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第三章 魔族と人間と
第194話
しおりを挟む「君で最後……はぁっ!!」
「ぐっ……ふ…………。」
最後の最後まで立ち向かっていた王国騎士の男が今……アベルの拳に沈んだ。戦いに勝利を納めたアベルは兵士達に告げた。
「医療兵、この人たちを治療してあげて。」
「「「はっ!!」」」
医療兵……と呼ばれた兵士達が倒れ伏している王国騎士達に近付くと、回復魔法で彼らを動ける程度まで治療し始めた。
そして目を覚ました彼らにアベルは話し始めた。
「さて、これでやっと話ができるね。」
「……なぜ我々を助けた?」
「だ~か~ら~、ボク達は最初から君たちを殺す気なんてないんだってば。わかる?」
「信用できない。我々を生かしておいて何になる?貴様ら魔族にとって我々は邪魔な存在だろう?」
彼らはまだアベルの言葉を信用していないようだ。
「邪魔な存在とかそういうのいらない。ボクが望むのは君たちとの和睦……勇者のノアもこれ以上戦いを望んでないから協力してくれてるの。」
「…………。」
アベルと会話をしている彼はノアの方に視線を向けた。そんな彼の視線にノアはコクリと頷いた。それを見た彼は今度はゼバスの方を向いて口を開く。
「ゼバス団長も同じ考えなのですか?」
「うむ。」
「…………。いったい、どうしてそこまで魔族に信用が持てるのですか?」
悩みながらも彼はゼバスに問いかける。
「吾輩が貧困に苦しんでいた民を連れて国を出たのは知っているな?」
「はい……。」
「魔族の方々はそんな民を快く受け入れ、食料だけでなく住居まで提供してくれたのだ。」
「「「……!!!!」」」
ゼバスのその言葉に話をしていた彼だけでなくほかの王国騎士の人たちも驚いた表情を浮かべた。
「故に吾輩は彼らを信じ行動を共にしている。頭が回るお前なら……今、民を救うために、そして国を救うために何の選択をすべきか、もうわかっているのではないか?」
「…………。」
ゼバスの言葉に彼は深く悩んでいるようだ。しかし、数分悩んだ後……彼は遂に決断を下した。
「……わかった。我らは降る……民のために。」
その言葉を聞いた瞬間、魔族の兵士達から大きな歓声が上がった。そしてその歓声は隊列の最後尾まで響き渡った。
「おっ?どうやら決着が着いたらしいな。」
こっちの兵士達の歓声が上がってるってことは、アベル達が勝利を納めたのだろう。
そろそろ様子を見に行っても良さそうだな。
そう思って歩みを進めようとした時だった……。
「……前……せ…………だ。」
「ん?」
突然後ろからボソボソと誰かが呟く声が聞こえたので振り返ってみると、そこには……。
「お前のせいだァァァァッ!!」
ガリガリに痩せ細ったシルヴェスターが私に向かって、キラリと鈍く光るナイフを振りかざしていた。
「ッ!!」
とっさに手を伸ばし、私はシルヴェスターの手首を掴み取り振り下ろされた刃を受け止めた。
「貴様がいなければァァァァッ!!私の計画は成功していたんだ!!」
叫びながらシルヴェスターは振り下ろしたナイフに力を込める。
「計画……ね。人の命を弄ぶような計画なんざ失敗して当然だ。」
「うるさいッ!!貴様に何がわかる!!」
「生憎、あんたの考えなんざわかりたくもないね。」
そう皮肉を言ってやると……。
「おい、貴様何してる!!」
「取り押さえろ!!」
私が襲われていることに気が付いた兵士達が見事な手際でシルヴェスターの事を拘束する。
「ぐっ……触るな!!私はァ……この世界の王になるんだァァァァッ!!」
シルヴェスターは、吠えながらじたばたと暴れるが兵士達は拘束を緩めない。
そんな騒動が起きている最中、アベルがこちらに歩いてきた。
「この世界に君みたいな王は要らないよ。君はまだまだ余罪がありそうだから話は後でゆっくりと聞かせてもらうからね。」
アベルはそう告げると空間を切り裂いた。
「それまで牢屋で大人しくしててもらうよ。……連れてって。」
「「「はっ!!」」」
「ぐっ……クソッ離せッ!!私はまだッ…………。」
最後の最後まで抵抗の意思を見せながら、シルヴェスターは裂けた空間の中へと兵士と共に消えていった。
「ミノル、怪我はない?」
「あぁ、問題ない。……にしても、ずいぶん人が変わったみたいだったな。」
以前目にしたシルヴェスターの姿はあんなに老けていなかったはずだが……。
「禁術の使いすぎだろうね~。ちょっと魔法を使えるぐらいの人が調子に乗って使いすぎると、あっという間に寿命を食べられちゃうんだ。」
「つまるところ自業自得ってわけか。」
「そういうこと~。」
禁術を使っているつもりが、自分が使われていた……ということか。だがまぁ……これで全部丸く収まったな。
最後の懸念点だったシルヴェスターもあっさりと捕まって……。ようやくこの魔族と人間との長い争いの歴史に終止符が打たれた。
「ふっ、今日はごちそうを作らないとな。」
今日は頑張ってくれたみんなに、私が作れる最高の料理を届けよう。
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