沈黙のういザード 

豚さん

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26章 未来へ繋ぐ贈り物

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  関西国際空港・国際線ターミナル。
 巨大な天井とガラスの壁が光を反射し、まるでひとつの街のように広い。

「どこ……? 千秋、どこ……!」

 憂はカバンを胸に抱えたまま、人の波をかき分けて走った。
 アナウンスの声、荷物が転がる音、外国語が混ざるざわめき――
 すべてが憂の焦りをさらに加速させる。

(広すぎる……!本当に会えるの……?間に合うよね……?)

 息が白くなり、額に汗が滲む。
 スマホを握りしめて、何度も画面を確認した。

 その時――
 新着メッセージ:石田

『そろそろ、こちらへ向かわれる頃かと存じます。どうぞご安心を。予定どおり、千秋様も到着なさいました』

(よかった……! まだ間に合う……!)

 憂は勢いよく駆け出した。

◆ 

 一方その頃――
 国際線の奥、人気の少ない静かなエリア。

 千秋は、不思議そうに周囲を見回していた。

「……石田さん。ここが、わたくしにお見せしたかった場所、なのですの?」

 そこは、空港のちょっとした休憩スペース。
 大きな窓から飛行機がよく見えるけれど、特別な設備があるわけではない。

「はい。千秋様にとって、特別な場所となるはずでございます」

「特別……?わたくし、この場所には初めて来ましたけれど……」

 その時だった。

 遠くから、バタバタッ、ドタドタッと全力疾走の足音が響いてくる。

「はぁっ……はぁっ……っ!」

 石田は微笑み、視線を向けた。

「――おいでなさいましたよ」

 千秋が振り向く。

 そこに――
 汗だくで、顔を真っ赤にして走ってくる憂の姿。

 肩で息をしながら、カバンを握りしめ、必死に手を伸ばしてくる。

「……千秋っ……!!」

 千秋の世界が、一瞬で音を失った。

 唇が震える。
 まばたきも忘れたように、ただ呆然と立ち尽くす。

「……どうして……憂さん……どうして……ここに……?」

 憂は息を切らし、胸の前でぎゅっとカバンを抱えた。

「……会いたかったから……っどうしても……渡したいものがあって……!」

 石田は静かに頭を下げた。

「千秋様。――おめでとうございます。誕生日プレゼントのサプライズでございます」

 千秋は息をのむ。
 涙が、目の奥でゆっくり波紋を広げていく。

「誕生日……の……?」

「はい。わたくしが空港へ早めにお連れしたのは、そのためでございます。どうか――お時間の許す限り、お二人でお過ごしくださいませ。では、わたくしは失礼いたします。よいひとときを」

 気配を消すように歩き去る石田。

 静寂が残された。

 向き合うのは――

 ドイツへ旅立つ少女。
 そして、走って会いに来た少女。

「……憂さん……」

「……千秋……」

 二人の距離は、あと三歩分。
 けれど、胸の距離はとっくに触れていた。

 千秋の誕生日の朝――
 世界でいちばん大切な人が、サプライズを抱えて駆けつけてきた。

 千秋は震える手で、唇を押さえた。

 憂の胸の中の小箱が、そっと音を立てた。
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