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3話
甲斐のセカイ
しおりを挟むバイクをしばらく走らせ着いたのは、先程見た護送車の事故現場だった。もうすっかり何事も無かったかの様に、車や人が行き交っていた。
路肩にバイクを停める甲斐。ヘルメットを外し言う強羅。
「何か見えるか?」
「あー···、人工物だらけだからな~···お!たんぽぽが咲いてる!」
ヘルメットを外しながら子供の様に無邪気にそう言うと、バイクを降りて路肩と道路の間のアスファルトから顔を出す、小さなたんぽぽを覗き込んだ。
その小さなたんぽぽに、何やらうんうんと頷いたり、喋りかけたりしている甲斐。その姿を強羅は複雑な気持ちで見つめていた。
2年前のバイク事故で、1度死んで、病院で生き返った甲斐。それから突然、生き物の心と会話が出来る様になるなんて。病院でパニックになっている甲斐を、偶然仕事で来ていた強羅が助けた事を思い出していた。何か必然を感じる強羅。
そんな事をぼんやり考えていたら、甲斐がこちらに向き直り近づきながら言う。
「事故を見てたらしい。たんぽぽの精霊が怖がってたよ」
甲斐いわく、生き物の心が精霊の形に見えて、言葉として分かるらしい。どんな風に見えているか聞いた事が有るが、説明が下手すぎて分からなかった。
そんな事を思い出しながら強羅が口を開く。
「誰がやったか見てたのか?」
「ああ。髪の長いワンピースを着た女の子が、突然現れてトレーラーの前に立ち塞がって、それを見た運転手がハンドル操作を誤って護送車に向かって行った様だ。女の子はそのまま護送車の中に吸い込まれるみたいに消えたって。」
「そんなに実体化出来るなんて、相当強い怨念の悪霊かもな」
うげーっと言いながら舌を出す甲斐。
悪霊は夜の世界に属している為、強羅には夜にならないと見る事は出来なかった。それとは逆に、甲斐は風の世界(死後の世界)が見えて感じる。甲斐には夜の世界の悪霊は見えない。それを教えてくれたのは強羅だったなと思い出す。甲斐の目には常に、現実と非現実的な光景が入り交じって見えていた。
「で、どうする?どこに行ったかは見てないから分からないって言ってたけど?」
顎に手を当て、困り顔で聞く甲斐。強羅も右手で口を塞いで考えこんでしまった。と、その時、強羅のスマートフォンが鳴った。
「強羅···必殺仕事人の着信音やめろよ···ビビるだろ、恥ずかしいし···」
そんな甲斐の言葉は無視して、電話に出る強羅。
「はい花城さん、今は先程教えて貰った事故現場にいますが?え!?今ですか!?」
驚いた強羅の声に驚く甲斐。久しぶりに聞いた気がする。目を丸くして強羅を凝視する甲斐に気付くが、後ろを向いて話し続ける。
「分かりました。すぐ行きます!」
そう言って電話を切る強羅。すかさず甲斐が声を上げる。
「どうしたんだよ?珍しくデカい声出して···」
「今、また例の変死事件があったんだよ!」
「え!?今!?」
強羅と同じリアクションをする甲斐を一瞥して、急いでバイクに乗る。それと同時にバイクに乗り、行き先を聞き、走らせる甲斐。
しばらくビル街を走り、そこを抜けると住宅街に入って来た。バイクの後ろで辺りを見回し、スマートフォンの地図を見る強羅。
「ここら辺だと思うんだが、花城さん達が居ないな···」
「いや、木とか草の精霊がビビってるから間違いないんじゃないか?」
バイクから降りる2人。バイクを押す甲斐の前を強羅が歩き出す。裏手にいるかもしれない、と言いながら目の前の角を左に曲がる。と、強羅が右腕で鼻を隠し、後ろに居る甲斐の方へともたれかかった。
「強羅!?大丈夫か!?」
眉間に皺を寄せて顔を顰める強羅を心配そうに支える甲斐。その視線の先には髪の長いワンピースを着た女の子が居た。左側の道路から右側の住宅の影へ走り去ってしまった為、見えなくなる。
「甲斐!見えたか?」
「ああ」
「俺もこれだけ匂えば帯が見える。追うぞ!」
そう言い終わる前にバイクにまたがり、女の子が見えなくなった方へと走り出す。
角を曲がる度に、女の子も角を曲がるので、姿を見失わない様に追いかけるのが大変だった。何度目かの曲がり角で、とうとう女の子を見失ってしまう。
気付くといつの間にか、辺りは茜色に染まり始めていた。
「逢魔が時か···」
強羅が呟く。バイクを降り、背中合わせに立ち尽くす2人。
「精霊は夜の奴以外眠りにつくから、これからオレは女の子を探せないぞ!?」
「分かってる。だが、匂いがキツ過ぎて帯も分散していて、ハッキリ場所が特定出来ない···」
「だけど、早く祓わないと、また死人が出るぞ···」
その時、左側の家のブロック塀から、女の子が体縦半分めり込んだ状態でこっちを睨んでいた。真隣に居た甲斐は、声にならない悲鳴をあげて後退り、後ろに居る強羅の背中にドンとぶつかった。背中で背中を押された強羅はハッとして、すぐさまそちらを向く。
「目障り···」
そう女の子の声が聞こえた強羅。しかし、甲斐には姿も見えず、声も聞こえなくなっていた。
辺りは日没を迎えていた。
すっかり女の子の姿を捉えることが出来るようになった強羅は、羽織っていたジャケットの内ポケットからお札を2枚取り出し、女の子の両腕目掛けてお経を唱えながら飛ばす。しかし、女の子はすっとブロック塀の中に消えて、お札はその塀に当たり、ハラハラ落ちてしまった。
「くそ!逃げられた!」
目くじらを立てて怒っている強羅。悪霊の匂いも無くなる。それを見ていた甲斐がため息をつく。そして、強羅の肩を叩く。
「どんまい」
肩を叩かれた強羅は、その方へ振り向くと同時に甲斐の人差し指が頬に指さり、見る見る顔が赤くなった。
「な・に・が・どんまいじゃー!!」
そう言いながら、甲斐の首を羽交い締めにする強羅は鬼の形相だ。苦笑いを浮かべながら、強羅の手を何度も叩く。
「ギブ、ギブギブ!」
やっと手を離してくれた強羅は溜息をつき、甲斐の肩に手を掛け項垂れた。
「明日は昼間に見つけよう···」
「そうだな。そしたらオレが捕まえて、お前がゆっくり祓えるもんな」
はははと笑う甲斐を、ジト目で見つめる強羅だった。
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