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第三章 魔族と人間と

第195話

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 永きに渡って続いてきた魔族と人間との争いに終止符が打たれた事を祝って、今宵魔王城にて祝勝の宴が開かれることになった。
 もちろんその宴には、今まで協力を惜しみなくしてくれた獣人族の女王ジュンコや、エルフを束ねる精霊王のアルマス等々も招かれた。

「いや~めでたいでありんす!!まっこと、めでたいでありんす~。」

「まさか本当に……成し遂げてしまうなんてね。今日ほど祝福すべき日は、これまでに無いね。」

 アベルと共に食卓を囲んでいるジュンコとアルマスは口々に言った。

「ジュンコとアルマスの力があってこそだけどね~。とてもじゃないけど一人じゃ絶対無理だったよ。」

「僕達の力なんて些細なものさ。実際に成し遂げたのは君なんだから、もう少し胸を張ったらどうだい?」

「そうでありんすよ~。アベル殿はもっと自分に自信を持つべきでありんす。」

「自分に自信……かぁ~。」

 ジュンコの言葉に思い詰めた様子を見せたアベルは、大きくため息を吐いた。
 それを見た二人はお互いに顔を見合わせて首をかしげた。

「……何か悩みごとかい?」

「ん~……。」

「せっかく新しい歴史を作ったのに、もう悩み事でありんすか?アベル殿は大変でありんすねぇ~。」

「僕達で良かったら相談にのるけど……話せる内容かい?」

「う~ん……あっ!!じゃあ二人って……好きな人ができたらどうやって口説く?」

「「好きな人?」」

 アベルの言葉に、アルマスとジュンコの二人はお互いに顔を見合わせた。
 
「うん……。それで、その人を好きになったのが自分だけじゃなかったら……どうする?」

 二人はお互いに顔を見合わせると、口角を少し吊り上げ、目を細めながら言った。

「はっは~ん、さてはアベル殿……遂に想い人ができたでありんすね~?」

「これはまたおめでたい報せを聞く日も近いかな?」

「ちょっ!!そそ……そうじゃないからっ!!た、ただ……単純に、い、意見を聞きたくて。」

 両手の人差し指の先端をツンツンと合わせ、少しモジモジしながらアベルは言った。

「ふふっ、まぁそういうことにしておこうか。……それで、好きになった人を口説く方法……だったかな?」

「ちょっと!!声が大きいよアルマス!!ご、誤解されちゃうでしょ?」

 顔を真っ赤にして、周りにいる誰かに聞かれていないかを必死に気にする、初々しいアベルの反応を楽しむようにしている二人。

「ごめんごめん。」

「も~っ!!少しは気を付けてよね。ボクの威厳に関わる事なんだから!!」

「それにしても、なかなか複雑な場面の質問でありんすねぇ~。恋敵が複数いるなんてことなかなかないでありんすよ?」

「ジュンコさんの言うとおりだね。生憎僕もそういう場面に出くわしたことがない。」

「あちきもまず恋心を抱いたことがないでありんすからねぇ~。」

「だよねぇ~……はぁ~…………。」

 予想通りだった二人の返答にアベルはうつむきながら、大きなため息を吐き出した。

「どうしたらいいかなぁ~…………。」

 とても世界の争いに終止符を打った者が浮かべる表情ではない、悩みに苛まれている表情を浮かべるアベルの姿を見て、流石に他人事ではないと感じ始めた二人は真剣に考え始めた。

「……アベル殿は、仮に恋敵がいたらどうしたいでありんすか?」

「どうしたい……って、そりゃあ…………負けたくないし。好きな人を渡したくないよ。」

「それなら、やっぱり先手必勝の法則でありんす!!」

「先手必勝の法則?」

 ジュンコの言葉にアベルは首をかしげるが、言葉の意図を察したアルマスは納得して頷いた。

「なるほど……それは確かに有効かもしれないですね。」

「そうでありんしょ?」

「……つまり?どういうことなの?」

「つまり、その恋敵達よりも早く……真っ先に想い人に自分の気持ちを伝えるでありんす。」

「真っ先に……伝える。」

「そういう状況では後手に回れば回るほど、どんどん不利になるからね。恋愛は真剣勝負とはよく言ったものだよ。」

「恋愛は……真剣勝負。」

 目を閉じて……二人の言葉を呟いたアベルは、大きく頷く。

「うん、うん!!わかった、ありがとね二人とも!!」

「力になれたのなら、なによりでありんす。」

「参考になればいいんだけどね。」

 真剣に考えてくれたジュンコとアルマスに、感謝の言葉を述べたアベルはあることを決意するのだった。
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