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3話 すれ違い
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人気のない参道へ足を踏み入れた途端、
人の声が遠ざかった。
粉砂糖のような雪が、
そっと二人の肩に落ちては消える。
「……憂さん」
千秋が立ち止まり、
静かに告げた。
「ご報告がございますの」
憂の胸が、無意識に強く脈打つ。
さっきまでの小さな違和感が、
輪郭を持ち始めて迫ってくる。
「わたくし――
ドイツへ留学いたします」
雪が舞う音さえ、止まった気がした。
「……え? ドイツって……
なんで……?」
「クリスマスの日、“わがまま”として
両親にお願いしましたの」
「あの日……?」
「ええ。
雪乃さんが光になって消えた夜に、
決めたことですわ」
千秋の瞳は揺れない。
その真っすぐさが、逆に憂の胸を締めつける。
「中学を休学し、
高校受験もドイツで済ませます」
「……は……? ちょっと待って……
そんな、急に……勝手に……!」
憂は堪えきれず、千秋の袖を掴んだ。
「どうして!?
日本にいてよ!
わたしと一緒に……!」
「ここに留まっていては、
“未来”に辿り着けませんの」
「雪姉の……ため?」
千秋はためらわず答えた。
「ええ。
すべては雪乃さんのためですわ」
「違う!!」
憂の声が、冬空に鋭く響いた。
「雪姉は“幸せになって”って言ったじゃん!!
未来へ行ってって言ったじゃん!!
どうして千秋までいなくなるの!?
そんな未来、雪姉が望むわけない!!」
「だからこそ行くんですの!!」
千秋の声も上ずる。
「雪乃さんはわたくしの音を託してくださいましたの!
ならば――その音を磨くべき場所へ行くしかないでしょう!!」
「そんなの言い訳だよ!」
憂の声が震えた。
「雪姉の“ため”にって言いながら、
結局は……千秋がひとりでどっか行こうとしてるだけじゃん!!」
「ひとりで行くのは怖いに決まってますわ!!」
千秋の感情が爆ぜる。
「でも!!
あなたは雪乃さんを失っても前に進んでいる!!
わたくしも……止まってはいられませんの!!」
「前に進むって……
全部捨てることなの!?」
憂の目に涙が溜まる。
「雪姉も……わたしも……
千秋の未来にはいらないんだ……?」
「憂さんは……そんなつもりで言ってませんわ」
千秋は傷ついたように声を落とす。
「思い出に縛られていたら、
わたくしたちは――もう二度と……」
「思い出を捨てるなんて……
雪姉が悲しむよ……!!」
「捨ててなどいません!!」
千秋も涙をにじませ、声を張った。
「でも!!
思い出“だけ”で生きるなんて……
わたくしには耐えられませんの!!」
二人の声が風に裂け、
木々がざわめくように震える。
憂の視界が涙で滲んだ。
「……千秋ってさ……
大事なこと、いつもひとりで決めるよね……」
声がかすれる。
「ずっと一緒にいたのに……
なんで……わたしには言ってくれないの……?」
「憂さんを……泣かせたくなかったんですの」
「もう泣いてるよ……」
憂は袖を離した。
「千秋まで……
わたしを置いていくの……?」
千秋は一歩近づこうとして——
その足を止めた。
触れれば、迷ってしまう。
抱きしめれば、留学を諦めてしまう。
自分の未来が壊れてしまう。
「……では、失礼しますわ」
千秋は背を向けた。
その背中はもう、
日本ではなく、
遠い国の方角を向いていた。
憂は立ち尽くす。
(どうして……
みんなわたしの隣からいなくなるの……?)
涙が頬を伝い、
粉雪と混ざって静かに落ちた。
冬の風が、
二人の未来を裂くように吹きぬけた。
――初めて、
二人の歩む道が違う方向を向いた。
人の声が遠ざかった。
粉砂糖のような雪が、
そっと二人の肩に落ちては消える。
「……憂さん」
千秋が立ち止まり、
静かに告げた。
「ご報告がございますの」
憂の胸が、無意識に強く脈打つ。
さっきまでの小さな違和感が、
輪郭を持ち始めて迫ってくる。
「わたくし――
ドイツへ留学いたします」
雪が舞う音さえ、止まった気がした。
「……え? ドイツって……
なんで……?」
「クリスマスの日、“わがまま”として
両親にお願いしましたの」
「あの日……?」
「ええ。
雪乃さんが光になって消えた夜に、
決めたことですわ」
千秋の瞳は揺れない。
その真っすぐさが、逆に憂の胸を締めつける。
「中学を休学し、
高校受験もドイツで済ませます」
「……は……? ちょっと待って……
そんな、急に……勝手に……!」
憂は堪えきれず、千秋の袖を掴んだ。
「どうして!?
日本にいてよ!
わたしと一緒に……!」
「ここに留まっていては、
“未来”に辿り着けませんの」
「雪姉の……ため?」
千秋はためらわず答えた。
「ええ。
すべては雪乃さんのためですわ」
「違う!!」
憂の声が、冬空に鋭く響いた。
「雪姉は“幸せになって”って言ったじゃん!!
未来へ行ってって言ったじゃん!!
どうして千秋までいなくなるの!?
そんな未来、雪姉が望むわけない!!」
「だからこそ行くんですの!!」
千秋の声も上ずる。
「雪乃さんはわたくしの音を託してくださいましたの!
ならば――その音を磨くべき場所へ行くしかないでしょう!!」
「そんなの言い訳だよ!」
憂の声が震えた。
「雪姉の“ため”にって言いながら、
結局は……千秋がひとりでどっか行こうとしてるだけじゃん!!」
「ひとりで行くのは怖いに決まってますわ!!」
千秋の感情が爆ぜる。
「でも!!
あなたは雪乃さんを失っても前に進んでいる!!
わたくしも……止まってはいられませんの!!」
「前に進むって……
全部捨てることなの!?」
憂の目に涙が溜まる。
「雪姉も……わたしも……
千秋の未来にはいらないんだ……?」
「憂さんは……そんなつもりで言ってませんわ」
千秋は傷ついたように声を落とす。
「思い出に縛られていたら、
わたくしたちは――もう二度と……」
「思い出を捨てるなんて……
雪姉が悲しむよ……!!」
「捨ててなどいません!!」
千秋も涙をにじませ、声を張った。
「でも!!
思い出“だけ”で生きるなんて……
わたくしには耐えられませんの!!」
二人の声が風に裂け、
木々がざわめくように震える。
憂の視界が涙で滲んだ。
「……千秋ってさ……
大事なこと、いつもひとりで決めるよね……」
声がかすれる。
「ずっと一緒にいたのに……
なんで……わたしには言ってくれないの……?」
「憂さんを……泣かせたくなかったんですの」
「もう泣いてるよ……」
憂は袖を離した。
「千秋まで……
わたしを置いていくの……?」
千秋は一歩近づこうとして——
その足を止めた。
触れれば、迷ってしまう。
抱きしめれば、留学を諦めてしまう。
自分の未来が壊れてしまう。
「……では、失礼しますわ」
千秋は背を向けた。
その背中はもう、
日本ではなく、
遠い国の方角を向いていた。
憂は立ち尽くす。
(どうして……
みんなわたしの隣からいなくなるの……?)
涙が頬を伝い、
粉雪と混ざって静かに落ちた。
冬の風が、
二人の未来を裂くように吹きぬけた。
――初めて、
二人の歩む道が違う方向を向いた。
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