13 / 17
3話
甲斐のセカイ
しおりを挟むバイクをしばらく走らせ着いたのは、先程見た護送車の事故現場だった。もうすっかり何事も無かったかの様に、車や人が行き交っていた。
路肩にバイクを停める甲斐。ヘルメットを外し言う強羅。
「何か見えるか?」
「あー···、人工物だらけだからな~···お!たんぽぽが咲いてる!」
ヘルメットを外しながら子供の様に無邪気にそう言うと、バイクを降りて路肩と道路の間のアスファルトから顔を出す、小さなたんぽぽを覗き込んだ。
その小さなたんぽぽに、何やらうんうんと頷いたり、喋りかけたりしている甲斐。その姿を強羅は複雑な気持ちで見つめていた。
2年前のバイク事故で、1度死んで、病院で生き返った甲斐。それから突然、生き物の心と会話が出来る様になるなんて。病院でパニックになっている甲斐を、偶然仕事で来ていた強羅が助けた事を思い出していた。何か必然を感じる強羅。
そんな事をぼんやり考えていたら、甲斐がこちらに向き直り近づきながら言う。
「事故を見てたらしい。たんぽぽの精霊が怖がってたよ」
甲斐いわく、生き物の心が精霊の形に見えて、言葉として分かるらしい。どんな風に見えているか聞いた事が有るが、説明が下手すぎて分からなかった。
そんな事を思い出しながら強羅が口を開く。
「誰がやったか見てたのか?」
「ああ。髪の長いワンピースを着た女の子が、突然現れてトレーラーの前に立ち塞がって、それを見た運転手がハンドル操作を誤って護送車に向かって行った様だ。女の子はそのまま護送車の中に吸い込まれるみたいに消えたって。」
「そんなに実体化出来るなんて、相当強い怨念の悪霊かもな」
うげーっと言いながら舌を出す甲斐。
悪霊は夜の世界に属している為、強羅には夜にならないと見る事は出来なかった。それとは逆に、甲斐は風の世界(死後の世界)が見えて感じる。甲斐には夜の世界の悪霊は見えない。それを教えてくれたのは強羅だったなと思い出す。甲斐の目には常に、現実と非現実的な光景が入り交じって見えていた。
「で、どうする?どこに行ったかは見てないから分からないって言ってたけど?」
顎に手を当て、困り顔で聞く甲斐。強羅も右手で口を塞いで考えこんでしまった。と、その時、強羅のスマートフォンが鳴った。
「強羅···必殺仕事人の着信音やめろよ···ビビるだろ、恥ずかしいし···」
そんな甲斐の言葉は無視して、電話に出る強羅。
「はい花城さん、今は先程教えて貰った事故現場にいますが?え!?今ですか!?」
驚いた強羅の声に驚く甲斐。久しぶりに聞いた気がする。目を丸くして強羅を凝視する甲斐に気付くが、後ろを向いて話し続ける。
「分かりました。すぐ行きます!」
そう言って電話を切る強羅。すかさず甲斐が声を上げる。
「どうしたんだよ?珍しくデカい声出して···」
「今、また例の変死事件があったんだよ!」
「え!?今!?」
強羅と同じリアクションをする甲斐を一瞥して、急いでバイクに乗る。それと同時にバイクに乗り、行き先を聞き、走らせる甲斐。
しばらくビル街を走り、そこを抜けると住宅街に入って来た。バイクの後ろで辺りを見回し、スマートフォンの地図を見る強羅。
「ここら辺だと思うんだが、花城さん達が居ないな···」
「いや、木とか草の精霊がビビってるから間違いないんじゃないか?」
バイクから降りる2人。バイクを押す甲斐の前を強羅が歩き出す。裏手にいるかもしれない、と言いながら目の前の角を左に曲がる。と、強羅が右腕で鼻を隠し、後ろに居る甲斐の方へともたれかかった。
「強羅!?大丈夫か!?」
眉間に皺を寄せて顔を顰める強羅を心配そうに支える甲斐。その視線の先には髪の長いワンピースを着た女の子が居た。左側の道路から右側の住宅の影へ走り去ってしまった為、見えなくなる。
「甲斐!見えたか?」
「ああ」
「俺もこれだけ匂えば帯が見える。追うぞ!」
そう言い終わる前にバイクにまたがり、女の子が見えなくなった方へと走り出す。
角を曲がる度に、女の子も角を曲がるので、姿を見失わない様に追いかけるのが大変だった。何度目かの曲がり角で、とうとう女の子を見失ってしまう。
気付くといつの間にか、辺りは茜色に染まり始めていた。
「逢魔が時か···」
強羅が呟く。バイクを降り、背中合わせに立ち尽くす2人。
「精霊は夜の奴以外眠りにつくから、これからオレは女の子を探せないぞ!?」
「分かってる。だが、匂いがキツ過ぎて帯も分散していて、ハッキリ場所が特定出来ない···」
「だけど、早く祓わないと、また死人が出るぞ···」
その時、左側の家のブロック塀から、女の子が体縦半分めり込んだ状態でこっちを睨んでいた。真隣に居た甲斐は、声にならない悲鳴をあげて後退り、後ろに居る強羅の背中にドンとぶつかった。背中で背中を押された強羅はハッとして、すぐさまそちらを向く。
「目障り···」
そう女の子の声が聞こえた強羅。しかし、甲斐には姿も見えず、声も聞こえなくなっていた。
辺りは日没を迎えていた。
すっかり女の子の姿を捉えることが出来るようになった強羅は、羽織っていたジャケットの内ポケットからお札を2枚取り出し、女の子の両腕目掛けてお経を唱えながら飛ばす。しかし、女の子はすっとブロック塀の中に消えて、お札はその塀に当たり、ハラハラ落ちてしまった。
「くそ!逃げられた!」
目くじらを立てて怒っている強羅。悪霊の匂いも無くなる。それを見ていた甲斐がため息をつく。そして、強羅の肩を叩く。
「どんまい」
肩を叩かれた強羅は、その方へ振り向くと同時に甲斐の人差し指が頬に指さり、見る見る顔が赤くなった。
「な・に・が・どんまいじゃー!!」
そう言いながら、甲斐の首を羽交い締めにする強羅は鬼の形相だ。苦笑いを浮かべながら、強羅の手を何度も叩く。
「ギブ、ギブギブ!」
やっと手を離してくれた強羅は溜息をつき、甲斐の肩に手を掛け項垂れた。
「明日は昼間に見つけよう···」
「そうだな。そしたらオレが捕まえて、お前がゆっくり祓えるもんな」
はははと笑う甲斐を、ジト目で見つめる強羅だった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる