沈黙のういザード 

豚さん

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16話 白凰の制服と、繋いだ指先

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「ごきげんよう。
 そちらのお二人……白凰の制服、着てみませんこと?」

文化祭の特設ブースから、上品な声が響く。
白凰の先輩たちが、優雅な微笑みを浮かべながら私たちに声を掛けてきた。

「本日限定で、着用体験をご用意しておりますの。
 よろしければ、ぜひどうぞ」

千秋がちらりと私を見る。私は少し照れたように微笑み――

「……千秋。せっかくだし、着てみましょうか?」

「……は、はいっ……!」

更衣室を出た二人は――まるで社交界にデビューする若き令嬢のようだった。
私の制服のリボンが風に揺れ、千秋は銀細工のボタンにそっと指を添える。
上質な生地が光をまとい、立ち姿だけで“育ち”がわかるほどの気品を醸していた。

「雪乃さん……似合いすぎですわ……」

「千秋も綺麗。……本物のお嬢様みたい」

「本物ですわよ?」

千秋は冗談めかしつつ、そっと私の肩に触れた。

先輩たちは手を叩き、嬉しそうに去っていく。

「じゃあ、行きましょ。文化祭デートに」

「で、デ、デデ……デート……ですわね……!?」
千秋は一人で爆発していた。

――そしてダーツ。

「憂さん、お上手……っ」

私がダーツを放つと、見事にブルに命中した。

「千秋もできるわよ?」

「む、無理無理ですわ――きゃっ」

私が背後から千秋の腕を包み込む。手元に体温が伝わり、自然に力が抜ける。

「力抜いて。手首だけ……そう」

「~~~~っ!!!」

千秋の投げたダーツも、ぎりぎりだが的の真ん中に刺さる。

「ほら、できた」

「でっ…でも今のは…雪乃さんが誘導して…」

振り返ると、二人の顔がほんの数センチしか離れていない。
息が混じる距離だが、自然に少し距離を取ることで、心は確かに繋がっていた。
私はそっと千秋の袖を握る。

「落ち着かない?」

「……こんな迫力、初めてだから」

千秋は手を握り返す。掴むのではなく――繋ぐように。

「わたくしがいますわ」

「……ありがとう」

離れたくないという気持ちが、二人の間に静かに流れた。

――そして、デス・ドーム。

会場の歓声が耳を震わせ、赤い照明が円形の舞台を照らす。
巨大な金属の円球――“デス・ドーム”の中、ライダーたちが疾走していた。

私は千秋の袖をそっと握る。外の爆音が二人を包み込み、心臓の鼓動まで聞こえるようだ。

「落ち着かない?」

「……こんな迫力、初めてだから」

千秋は手を握り返す。掴むのではなく――繋ぐ。

三台のバイクが猛スピードで交錯し、壁面に沿って駆け抜けるたび、砂埃が舞い、光が反射して眩しい。
私は千秋の手をそっと引き、距離を保ちながらその迫力を見守る。

「ひゃっ……!」

バイクが壁を蹴るようにして宙を駆け抜け、火花が飛ぶ。
千秋の息が止まる。だが私の手が温かく手首を包み、安心感が全身に広がる。

「ねぇ……千秋、怖くない?」

「う、うん……雪乃さんが……いるから」

三人目のライダーが頂点を駆け抜け、火花が夜空のように散る。
歓声が揺れる中、二人は息を合わせて手を繋ぎ、立ち続ける。

轟音、金属の擦れる音、風の巻き起こす音――すべてが二人を包み込み、離れたくない気持ちだけが確かに残った。

私は千秋の肩に寄り、顔を近づける。
手のひらに伝わる温もりと鼓動が、円球の中でさらに強く感じられた。

「離れないで……」

「うん、離れない……」

轟音が鳴り止まない中でも、二人だけの世界がそこにある。
バイクが一周するたび火花が舞い散り、手と手の繋がりが確かめられる――
円球のサーカスの中心で、雪乃と千秋の距離は甘く、しかし確実に縮まっていった。
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