を抜けるほのかに甘い香りで目を覚ました。虚ろな目を開けると……目の前に肌色で柔らかい谷間があった。
「んっ!?むぐぐぐっ!!」
抜け出そうと体を動かそうとするが、万力のような力で抱きしめられており全く抜け出すことができない。一番の問題は、目の前にある大きな胸のせいで目の前にいる者の顔が全く確認できないことだ。
体をよじろうと、頑張っていると目の前の主が声を上げた。
「ん……ん~、暴れないの。」
「ふぐっ!?」
彼女はそう言うと私のことをさらにきつく抱きしめてくる。そしてその声から分かったことが一つ……今私のことを抱きしめているのはヴェルだ。
何でここにいるんだ!?
「むぐぐぅ……。」
いや、なぜヴェルがここにいるのかよりも、ここを抜け出す方法を考える方が最優先事項だ。
しかしながら、抱き枕のように抱かれてしまっているためまったくと言っていいほど身動きがとれない。
さて困ったぞ…………。
ほとほと困り果てていると、背中の方からノノの声が聞こえた。
「ふぁ……んん……。」
「むぐぐッ!!」
起きたのならこの状況をどうにかしてほしい。今私が助かる唯一の道筋はノノにヴェルを何とかしてもらうしかない。
「ん~……お師様~?…………ふにゃっ!?なっ、な、何でヴェル様がここに!?」
私の背中の方で驚いた声をあげるノノ。
「ふに~……ッ!!ヴェル様っお師様を離してください~!!」
ぐいっと力を込めてノノがヴェルのことを引き剥がそうとするが、びくともしない。
それどころか、事態はより一層悪い方向に進むことになる。
「ん~……なぁに~ノノ~?……ノノも一緒に寝る~?」
ヴェルは片手でノノの事を持ち上げると、私と同様に抱き枕にしてしまう。
「あぅ~……違うんですヴェル様~…………あ、でもお師様にくっつけるからこれはこれで……えへへへ♥️」
「んふふ……もふもふであったかいわぁ~……おやすみ。」
「むぐぐ~~~~~ッ!!」
◇
そして数時間後、いつまで経っても起きてこない私達を不思議に思ったカミルが私の事を助けてくれた。
「まったく、朝から何をしておるのじゃお主はっ!!」
ゴンッ!!
「あだっ!?」
朝一番からカミルはヴェルに拳骨を落とす。拳骨を落とされたヴェルの頭には、ぷっくりと大きなたんこぶができている。
「あいたたた……ゴメンって謝ってるじゃない!!昨日は寒かったからミノルのベッドに潜り込んでたのよ。」
「ちっとは我慢せぬか!!妾も同じ思いをしておったのじゃぞ!?」
ガミガミとカミルの説教が朝から響く。
「あんたはいいでしょ!?自分で暖めれるんだから!!私はできないのよ!?」
「できぬわ!!ベッドの中で炎を使おうものなら火事になるのじゃ!!」
不機嫌になって反論するヴェルにカミルはド正論をぶつける。
「ぬぐぐぐぐ……。でも~……でも~っ!!」
カミルとヴェルの二人がにらみ合いを続けるなか、アベルとノアの二人がこちらに向かって歩いてきた。
「やぁおはようミノル、ノノちゃん。」
「おはようございます。」
「あ、あぁ……おはよう。すまないな。」
起きれなかったことを謝ると、アベルはふるふると首を横に振った。
「いいのいいの~、カミルからちゃんと事情は聞いたしね~。……あ、そういえばさっき王国騎士?だっけ?あの人達がピースに移住したいって人達を連れてきたから、もう送ったからね。」
「仕事が早いな。ちなみに何人ぐらいいた?」
「う~ん、少なかったよ?ホントにその……ミノルが作った紙で当てはまるのが多かった人達だけだったからね。」
「そうか。」
なら、まだピースの拡張をする必要はなさそうだな。もし希望する人が多かったら拡張を視野に入れないと……と思っていたんだが、まだ様子見でよさそうだ。
「兵士達の様子はどうだ?続けていけそうか?」
「うん、大丈夫。むしろ……なんか皆昨日より元気だし。何でだろうね?」
「ふっ、アベルが作ったご飯を食べたから……じゃないか?」
「そうかな~?だったら嬉しいんだけどね~♪」
少し照れているのか、アベルはそっぽを向きながら言った。
「さて……それじゃあ、今日は残りの二つの街を制圧できるように頑張っていこう。」
王都を除いて残っている街は二つのみ……そこを落としたら王手だ。
しかし……こちらがこんなにも動きを見せているのにシルヴェスターが動きを見せてこないのが気がかりだな。何を仕掛けてくるかわかんないから、気を付けておかないとな。
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