アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
197 / 200
第三章 魔族と人間と

第196話

しおりを挟む

「ふぅ……これで最後っと。」

 私はアベルの城の厨房で最後の料理を仕上げ終えた。

「これも持ってってくれ。」

「かしこまりました。」

 給仕服に身を包んだノアのホムンクルスに、最後の料理を持っていってもらう。

「さて、私も会場に行くか。」

 調理服を脱いでインベントリにしまい、私も祝勝会の会場に向かう。魔王城の構造は複雑だが、ノアのホムンクルスについていけばなんの問題もない。

 そして会場の扉をくぐると……中には見知った顔がたくさんあった。今回実際に作戦に参加したアベルやノア、カミル達はもちろんのこと、同盟国の長であるジュンコやアルマス達もいた。

「あ、お師様!!お疲れ様ですっ!!」

 私が中に入ると、こちらに気が付いたノノが飛び付いてきた。それに続きカミル達もこちらにやって来た。

「ご苦労じゃったの、ミノル。」

「前線で戦ってたカミル達ほど苦労はしてないさ。」

 王国騎士達と実際に戦っていたカミル達に比べれば……私の苦労なんて苦労のうちに入らない。
 そんな会話をしていると、後ろの扉が閉まりアベルが壇上に立って話し始めた。

「あ~……えっと、ひとまず皆お疲れ様。皆のおかげで今日遂に、人間と魔族との永い争いが終わったよ。それを祝って……今日は羽目を外して宴を楽しんでほしいな。」

 少し緊張しながら壇上で話すアベル。

「えっと~……それで最後に一言だけ。多分……ボクだけの力じゃここまで辿り着けなかった…………本当に皆ありがとう!!」

 アベルの言葉に会場にいた皆が拍手を送る。

「さっ!!堅苦しい話はおしま~い!!早く食べよ食べよ~。」

 そして、全種族間の平和を祝う祝勝会が今幕を開けた。













「今日はどこもかしこもお祭り騒ぎなんだろうな。」

 会場に設置されているバルコニーから外を眺めながら、私はポツリと溢した。

「あはっ♪当たり前だよ~。」

「ん?」

 後ろを振り返ると、そこにはアベルがいた。

「良いのか?今日の主役だろ?」

「いいのいいの~、別に主役とか関係ないし~。ミノルこそこんなとこで一人で何してるのさ?」

 アベルは私の隣まで歩いてくると、そう問いかけてきた。

「他の街でもお祭り騒ぎなのかと思ってな。ここからなら見えるかと思ったんだが……。」

「あ~、そういうこと。でも霧のせいで見えないでしょ?」

「あぁ。」

 魔王城の周りには深い霧がかかっている。そのため近くにある街を眺めることすらできなかった。

「っと、さて……そろそろ中に戻るか。外の様子も見えないことだしな。」

 そして中に戻ろうとした時……。

「あ、待って!!」

 突然アベルに手をとられ、引き留められた。

「あ、あのさ……ボク言ったよね?全部終わったら……話したいことがあるって。」

「あぁ、そうだな。」

 確かノノと険悪な雰囲気になっていたときに言っていたな。

「そ、その事なんだけど……さ。」

「約束だからな。何でも聞くぞ?」

「あ、う、うん……えっと……その…………。」

 聞くぞ……と言ったのはいいものの、なかなかアベルがそれを口に出そうとしない。
 さっきから顔を赤くしてモジモジしてるばかりだ。

「今話しづらいことか?それならまた後でゆっくり聞くが……。」

「あ、いっ……今じゃなきゃダメっ!!」

 そう強く主張したアベルの気迫に私は少し気圧されてしまう。

「そ、そうなのか?」

「うん。」

 アベルは一つ大きく頷くと、大きく深呼吸を何度かした。そして……。

「ボク、どうしてもミノルに伝えたいことがあるんだ。」

「あぁ。」

「あ、あの……ぼ、ボクね……ミノルの事………………。」

 アベルが遂に意を決して、私に何かを告白しようとしていたそのときだった……。

「「「ちょっと待ったーーーっ!!」」」

「「!?」」

 突然後ろから大きな声が聞こえ、振り返ってみるとそこには、カミルとノノ、そしてノアの三人がいた。

「の、ノアにカミルに……ノノ?」

 私が戸惑っていると、三人はアベルのもとに歩み寄る。

「アベルさん、抜け駆けは良くないですっ!!」

「げっ……ノノちゃんにノアにカミル。」

 三人の登場にアベルの表情が一気に強張る。

「ノノちゃんの言うとおりです!!」

「ミノルの事は、いくら魔王様といえど妾を介してもらわねば困るのじゃ。」

「うっ……。」

 い、いったい何がどうなってるってんだ??

 目の前でアベル達が言い争っている現状を理解できずにいると……。

「ふふっ、平和の立て役者は大変だね。」

「アルマス?」

 クスリと微笑みながらアルマスがこちらに歩いてきた。

「君も鈍感すぎるからね。少しは彼女達の気持ちに気がついてあげてもいいんじゃないかな?」

「と、というと?」

 次にアルマスが口にした言葉に私は思わず耳を疑うこととなった。

「アベル達は君のことを取り合っている……ってことにさ。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

処理中です...