アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第三章 魔族と人間と

第186話

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 予想だにしなかったノアの問いかけに驚きを隠せずにいると、彼女は少しずつ説明を始めた。

「だ、だって……最近のアベルって妙にミノルさんとの距離が近い気がするんです。」

「あ~……はぁ、なるほど?」

 ノアの言ってることは間違ってない。確かに……ここ数日アベルの私に対するスキンシップは、少し過激だ。
 しかし、どうやら理由はそれだけではないらしい。

「それに、アベルっていっ……つも、寝てる時に私のことを抱きしめてきては、ミノルさんの名前を呼んでるんです。」

 おぉぅ……。それは知らなかったな。

 だがしかし、それでも私とアベルが恋仲である……という事実は無い。変な誤解を招く前に、これだけはちゃんとハッキリ、違うと言っておいた方が良さそうだな。

「ちなみにさっきの質問の答えなんだが、そんな事実は全く無いぞ?」

「ふぇっ?そっ、そうなんですか?」

「あぁ。なんなら恋仲と呼べる人すらいない。」

 キョトンとした表情を浮かべるノア。おそらく私とアベルが恋仲であると確信していたのに、事実は違うと知らされたから驚いたのだろう。
 しかし次の瞬間には、彼女は笑みを浮かべていた。

「あは……あははっ、そうだったんですね。……あっ、すみませんこんなことでお時間を取らせちゃって。」

「いいんだ。こちらとしても誤解を解くいい機会だった。それじゃあな。」

 ノアと別れた私はカミル達のもとへと向かう。そして城へと戻り、溜まった疲れを癒すのだった。









  



 その日の夜……アベル宅、魔王城にて……。

「ふん♪ふ~ん♪」

 寝る前に髪を櫛でとかしているノアは、機嫌が良いのか鼻唄を口ずさんでいる。
 そんな様子をベッドの上から眺めていたアベルはノアに言った。

「今日はなんかご機嫌だねノア?」

「あ、分かる?」

「うん、スッゴい幸せってのが見てわかったよ。なんか良いことでもあった?」

「んふふ~、実はね……私前から好きな人がいたの。それで、その人まだ恋人がいないんだって!!」

 嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうにノアはアベルの問いかけに答えた。

「へぇ~!!誰~?もしかしてゼバス?」

「違うよ~、確かにゼバスさんは良い人だけど……あの人もう結婚してるもん。」

「うぇ~、意外。ん~……?じゃあ……誰?」

「それだけは内緒~。……でもアベルもよ~く知ってる人だよ?」

 そう一つだけヒントをアベルに提示すると、ノアはアベルと同じベッドに潜り込んだ。

「え~?ボクも良く知ってる人~?……誰だろ?うわ~気になって眠れなくなっちゃうよ~!!」 

 悩むアベルの様子にノアはクスリと笑みを浮かべた。

「それじゃあ私、今日は先に寝るからね~。おやすみ~。」

「う~……!!絶対誰か当ててやるからね!!」

 一足先に寝息をたて始めたノアの隣で、いったいノアの想い人が誰なのか……気になって仕方がないアベル。

「く~っ……誰だ?……ってか、ボクの周りほとんど女の子しかいないからある程度限られてはいるんだけど。……ハッ!?もしかしてシグルド?」

 アベルは自分がよく知っている男性を頭のなかで思い浮かべる。ふと思い浮かんでくるのは、親友のアルマスや、執事のシグルド等々……。
 だが、アベルは頭のなかで……意識せずともある人物だけは思い浮かべないようにしていた。
 しかし、ノアのある行動で嫌でもその人物を思い浮かべるはめになる。

「ん~……むにゃ、えへへミノルさん。」

「…………!!!」

 寝言でノアが口ずさんだある人物……それは自分が無意識で考えようとしていなかった人物だった。
 そしてそれを聞いたアベルは全てを察したようで……。

「はっは~ん、なるほどね。ノアも……ミノルなんだ。」

 ポリポリと困ったようにアベルは自分の頭を掻いた。

「うわ~……競争率高いなぁ~。ノアまで参戦してくるのはさすがに予想外……。」

 正直、アベルの頭のなかでは……ノノは未だ成人まで程遠い年齢であることから、自分の方が圧倒的に優位であると思っていた。
 だが、この二人の間にノアが参戦してくるというのは、アベルの優位性が一気に消え失せてしまう。

「これも……魔王と勇者の定めなのかなぁ~。血生臭い争いはしないですんだけど……まさかここで恋人争いをする事になるんだ。」

 幸せそうに眠るノアの表情を見て、アベルは大きくため息を吐き出した。

「はぁ~…………。運命って残酷……でもボクは負けないよ。」

 ノアに闘志のこもった視線を向けると、アベルもまたベッドに横になるのだった。

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