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23話 ステージから降りた天使
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最後の拍手がゆっくりと収まり、
指揮者が深く礼をすると、
オーケストラは静かに退場の準備を始めた。
その横で――
(……あぁ……終わったんだ……)
憂は胸に手を当てたまま、
まだ舞台の眩しさから抜け出せずにいた。
すると背後から声が飛ぶ。
「Miss Uryō! Amazing voice!!」
「Great performance!!」
「かわいかったーー!」
「英語すごすぎるだろ……!!」
「一般人って言ってたの嘘じゃん!!」
「さっきの曲、CDないの!?ないの!?」
(えっ……えっ……!?
な、なにこの人数……!?)
憂がステージを降りようとした瞬間――
観客の数十人が一気に駆け寄ってきた。
「写真……一緒にいいですか!?」「握手お願いします!」「サインは……!」
「え、ちょ、ちょっと待って……わ、わたしこんな……!」
ざわざわざわざわっ!!
さっきまで名前も知られていなかった“ただの女子中学生”の周りに、
あっという間に大きな円ができてしまった。
その異様な盛り上がりを割って入るように――
「ストップ。道開けて」
冷たい声。
リナだった。
舞台照明で汗がにじんだ額。
乱れた呼吸。
それでも鋭い目。
プロの風格そのもの。
「憂は今、アフタートークの準備中。
勝手に囲まないで」
通訳スタッフも慌てて駆け寄る。
「Please give her some space!
She’s not a performer, please!」
しかし興奮した乗客たちは
「ちょっとだけ!」「本当に感動したから!」
と口々に言いながら、なかなか下がらない。
(うわぁぁぁぁああ!!やめて~~!!)
憂は半泣きになりつつ、
リナの後ろにそっと隠れる。
「……一般人じゃなかったの?って顔してるよ、みんな」
「ち、ちがっ……! 一般人です……!」
「はいはい。じゃ、プロの護衛が連れてく」
リナはため息をひとつつき、
憂の手首を軽く掴んだ。
「もう行くよ。転ばないで」
「う、うん……!」
観客たちは、
拍手と歓声で二人の背中を見送った。
「かわいかったー!!」
「がんばってー!!」
「Wizard最高だったー!!」
(……なんか……夢みたい……)
憂は胸元のペンダントをそっと握りしめた。
ぼうっとしている憂の耳に、
階段を駆け下りる足音が響いた。
「憂ちゃあああああんッ!!」
「ひゃっ!?」
飛び込んできたのは――葉月。
勢いで軽くバウンドするほどの抱きつき。
半泣きの笑顔で、
憂の肩に顔をうずめる。
「すっっっっごかった!!
もう……もう……ボロ泣きした!!
あんた天才じゃん……!!」
「お、お姉ちゃん……! く、苦しいよ……!」
葉月は涙を拭う暇もなく、
ぎゅううううっと憂を抱きしめ続けた。
「うぅ……憂ちゃんが……
あんなきれいな声で歌うなんて……
ずるいよ……ずるい……!!」
「褒めてるのか怒ってるのかわからない……!」
憂は照れながらも、少しだけ笑った。
そんな二人の横で――
「憂さん……」
静かに歩いてくる足音。
菊子だった。
その姿は普段と変わらず上品で、
けれど瞳だけは、少し赤い。
「憂さん……本当に……素晴らしかったですわ。
心から……ありがとう」
「奥様……」
憂は思わず息を呑む。
菊子が憂の肩に触れ、
言葉をひとつひとつ刻むように伝えた。
「あなたのおかげで、
わたくしは“ある過去”と向き合えましたの」
「……過去……?」
菊子はそっと目を伏せた。
「あなたの歌は……心をほどきますのね。
痛みを、ほどいてくださるのね……」
涙が、ゆっくりと頬を伝う。
(菊子さん……泣いてる……)
憂は胸が熱くなるのを感じた。
「あなたは優しい方。
どうか、その優しさを誇ってくださいまし」
「……はい……」
憂は深く頷いた。
喉が熱くて、うまく言葉が出ない。
その空気をじっと見ていた葉月は――
「……よし!!」
突然パンッ!と手を叩いた。
「よ、よしってなに……?」
「憂ちゃん、今日は奥様とゆっくり話したほうがいいよ。
あたしがいたら……たぶん邪魔」
その言葉の奥に、
“姉としての気遣い”が隠れていることくらい、
憂にはすぐわかった。
「というわけで! 今からジム行ってくる!!!」
「じ、ジム!?このタイミングで!?」
「うん!!感動しすぎて汗かいたし!!
あと最近ちょっと太ったから!!!
ほら、じゃ!!行ってくる!!」
(絶対ちがうやつ……)
葉月は菊子に丁寧にお辞儀をすると――
「憂ちゃん!あとで戻るよ!!」
腕をぶんぶん振って走り去った。
「葉月さん……やっぱり優しい方ですわね」
「……うん。ほんとに……」
葉月の背中が見えなくなった廊下で、
菊子が憂に向き直る。
「憂さん。
……少しだけ、お時間いただけますか?」
「……わたしも、お話ししたいです」
「では、場所を変えましょう。
部屋へいらっしゃい」
憂は胸の奥に小さな鼓動を抱えながら、
菊子のあとを静かに歩いていった。
指揮者が深く礼をすると、
オーケストラは静かに退場の準備を始めた。
その横で――
(……あぁ……終わったんだ……)
憂は胸に手を当てたまま、
まだ舞台の眩しさから抜け出せずにいた。
すると背後から声が飛ぶ。
「Miss Uryō! Amazing voice!!」
「Great performance!!」
「かわいかったーー!」
「英語すごすぎるだろ……!!」
「一般人って言ってたの嘘じゃん!!」
「さっきの曲、CDないの!?ないの!?」
(えっ……えっ……!?
な、なにこの人数……!?)
憂がステージを降りようとした瞬間――
観客の数十人が一気に駆け寄ってきた。
「写真……一緒にいいですか!?」「握手お願いします!」「サインは……!」
「え、ちょ、ちょっと待って……わ、わたしこんな……!」
ざわざわざわざわっ!!
さっきまで名前も知られていなかった“ただの女子中学生”の周りに、
あっという間に大きな円ができてしまった。
その異様な盛り上がりを割って入るように――
「ストップ。道開けて」
冷たい声。
リナだった。
舞台照明で汗がにじんだ額。
乱れた呼吸。
それでも鋭い目。
プロの風格そのもの。
「憂は今、アフタートークの準備中。
勝手に囲まないで」
通訳スタッフも慌てて駆け寄る。
「Please give her some space!
She’s not a performer, please!」
しかし興奮した乗客たちは
「ちょっとだけ!」「本当に感動したから!」
と口々に言いながら、なかなか下がらない。
(うわぁぁぁぁああ!!やめて~~!!)
憂は半泣きになりつつ、
リナの後ろにそっと隠れる。
「……一般人じゃなかったの?って顔してるよ、みんな」
「ち、ちがっ……! 一般人です……!」
「はいはい。じゃ、プロの護衛が連れてく」
リナはため息をひとつつき、
憂の手首を軽く掴んだ。
「もう行くよ。転ばないで」
「う、うん……!」
観客たちは、
拍手と歓声で二人の背中を見送った。
「かわいかったー!!」
「がんばってー!!」
「Wizard最高だったー!!」
(……なんか……夢みたい……)
憂は胸元のペンダントをそっと握りしめた。
ぼうっとしている憂の耳に、
階段を駆け下りる足音が響いた。
「憂ちゃあああああんッ!!」
「ひゃっ!?」
飛び込んできたのは――葉月。
勢いで軽くバウンドするほどの抱きつき。
半泣きの笑顔で、
憂の肩に顔をうずめる。
「すっっっっごかった!!
もう……もう……ボロ泣きした!!
あんた天才じゃん……!!」
「お、お姉ちゃん……! く、苦しいよ……!」
葉月は涙を拭う暇もなく、
ぎゅううううっと憂を抱きしめ続けた。
「うぅ……憂ちゃんが……
あんなきれいな声で歌うなんて……
ずるいよ……ずるい……!!」
「褒めてるのか怒ってるのかわからない……!」
憂は照れながらも、少しだけ笑った。
そんな二人の横で――
「憂さん……」
静かに歩いてくる足音。
菊子だった。
その姿は普段と変わらず上品で、
けれど瞳だけは、少し赤い。
「憂さん……本当に……素晴らしかったですわ。
心から……ありがとう」
「奥様……」
憂は思わず息を呑む。
菊子が憂の肩に触れ、
言葉をひとつひとつ刻むように伝えた。
「あなたのおかげで、
わたくしは“ある過去”と向き合えましたの」
「……過去……?」
菊子はそっと目を伏せた。
「あなたの歌は……心をほどきますのね。
痛みを、ほどいてくださるのね……」
涙が、ゆっくりと頬を伝う。
(菊子さん……泣いてる……)
憂は胸が熱くなるのを感じた。
「あなたは優しい方。
どうか、その優しさを誇ってくださいまし」
「……はい……」
憂は深く頷いた。
喉が熱くて、うまく言葉が出ない。
その空気をじっと見ていた葉月は――
「……よし!!」
突然パンッ!と手を叩いた。
「よ、よしってなに……?」
「憂ちゃん、今日は奥様とゆっくり話したほうがいいよ。
あたしがいたら……たぶん邪魔」
その言葉の奥に、
“姉としての気遣い”が隠れていることくらい、
憂にはすぐわかった。
「というわけで! 今からジム行ってくる!!!」
「じ、ジム!?このタイミングで!?」
「うん!!感動しすぎて汗かいたし!!
あと最近ちょっと太ったから!!!
ほら、じゃ!!行ってくる!!」
(絶対ちがうやつ……)
葉月は菊子に丁寧にお辞儀をすると――
「憂ちゃん!あとで戻るよ!!」
腕をぶんぶん振って走り去った。
「葉月さん……やっぱり優しい方ですわね」
「……うん。ほんとに……」
葉月の背中が見えなくなった廊下で、
菊子が憂に向き直る。
「憂さん。
……少しだけ、お時間いただけますか?」
「……わたしも、お話ししたいです」
「では、場所を変えましょう。
部屋へいらっしゃい」
憂は胸の奥に小さな鼓動を抱えながら、
菊子のあとを静かに歩いていった。
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