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24話 未完成のブリザード
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雪乃の残した未完成曲。
その後半。
世界にまだ存在しない音。
それを雪乃本人と、
自分が並んで作る――それだけで胸が震えた。
雪乃は机に譜面を置き、
ペン先で空白の小節をそっとなぞる。
「ここから先が……ずっと書けなかった」
「どうして……ですの?」
雪乃は少し寂しげに笑った。
「簡単よ。
“この先の人生”を想像できなかったから」
千秋の喉がぎゅっと締まる。
「でも――あなたと演奏して、変わった。
だから今日なら……書ける気がする」
「雪乃……さん……」
名前を呼ぶだけで胸が痛い。
なのに、どうしようもなく嬉しい。
雪乃は鍵盤へ両手を置き、
迷いなく弾き始めた。
一音――
凍てついた孤独。
二音、三音――
触れた温度が砕ける儚さ。
氷が泣く。
誰かが息を殺して泣いている情景。
千秋は吸い込まれたように聴き入った。
音が一度、深く沈む。
雪乃は指を止め、千秋へ向き直る。
「続き――弾いてみて?」
「わ、わたくしが……?」
「ええ。“あなたの冬”を重ねて」
千秋は雪乃の隣に腰掛ける。
その肩の近さ。呼吸の近さ。
心臓がうるさい。
震える指を鍵盤にそっと落とす。
ぽろ――
ほのあたたかい氷の音。
雪乃の旋律に寄り添い、
ふっと雪を溶かす。
重なる。
世界が二人の音だけになる。
「……すごい、千秋」
「わたくし……
雪乃さんの音と、合わせられて……?」
「ええ。
あなたといると、未来の音が聴こえてくる」
千秋の胸が熱を持った。
雪乃はペンを動かしながら言う。
「この曲の完成は、あなたにしかできない」
「……わたくしに?」
「前半はリナ。
でも後半は――千秋ちゃん、あなたと作りたいの」
胸の奥が溢れ、瞳が揺れる。
「だからこれは宿題。
クライマックスを、あなたの音で埋めて?」
「できる……でしょうか……」
雪乃は、千秋だけに向ける特別な微笑みを浮かべた。
「だってあなた――
今日、わたしに恋をしたのでしょう?」
頬が一気に熱を帯び、呼吸が乱れる。
「恋をするとね、音が変わるのよ。
それが“あなたの後半”」
「雪乃さん……わたくし……本当に……」
口を開いた瞬間、
雪乃は人差し指でそっと唇を制した。
「続きは――曲で教えて?」
「……はい……
必ず……完成させてみせますわ……!」
雪乃は譜面の左上に、ためらいなく記した。
――Blizzard
「千秋ちゃん。
この曲のタイトルは“ブリザード”」
「ブリザード……」
「凍える嵐。
でもその先に、春が待っている吹雪」
「……春……」
「この曲はね、
わたしの凍った時間を、あなたと越える曲」
千秋はそっと指でタイトルをなぞる。
「必ず……吹雪を止めてみせますわ。
あなたの未来のために」
雪乃はうれしそうに目を細めた。
「雪乃のブリザード。
そして千秋のブリザードでもあるの」
二人の前で、
未完成の譜面が震えていた。
音楽室の扉を開けば、夜風が差し込む。
雪乃の髪を揺らし、千秋の鼓動を煽る。
凍てついた過去に、
恋の灯りがそっとともる。
それは――
二人にしか奏でられない、
未完成の恋のはじまりだった。
その後半。
世界にまだ存在しない音。
それを雪乃本人と、
自分が並んで作る――それだけで胸が震えた。
雪乃は机に譜面を置き、
ペン先で空白の小節をそっとなぞる。
「ここから先が……ずっと書けなかった」
「どうして……ですの?」
雪乃は少し寂しげに笑った。
「簡単よ。
“この先の人生”を想像できなかったから」
千秋の喉がぎゅっと締まる。
「でも――あなたと演奏して、変わった。
だから今日なら……書ける気がする」
「雪乃……さん……」
名前を呼ぶだけで胸が痛い。
なのに、どうしようもなく嬉しい。
雪乃は鍵盤へ両手を置き、
迷いなく弾き始めた。
一音――
凍てついた孤独。
二音、三音――
触れた温度が砕ける儚さ。
氷が泣く。
誰かが息を殺して泣いている情景。
千秋は吸い込まれたように聴き入った。
音が一度、深く沈む。
雪乃は指を止め、千秋へ向き直る。
「続き――弾いてみて?」
「わ、わたくしが……?」
「ええ。“あなたの冬”を重ねて」
千秋は雪乃の隣に腰掛ける。
その肩の近さ。呼吸の近さ。
心臓がうるさい。
震える指を鍵盤にそっと落とす。
ぽろ――
ほのあたたかい氷の音。
雪乃の旋律に寄り添い、
ふっと雪を溶かす。
重なる。
世界が二人の音だけになる。
「……すごい、千秋」
「わたくし……
雪乃さんの音と、合わせられて……?」
「ええ。
あなたといると、未来の音が聴こえてくる」
千秋の胸が熱を持った。
雪乃はペンを動かしながら言う。
「この曲の完成は、あなたにしかできない」
「……わたくしに?」
「前半はリナ。
でも後半は――千秋ちゃん、あなたと作りたいの」
胸の奥が溢れ、瞳が揺れる。
「だからこれは宿題。
クライマックスを、あなたの音で埋めて?」
「できる……でしょうか……」
雪乃は、千秋だけに向ける特別な微笑みを浮かべた。
「だってあなた――
今日、わたしに恋をしたのでしょう?」
頬が一気に熱を帯び、呼吸が乱れる。
「恋をするとね、音が変わるのよ。
それが“あなたの後半”」
「雪乃さん……わたくし……本当に……」
口を開いた瞬間、
雪乃は人差し指でそっと唇を制した。
「続きは――曲で教えて?」
「……はい……
必ず……完成させてみせますわ……!」
雪乃は譜面の左上に、ためらいなく記した。
――Blizzard
「千秋ちゃん。
この曲のタイトルは“ブリザード”」
「ブリザード……」
「凍える嵐。
でもその先に、春が待っている吹雪」
「……春……」
「この曲はね、
わたしの凍った時間を、あなたと越える曲」
千秋はそっと指でタイトルをなぞる。
「必ず……吹雪を止めてみせますわ。
あなたの未来のために」
雪乃はうれしそうに目を細めた。
「雪乃のブリザード。
そして千秋のブリザードでもあるの」
二人の前で、
未完成の譜面が震えていた。
音楽室の扉を開けば、夜風が差し込む。
雪乃の髪を揺らし、千秋の鼓動を煽る。
凍てついた過去に、
恋の灯りがそっとともる。
それは――
二人にしか奏でられない、
未完成の恋のはじまりだった。
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