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4巻 1話 昇華のブリザード
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文化祭が終わり――
校舎の空気は一変していた。
机に向かう音だけが響く教室。
曇りガラスの向こうでは、冬の空が低く垂れこめている。
憂は教科書に視線を落としながら、小さく伸びをした。
推薦入試を控えた彼女の席には、数学と英語と国語の参考書がきれいに積まれている。
担任曰く、
「君なら白凰も余裕だ」
「東野高校の特進も十分狙えるぞ」
そう言われているのが、少し誇らしくて。
でも――少しだけ、不安でもあった。
「……憂さん」
不意に呼ばれ、顔を上げると――
隣の席で、千秋がペンを止めてこちらを見ていた。
「なに? 千秋」
「東野高校の英語、難しいですわね……リスニング、つい構えてしまって」
「千秋なら絶対平気だよ! 一緒に頑張ろ? ほら、ここ……この問題」
身を寄せて、ひとつ問題を解く。
ほんのすこし肩が触れる。
それだけで、千秋のペンの先が、ピタリと止まった。
(……この感覚。
お姉様と触れたときと、似てる)
心臓が、わずかに跳ねる。
胸奥に潜んでいた「記憶の温度」が
ふっと呼び覚まされる。
雪乃――
あの人が憑依していた憂を、
“恋”に落ちるほど愛した千秋。
そしていま、憂本人が目の前で微笑んでいる。
「……千秋? 顔、赤いよ?」
「あ……い、いえ!ちょっと、教室が乾燥しているだけですわ!」
(嘘ですわ……わたくしは今……憂さんに、動揺している)
千秋自身も戸惑っていた。
“雪乃への想い”と
“憂へ灯り始めた新しい想い”が、
まだ名前も形も決まらないまま、胸で衝突し続けている。
「そうだ、千秋も白凰受けるんだよね?」
「ええ。受験会場で泣いてしまったら葉月さんに笑われそうですし」
「泣くほどのこと、あるかなぁ……?」
憂が小首をかしげる。
「もちろん、白凰は滑り止めですわ」
「……憂さんと一緒に、東野高校へ行きたいですから」
憂の胸が、どきんと鳴った。
その一言が、胸の奥の不安をすっと溶かす。
千秋は、勇気を振り絞るように言葉を継ぐ。
「憂さんは、東野高校で何をしたいですの?」
「え? えっと……いっぱい勉強して、
音楽も歌も続けて……それで――」
視線が重なる。
息が触れ合う距離。
「千秋と一緒にいたいって、思ってる」
こぼれ落ちるように自然な声音だった。
千秋の手元からペンが、ころんと転がる。
「……憂さん……」
「だって、千秋と一緒だと……わたし、強くなれる気がするから」
(お姉様でも、葉月さんでもなく……“わたくし”を選んでくれるの……?)
胸がいっぱいになる。
呼吸が浅くなる。
たまらず視線を落とすが、耳まで熱いのが隠せない。
「……ありがとう、憂さん。わたくしも……あなたとなら、未来が怖くありませんわ」
自習室の静寂に、二人だけの心音が確かに響いていた。
この冬、二人の“未来”が動き始める。
校舎の空気は一変していた。
机に向かう音だけが響く教室。
曇りガラスの向こうでは、冬の空が低く垂れこめている。
憂は教科書に視線を落としながら、小さく伸びをした。
推薦入試を控えた彼女の席には、数学と英語と国語の参考書がきれいに積まれている。
担任曰く、
「君なら白凰も余裕だ」
「東野高校の特進も十分狙えるぞ」
そう言われているのが、少し誇らしくて。
でも――少しだけ、不安でもあった。
「……憂さん」
不意に呼ばれ、顔を上げると――
隣の席で、千秋がペンを止めてこちらを見ていた。
「なに? 千秋」
「東野高校の英語、難しいですわね……リスニング、つい構えてしまって」
「千秋なら絶対平気だよ! 一緒に頑張ろ? ほら、ここ……この問題」
身を寄せて、ひとつ問題を解く。
ほんのすこし肩が触れる。
それだけで、千秋のペンの先が、ピタリと止まった。
(……この感覚。
お姉様と触れたときと、似てる)
心臓が、わずかに跳ねる。
胸奥に潜んでいた「記憶の温度」が
ふっと呼び覚まされる。
雪乃――
あの人が憑依していた憂を、
“恋”に落ちるほど愛した千秋。
そしていま、憂本人が目の前で微笑んでいる。
「……千秋? 顔、赤いよ?」
「あ……い、いえ!ちょっと、教室が乾燥しているだけですわ!」
(嘘ですわ……わたくしは今……憂さんに、動揺している)
千秋自身も戸惑っていた。
“雪乃への想い”と
“憂へ灯り始めた新しい想い”が、
まだ名前も形も決まらないまま、胸で衝突し続けている。
「そうだ、千秋も白凰受けるんだよね?」
「ええ。受験会場で泣いてしまったら葉月さんに笑われそうですし」
「泣くほどのこと、あるかなぁ……?」
憂が小首をかしげる。
「もちろん、白凰は滑り止めですわ」
「……憂さんと一緒に、東野高校へ行きたいですから」
憂の胸が、どきんと鳴った。
その一言が、胸の奥の不安をすっと溶かす。
千秋は、勇気を振り絞るように言葉を継ぐ。
「憂さんは、東野高校で何をしたいですの?」
「え? えっと……いっぱい勉強して、
音楽も歌も続けて……それで――」
視線が重なる。
息が触れ合う距離。
「千秋と一緒にいたいって、思ってる」
こぼれ落ちるように自然な声音だった。
千秋の手元からペンが、ころんと転がる。
「……憂さん……」
「だって、千秋と一緒だと……わたし、強くなれる気がするから」
(お姉様でも、葉月さんでもなく……“わたくし”を選んでくれるの……?)
胸がいっぱいになる。
呼吸が浅くなる。
たまらず視線を落とすが、耳まで熱いのが隠せない。
「……ありがとう、憂さん。わたくしも……あなたとなら、未来が怖くありませんわ」
自習室の静寂に、二人だけの心音が確かに響いていた。
この冬、二人の“未来”が動き始める。
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