沈黙のういザード 

豚さん

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25話 迷いごと、音になる

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 音楽室の照明が落ち、
 放課後の静けさが戻ってくる。

「さて、行こうか。千秋」

 雪乃は軽く千秋の手を引いた。

「雪乃さん……
 そろそろ憂さんに戻らなくていいのですの……?」

「いいの。帰るまではこのまま」

 何気なく言うその声が、
 千秋の胸を強く締めつける。

(あと少し……このままで居させて……)

 願いを飲み込み、千秋は従う。

 廊下の薄暗い窓に映るのは、
 憂の姿をした“雪乃”。

「千秋。今日のピアノ、すごくよかった」

「……っ……ありがとうございます……」

「照れるところが可愛いねぇ」
 
雪乃は少しからかうように笑った。

「だから千秋は
 そのまま――憂を好きになればいい」

 唐突な言葉に、千秋の足が止まる。

「だって憂は、千秋が好きなんだよ?」

「そ、それは……知って……おりま……すわ……」

「知ってるなら、ちゃんと応えてあげて」

 雪乃は振り返り、
 千秋の頬にそっと触れる。

「千秋はさ。
 憂と恋していいんだよ。
 ……私がいなくなっても」

「いなくなるだなんて、言わないでください……!」

 涙がにじむのを堪えながら訴える。

「ふふ。泣き虫な千秋も可愛いな」

「可愛いと言われましても……!」

「ほんとだよ。
 今日の千秋、すごく綺麗だった」

 雪乃の言葉が、甘くて、痛い。

「千秋」

 雪乃は真面目な色を帯びた目で続けた。

「私の音は、千秋に託す。
 “ブリザード”を完成させて」

「はい……必ず……!!」

「その迷いごと音にして。
 千秋の恋は、全部、曲に入れていい」

「迷い……?」

「うん。
 千秋が今好きなのは――憂?」

 少し間を置いてから。

「それとも……私?」

 千秋の心臓は破裂しそうだった。

「いいよ。答えが出ないままで。迷ってる千秋が、私は一番好きだから」

 雪乃はそのまま千秋の手を強く握り、
 校門の方へ歩き出す。

 夕暮れの空が、
 吹雪のはじまりのように冷たく霞んでいった。
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