沈黙のういザード 

豚さん

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15話 姉後肌

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スタジオの扉が開き、生徒たちが一人、また一人と出ていく。

「お疲れさまでした……!」

「ありがとうございました!」

 深く頭を下げながら、皆が退出していった。

 最後の一人が扉を閉めると、スタジオに残ったのは、急に静かになった空気と――理恵だけ。

「……はぁ」

 理恵は大きく息を吐き、タオルで首元の汗を拭う。

「今日の仕事、終わり。やっと静かになったわ」

 その瞬間。

「お久しぶり、理恵姐」

 結衣が、にこっと笑って声をかけた。

 理恵は一瞬だけ目を瞬かせ、それから、はっきりと表情を緩める。

「……おぅ」

 歩み寄り、結衣の頭を――

「ちょ、わっ!」

 くしゃくしゃ、と遠慮なく撫で回した。

 理恵は少し背伸びして、結衣の耳元に顔を寄せながら、低く、でもからかうような声で続けた。

「もうちょっと女らしくなれよ、結衣。髪伸ばせば? スカート履いてみろよ。
 いつまでもボーイッシュで突っ張ってても、結局、秋香みたいな子に取られちゃうぞ?」

「い、痛い痛い!」

 結衣は笑いながらも抵抗する。

「相変わらず容赦ないなあ」

「当たり前。可愛い後輩は雑に扱うもんよ」

 そんな二人のやり取りを見て、小鈴が一歩前に出る。

「ごきげんよう。お久しぶりですわ、理恵さん」

 背筋を正した、完璧なお嬢様の挨拶。

 理恵はタオルを肩にかけ直し、鼻で笑った。

 ちらりと小鈴を見る。

「あいかわらず兄弟と一緒で、むっつり」

「……それは余計ですわ」

「久しぶり。元気そうでなにより」

 ぶっきらぼうだが、拒絶はない。

 その空気に、憂は一歩遅れて前に出た。

 視線が合う。

 さっきまでの鬼の指導者が、こちらをじっと見ている。

 憂は少しだけ怯えたように、それでも、しっかりと背筋を伸ばした。

「……は、はじめまして」

 一呼吸。

「御陵《みささぎ》憂です。葉月姉から……少しだけ、お話は聞いています」

 丁寧に、深く頭を下げる。

 理恵は、しばらく黙って憂を見ていた。

「……ふーん」

 短い声。

「葉月の妹、ね」

 視線が、少しだけ鋭くなる。

「……歌は、好き?」

 突然の質問。

 憂は、少し戸惑いながらも答えた。

「……す、好き、です」

 自信なさげに、けれど嘘はない。

 理恵は、それ以上突っ込まない。

「そう」

 それだけ言って、踵を返す。

「じゃあ、着替えて」

「え?」

「このまま立ち話する気?」

 理恵は肩越しに言った。

「更衣室、使っていいよ」

 小鈴が、すぐにフォローする。

「ご安心ください、憂さん。3人分のジャージとTシャツは――事前に用意してありますわ」

 すっと、バッグを示す。

「え……?」

「抜かりなく、ですの」

 憂は、状況についていけないまま、それでも頷いた。

「……わかりました」

 更衣室へ向かう憂の背中を見ながら、理恵は小さく息を吐く。

「……葉月」

 誰にも聞こえない声で。

「面白い妹、連れてきたじゃない」

 スタジオの空気が、次の段階へと、静かに切り替わっていった。
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