沈黙のういザード 

豚さん

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21話 音の先へ――私たちの青春

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ライブの喧騒がまだ耳に残る中、
私は千秋と控室の外でゆっくりと深呼吸をした。

「……お姉様」

「何?」

私の声は低く、少し擦れた色気を帯びている。
そのくせ、どこか古臭い時代の不良娘が顔を出すような、余裕のある強がり――そんな口調だ。

千秋は胸元を押さえ、燃え残る鼓動を言葉に変える。

「その……練習できる場所が必要ですわね。
 このままでは、前に進めませんもの」

「……そうね。集中できる場所が欲しいなら、貸してくれる人に頼むしかないわ」

私は肩をすくめ、少し顎を上げて視線を巡らせる。
気取った言い方に聞こえるかもしれないけれど、私はいつでも自分に正直だ。

そのとき、秋香が少し照れくさそうにスマートフォンを手にして、私たちに視線を向ける。
メールを通じて、怪我で休んでいるピアノ担当の同級生からの確認を代弁してくれるのだ。
彼女は無口で引っ込み思案な子で、直接伝えることはできない。
だから秋香が私たちに言葉を届けてくれる。

「憂さん、千秋さん。ピアノ担当の小鈴さんから、ですわ……
 『ありがとうございます。すばらしい曲でした。いづれお礼を致します』――ですって」

少しはにかむように、秋香は優しく微笑む。

私と千秋は、互いに目を合わせて小さく頷く。
胸の奥がじんわりと温かくなる。

片付けを終えた結衣がタオルを首にかけ、私たちを見ている。

私は肩をすくめ、少し顎を上げて結衣に目を向けた。

「結衣さん……お願いがあるの」

千秋が少し横で緊張したように息を飲む。
私の声は落ち着いているけれど、どこか大人びた色気を帯び、強がる余裕も感じさせる。

結衣は少し驚いた表情で首を傾げる。
「ん? 君がお願いとは珍しいじゃない。どうしたの?」

私は視線を結衣から逸らさずに続ける。

「文化祭が終わるまで、音楽室を私たちに貸してほしいの。
 練習には、どうしても必要なの」

結衣はしばらく黙って私を見つめ、やがて口元に微笑を浮かべた。
「……本気だね」

軽く指を鳴らし、先輩らしい余裕を見せる。

「だったら、ライブのお礼として、君たちに音楽室を全部委ねるよ。
 鍵も好きに使って」

「結衣さん……!」

千秋が少し驚きながら声を上げる。

「ありがとう!!」

私が落ち着いた声で返す。

「貸しとかじゃない。あのステージ、僕まで震えたんだ。
 だから……もっと聴かせてほしい」

「ええと、その前に……白凰の制服だけは返してね!」

 結衣が少し照れくさそうに付け加える。

「せっかく貸してあげるんだから、生徒会長として、ちゃんとルールは守ってほしい」

千秋の頬が真っ赤になり、思わず小さく俯く。

「っ……そ、そんなことするわけ、ありませんわっ!」

その隣で、秋香は少し頬を赤らめ、視線をそらしながら小さく声を出した。

「そ、そういう関係が、白凰の生徒には……あるのよね、フフッ……」

私は軽く眉をひそめ、口元だけでため息をつく。

「まったく……するわけないわよ、千秋」

千秋はさらに赤くなり、しょんぼりしながら小さく頷く。

「……はい、もちろんですわ……」

私と千秋は制服を畳み、結衣に手渡す。

結衣は制服を受け取り、少し微笑みながら背筋を伸ばす。

「ふたりとも、これからが本番だよ。練習も、本気で取り組むこと――そうお願いしておくね」

その声には、先輩らしい凛とした威厳と温かさが混ざっていた。

颯爽と廊下を去る結衣の後ろ姿を見送り、
秋香もふふっと微笑み、そっと肩に手を置く。

「あなたたち、胸を張って進みなさい」

優しい眼差しを残して、秋香も結衣の後ろ姿を追うように静かに廊下を出ていった。

残された私と千秋は、自然と肩を寄せ合い、少しだけ笑みをこぼす。
千秋のしょんぼりした表情と赤く染まる頬、秋香の微笑み、私の軽い呆れ……
この微妙な空気も、文化祭の準備のひとコマとして、胸に残る瞬間だった。

その後、私たちは音楽室へと向かう廊下を歩き始めた。
落ち葉を踏む足音がカサリと響き、冷たい空気が肌を撫でる。

「行くわよ、千秋。私たちだけの――音楽室へ」
「はい、お姉様」

未来の音を紡ぐ場所へ、師弟として、そして“私”として。
この日、この音、この瞬間――
すべてが、私の青春の一ページになるのだ。
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