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イギリス式とフランス式
私を天女と崇める男
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私は勉強が好きだった。
女の身だから学校に行けないことを受け入れたが、それでも何にもならないと思いながらも勉強を止める事が出来なかった。
利秋様から助力を頂けたことも、勉強を続けられた幸運の一つであろう。
彼は私の為に家庭教師を雇い、私の為に忙しい最中でも勉強をご自分で教えてくださったのである。
女は学者になることも、軍に行って栄達することも事も出来ないのに。
それが今、この時の為だったのだと、私は天啓を受けたのだ。
戊辰戦争の際には人斬り半次郎に道を開く悪鬼と呼ばれていたと聞く、戦術に優れた勇猛果敢な加藤衛様が、私に漢文を教えて欲しいと頭を下げたのだ。
こんなすごいお方が女に頭を下げただと?
やはり彼は仁のある方だ。
君子だ。
私がなんだってすると衛に答えると、衛は私を抱き締めた。
大きな体に抱きしめられても、私は怖いとは思わなかった。
温かく包まれて、眠気さえも誘う程に安心できる腕の中なのだ。
「衛さま。」
「すこし、こんままで。俺が貴方を抱ける幸せに、今少しだけ浸らせてくれんか?」
わああ!
私を抱き締めるだけで幸せになられるなんて!
この方は私を天女というし、持ち上げすぎでございますわ。
「あの、ええと。では、衛様も私に教えてください。私が世の事で知らないことを。女の身では知り得ようもない事も。」
「女性に知らせなくていい事は、男の俺じゃっちも知りたくないことだよ?」
「また、あなたは。ではフランス式とエゲレス式も知る必要は無い事ですの?兄は少佐の妻なら異人様にこんな挨拶をされると言って、手の甲に口づけてまいりましたもの。ってきゃあ!」
抱き締められていた私は、急に両腕を掴まれて、べりっという音が聞こえるみたいにして衛の身体から離された。
でも、腕を掴む手は離されていない。
彼は私をまじまじと見下ろしている。
「ほかに、他に、 何かされなかったか?いや、 余計んこちゃ言われなかったか?」
「フランス式の挨拶はまた違うと申しました。」
「それか!」
「あと。」
「ほかにも?」
「いえ、あの。ああ、これこそこんな廊下でお伝えできる話ではございません。あの一先ず。」
「ああ、そうじゃっど。 君い漢文を 教せっ、ええと、君に教えてもらわなければいけないものな。俺の部屋にまず 行こ。」
私は今度は肩を抱かれ、私達は寄り添いながら衛の部屋にまで歩いた。
兄に抱きしめられた時に感じた怖いという感情、衛には一つたりとも湧かなかったのは何故だろうと思いながら彼の横顔を見上げた。
夜伽をしていないからと別れる事になったらどうなるの?
私は両腕に抱く本をぎゅっと抱きしめ、それから衛に抱かれる肩の方、右手を少し動かいして彼の胸のあたりをそっと掴んだ。
「どうされた?」
「あ、兄に言ってしまったの。あなたと、あの、本当の夫婦になっていないっていう事を。兄は怒って。ああ、ごめんなさい。でも、私はあなたと別れたくないと思っているの。」
衛の着物を掴む手は衛の左腕によって掴まれ、私の肩を抱く右手も私をぎゅっと抱き締めた。
そして、あの時の兄のようにして、衛の顔が私の顔へと傾いてきた。
私達の唇は一瞬だけど重なった。
私の身体はびくんと飛び上がった。
衛の唇が柔らかかったから?
その感触が体をふわっとさせたから?
「これがエゲレス式。」
また彼の唇が私の唇を塞いだ。
今度は唇を軽く齧られ、その刺激に口が開いたそこに、ああ、そこに!衛の舌が入り込んできたじゃないか!
ほんの一瞬だけだったけれど。
気が付いた時には衛の顔は唇から遠くにあった。
その代わり、私の左耳にその悪辣な唇が移動していたのだ。
「これがフランス式。ってりま!」
私の足は完全に力を失った。
すとんと膝が折れて、私は床に座り込むことになったのだ。
今日はお勉強を教えるのは、むり。
女の身だから学校に行けないことを受け入れたが、それでも何にもならないと思いながらも勉強を止める事が出来なかった。
利秋様から助力を頂けたことも、勉強を続けられた幸運の一つであろう。
彼は私の為に家庭教師を雇い、私の為に忙しい最中でも勉強をご自分で教えてくださったのである。
女は学者になることも、軍に行って栄達することも事も出来ないのに。
それが今、この時の為だったのだと、私は天啓を受けたのだ。
戊辰戦争の際には人斬り半次郎に道を開く悪鬼と呼ばれていたと聞く、戦術に優れた勇猛果敢な加藤衛様が、私に漢文を教えて欲しいと頭を下げたのだ。
こんなすごいお方が女に頭を下げただと?
やはり彼は仁のある方だ。
君子だ。
私がなんだってすると衛に答えると、衛は私を抱き締めた。
大きな体に抱きしめられても、私は怖いとは思わなかった。
温かく包まれて、眠気さえも誘う程に安心できる腕の中なのだ。
「衛さま。」
「すこし、こんままで。俺が貴方を抱ける幸せに、今少しだけ浸らせてくれんか?」
わああ!
私を抱き締めるだけで幸せになられるなんて!
この方は私を天女というし、持ち上げすぎでございますわ。
「あの、ええと。では、衛様も私に教えてください。私が世の事で知らないことを。女の身では知り得ようもない事も。」
「女性に知らせなくていい事は、男の俺じゃっちも知りたくないことだよ?」
「また、あなたは。ではフランス式とエゲレス式も知る必要は無い事ですの?兄は少佐の妻なら異人様にこんな挨拶をされると言って、手の甲に口づけてまいりましたもの。ってきゃあ!」
抱き締められていた私は、急に両腕を掴まれて、べりっという音が聞こえるみたいにして衛の身体から離された。
でも、腕を掴む手は離されていない。
彼は私をまじまじと見下ろしている。
「ほかに、他に、 何かされなかったか?いや、 余計んこちゃ言われなかったか?」
「フランス式の挨拶はまた違うと申しました。」
「それか!」
「あと。」
「ほかにも?」
「いえ、あの。ああ、これこそこんな廊下でお伝えできる話ではございません。あの一先ず。」
「ああ、そうじゃっど。 君い漢文を 教せっ、ええと、君に教えてもらわなければいけないものな。俺の部屋にまず 行こ。」
私は今度は肩を抱かれ、私達は寄り添いながら衛の部屋にまで歩いた。
兄に抱きしめられた時に感じた怖いという感情、衛には一つたりとも湧かなかったのは何故だろうと思いながら彼の横顔を見上げた。
夜伽をしていないからと別れる事になったらどうなるの?
私は両腕に抱く本をぎゅっと抱きしめ、それから衛に抱かれる肩の方、右手を少し動かいして彼の胸のあたりをそっと掴んだ。
「どうされた?」
「あ、兄に言ってしまったの。あなたと、あの、本当の夫婦になっていないっていう事を。兄は怒って。ああ、ごめんなさい。でも、私はあなたと別れたくないと思っているの。」
衛の着物を掴む手は衛の左腕によって掴まれ、私の肩を抱く右手も私をぎゅっと抱き締めた。
そして、あの時の兄のようにして、衛の顔が私の顔へと傾いてきた。
私達の唇は一瞬だけど重なった。
私の身体はびくんと飛び上がった。
衛の唇が柔らかかったから?
その感触が体をふわっとさせたから?
「これがエゲレス式。」
また彼の唇が私の唇を塞いだ。
今度は唇を軽く齧られ、その刺激に口が開いたそこに、ああ、そこに!衛の舌が入り込んできたじゃないか!
ほんの一瞬だけだったけれど。
気が付いた時には衛の顔は唇から遠くにあった。
その代わり、私の左耳にその悪辣な唇が移動していたのだ。
「これがフランス式。ってりま!」
私の足は完全に力を失った。
すとんと膝が折れて、私は床に座り込むことになったのだ。
今日はお勉強を教えるのは、むり。
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