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11話 鎮魂歌
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試験会場となるのは、
街の中心にそびえる高級ホテルだった。
吹き抜けのエントランスには
巨大なシャンデリアが煌めき、
赤い絨毯が奥へと伸びている。試験会場となるのは、
街の中心にそびえる高級ホテルだった。
吹き抜けのエントランスには
巨大なシャンデリアが煌めき、
赤い絨毯が奥へと伸びている。
磨かれたガラス越しに、
冬の朝日が反射して眩しいほどだった。
千秋は入口の前で立ち止まり、
コートのポケットにそっと手を入れる。
(いよいよ……ですわね)
真っ先に思い浮かんだのは――
クリスマスの夜の記憶。
スマホの待ち受け画面には、
クリスマスの夜に撮った一枚が映っている。
左端で肩を寄せ合っているのは、
父は白いひげをつけた王道サンタ姿だが――
母はというと、
若者向けのサンタ衣装を着こなしていた。
真紅のミニスカートに、
白いファーがふわりと揺れるブーツ。
肩まで開いたケープが似合いすぎていて、
とても「母親」とは思えないほど可愛らしい。
当の本人は得意げな笑みを浮かべ、
父の肘に軽く手を添えてポーズを取っている。
右端では、葉月が――
ふわふわの角がついたカチューシャを頭に乗せ、
丸い赤鼻までついた
全力トナカイコスでピースサイン。
茶色のモコモコ衣装がやたら似合っていて、
どう見ても寒空の下で暴走する系トナカイだった。
それでも楽しそうに笑っている姿が、
千秋の胸を温かくした。
そして写真の真ん中。
純白のドレスを纏う千秋自身の隣で――
眩しいほど真っ直ぐな眼差し。
白銀のマントが肩で揺れ、
胸元には騎士紋章の飾りが光る。
堂々とした立ち姿は、
まるで絵本から抜け出した王国の護衛騎士。
少年のように凛々しく、
すらりとした体躯に白い手袋がよく映えている。
その騎士――憂が、
千秋の肩にそっと手を添え、
誇らしげに微笑んでいた。
どんな危険も守ってくれそうな、
頼もしさと眩しさが溢れている。
胸がぎゅっと締めつけられる。
あの夜の光と音が、
この一枚に凝縮されていた。
千秋は画面をそっと閉じ、
スマホを胸元へ押し当てた。
ホールのライトにも負けない
眩しい笑顔で、千秋の肩を抱いている。
(あの夜は……まるで夢のようでしたわね)
雪乃の演奏。
自分との連弾。
その奥に、
ずっと寄り添っていた“彼女”の音。
(雪乃さん……)
雪乃が最後に残した音は、
千秋の胸に今も暖かく灯っている。
(見守ってくださいませ――
わたくしが、ちゃんと未来へ進めるように)
小さく深呼吸をした千秋の横で、
静かに控えていたメイド長・石田が声を掛ける。
「千秋お嬢様。お時間でございます」
「……はい。参りましょう」
父も母も仕事のため来られない。
けれど石田はずっと寄り添ってくれている。
そのだけで十分だと思えた。
豪奢な壁には絵画が飾られ、
暖かな空気が満ちている。
他の受験者たちは
不安と期待の入り混じった表情で譜面を抱えていた。
千秋は静かに椅子へ座り、
画面を伏せたスマホをそっと取り出した。
「……石田さん、これを預かっていてくださる?」
声を潜めて差し出すと、
石田は無言のまま恭しく両手で受け取った。
「お任せください、お嬢様」
スマホが見えない場所へ移された瞬間、
千秋の胸から一つ迷いが消えていく。
背中を伸ばし、目を閉じる。
白い指先に――
雪乃の体温が重なる錯覚。
その先に――
憂の笑顔が、優しく灯る。
(お二人の音は、未来へ続いていますわ)
「Chizuru Rokujizo様、
どうぞこちらへ」
名前を呼ばれ、
千秋は立ち上がった。
ホテル内の小ホール。
深い黒を湛えたグランドピアノが
静かに彼女を待っている。
ピアノの前に座り、
千秋は軽く拳を握り締めた。
胸の奥が、
ひどく熱いのに、
どこか凍えるように痛む。
(わたくしは今日、
あなたの願いと一緒に立っていますわ)
両手を静かに鍵盤の上へ。
(悲しみも、後悔も、
届かなかった思いも……
全部、音に変えて)
密かに瞼を伏せ、
そっと語りかける。
(これは――
あなたを未来へ送る
わたくしの鎮魂歌。
どうか、
見守っていてくださいませ……雪乃さん)
小さく息を吸い、
千秋は――弾き始めた。
街の中心にそびえる高級ホテルだった。
吹き抜けのエントランスには
巨大なシャンデリアが煌めき、
赤い絨毯が奥へと伸びている。試験会場となるのは、
街の中心にそびえる高級ホテルだった。
吹き抜けのエントランスには
巨大なシャンデリアが煌めき、
赤い絨毯が奥へと伸びている。
磨かれたガラス越しに、
冬の朝日が反射して眩しいほどだった。
千秋は入口の前で立ち止まり、
コートのポケットにそっと手を入れる。
(いよいよ……ですわね)
真っ先に思い浮かんだのは――
クリスマスの夜の記憶。
スマホの待ち受け画面には、
クリスマスの夜に撮った一枚が映っている。
左端で肩を寄せ合っているのは、
父は白いひげをつけた王道サンタ姿だが――
母はというと、
若者向けのサンタ衣装を着こなしていた。
真紅のミニスカートに、
白いファーがふわりと揺れるブーツ。
肩まで開いたケープが似合いすぎていて、
とても「母親」とは思えないほど可愛らしい。
当の本人は得意げな笑みを浮かべ、
父の肘に軽く手を添えてポーズを取っている。
右端では、葉月が――
ふわふわの角がついたカチューシャを頭に乗せ、
丸い赤鼻までついた
全力トナカイコスでピースサイン。
茶色のモコモコ衣装がやたら似合っていて、
どう見ても寒空の下で暴走する系トナカイだった。
それでも楽しそうに笑っている姿が、
千秋の胸を温かくした。
そして写真の真ん中。
純白のドレスを纏う千秋自身の隣で――
眩しいほど真っ直ぐな眼差し。
白銀のマントが肩で揺れ、
胸元には騎士紋章の飾りが光る。
堂々とした立ち姿は、
まるで絵本から抜け出した王国の護衛騎士。
少年のように凛々しく、
すらりとした体躯に白い手袋がよく映えている。
その騎士――憂が、
千秋の肩にそっと手を添え、
誇らしげに微笑んでいた。
どんな危険も守ってくれそうな、
頼もしさと眩しさが溢れている。
胸がぎゅっと締めつけられる。
あの夜の光と音が、
この一枚に凝縮されていた。
千秋は画面をそっと閉じ、
スマホを胸元へ押し当てた。
ホールのライトにも負けない
眩しい笑顔で、千秋の肩を抱いている。
(あの夜は……まるで夢のようでしたわね)
雪乃の演奏。
自分との連弾。
その奥に、
ずっと寄り添っていた“彼女”の音。
(雪乃さん……)
雪乃が最後に残した音は、
千秋の胸に今も暖かく灯っている。
(見守ってくださいませ――
わたくしが、ちゃんと未来へ進めるように)
小さく深呼吸をした千秋の横で、
静かに控えていたメイド長・石田が声を掛ける。
「千秋お嬢様。お時間でございます」
「……はい。参りましょう」
父も母も仕事のため来られない。
けれど石田はずっと寄り添ってくれている。
そのだけで十分だと思えた。
豪奢な壁には絵画が飾られ、
暖かな空気が満ちている。
他の受験者たちは
不安と期待の入り混じった表情で譜面を抱えていた。
千秋は静かに椅子へ座り、
画面を伏せたスマホをそっと取り出した。
「……石田さん、これを預かっていてくださる?」
声を潜めて差し出すと、
石田は無言のまま恭しく両手で受け取った。
「お任せください、お嬢様」
スマホが見えない場所へ移された瞬間、
千秋の胸から一つ迷いが消えていく。
背中を伸ばし、目を閉じる。
白い指先に――
雪乃の体温が重なる錯覚。
その先に――
憂の笑顔が、優しく灯る。
(お二人の音は、未来へ続いていますわ)
「Chizuru Rokujizo様、
どうぞこちらへ」
名前を呼ばれ、
千秋は立ち上がった。
ホテル内の小ホール。
深い黒を湛えたグランドピアノが
静かに彼女を待っている。
ピアノの前に座り、
千秋は軽く拳を握り締めた。
胸の奥が、
ひどく熱いのに、
どこか凍えるように痛む。
(わたくしは今日、
あなたの願いと一緒に立っていますわ)
両手を静かに鍵盤の上へ。
(悲しみも、後悔も、
届かなかった思いも……
全部、音に変えて)
密かに瞼を伏せ、
そっと語りかける。
(これは――
あなたを未来へ送る
わたくしの鎮魂歌。
どうか、
見守っていてくださいませ……雪乃さん)
小さく息を吸い、
千秋は――弾き始めた。
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