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悪徳の実を齧ろと囁くのは蛇なのか、己の心そのものなのか
君の考えはそれなのか?
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寝不足だろうが二日酔いだろうが、りま酔いだろうが、俺には仕事がある。
このまま休みにしてりまを襲いたい気持ちの方が大きいが、りまは昨夜は俺を待って一睡もしていないとのことだ!
俺はヨキに良きに計らえとお願いし(ヨキに鼻で笑われたがな)、今夜の素晴らしき一夜のためにと、後ろ髪を引かれながら家を出た。
兵学寮の俺の席に座った所で、俺への客人があると呼ばれた。
誰であろうと出向いて見れば、生徒の親だった。
いや、黒紋付きの羽織を着た男性は、髪も真っ白であるので生徒の祖父なのかもしれない。
その男性は俺が応接間に入るや、名乗る前に切り出して来た。
「貴様が加藤と云うもとか。兵令(兵法)も是非に及ばぬくせに教鞭に立っていると聞おりきが、其れは誠のことか。」
俺はりまの今までの苦労を知った。
身分の高い武家の人だと彼の話しぶりでわかったが、何を言っているのか理解するまでほんの数秒脳みそをフル回転する必要があるのだ。
「さようでございます。戊辰の際では兵法は納めておりませんでしたが、現在は兵法についても存じております。」
「ならば、兵令に沿った教えを童どもにしてちょーだいおらぬのはいかが申すことじゃ。」
わらしどもにしてちょーだいおらぬ……多分多分、兵法からずれている勉強をしていると言いたいのかもしれない。
「私は寮生達は兵法を押さえている、が前提で教えております。それに、敵も、それがエゲレスだろうがフランスだろうが、共通に使える兵法だからこそ、それを知り、それに見合った攻撃をしてくるものです。私が戊辰の際で功名を上げられたのは、ひとえに、その裏をかけた、それだと思っております。」
「ならば、我がせがれが貴様に教わとはいる事は、貴様が実践して参った教えであると申す事じゃな。実際に戦場にて使えると云う。」
俺は深々と頭を下げた。
そして再び上げて、名も名乗らない男の目を見据えた。
「おっしゃる通りでございます。私は自分が教えた寮生に、戦場で犬死などして欲しくありません。」
「貴様に教えられたでござる子は生き残るのみか?」
俺はなぜか頭にかっと血が昇っていた。
士族はどうしてこんなにも死にたがりなのかと。
飢えて死にかけた事が無いからか?
戊辰の時の、追い詰められた時の隊の連中の行動が思い出された。
御免と叫んで自刃したり、無鉄砲に敵に切りかかる、そんな死にざまだ。
「功名なくけ死んぐらいでしたら、生っ残っ次くさ名をあぐっべきじゃんそ。」
俺は何度無駄死にをしようとする者に、この言葉を叫んできただろうか。
俺は思い出した悔しさを呑み込んだが、これだけは自分の中では譲れないのだとようやく自分の立ち位置を思い知った事も知っていた。
「そいがわいの考げか?」
「俺はそう思ももす。」
俺と同郷であったらしき老人は、俺を射るような目でしばし見つめ、俺はその視線がなぜか嬉しいと感じていた。
虫けらと考える相手に、そんな目を向けることはないからだ。
「わかった。貴様は来年には市ヶ谷に行け。列国の脅威に対して増強せねばならんのに、死にたがりの兵ばっかいじゃ意味がない。」
彼は言うだけ言うとそのまま応接間を去っていき、俺は名も知らぬ老人の足音が消えてもなお、深々と頭を下げていた。
このまま休みにしてりまを襲いたい気持ちの方が大きいが、りまは昨夜は俺を待って一睡もしていないとのことだ!
俺はヨキに良きに計らえとお願いし(ヨキに鼻で笑われたがな)、今夜の素晴らしき一夜のためにと、後ろ髪を引かれながら家を出た。
兵学寮の俺の席に座った所で、俺への客人があると呼ばれた。
誰であろうと出向いて見れば、生徒の親だった。
いや、黒紋付きの羽織を着た男性は、髪も真っ白であるので生徒の祖父なのかもしれない。
その男性は俺が応接間に入るや、名乗る前に切り出して来た。
「貴様が加藤と云うもとか。兵令(兵法)も是非に及ばぬくせに教鞭に立っていると聞おりきが、其れは誠のことか。」
俺はりまの今までの苦労を知った。
身分の高い武家の人だと彼の話しぶりでわかったが、何を言っているのか理解するまでほんの数秒脳みそをフル回転する必要があるのだ。
「さようでございます。戊辰の際では兵法は納めておりませんでしたが、現在は兵法についても存じております。」
「ならば、兵令に沿った教えを童どもにしてちょーだいおらぬのはいかが申すことじゃ。」
わらしどもにしてちょーだいおらぬ……多分多分、兵法からずれている勉強をしていると言いたいのかもしれない。
「私は寮生達は兵法を押さえている、が前提で教えております。それに、敵も、それがエゲレスだろうがフランスだろうが、共通に使える兵法だからこそ、それを知り、それに見合った攻撃をしてくるものです。私が戊辰の際で功名を上げられたのは、ひとえに、その裏をかけた、それだと思っております。」
「ならば、我がせがれが貴様に教わとはいる事は、貴様が実践して参った教えであると申す事じゃな。実際に戦場にて使えると云う。」
俺は深々と頭を下げた。
そして再び上げて、名も名乗らない男の目を見据えた。
「おっしゃる通りでございます。私は自分が教えた寮生に、戦場で犬死などして欲しくありません。」
「貴様に教えられたでござる子は生き残るのみか?」
俺はなぜか頭にかっと血が昇っていた。
士族はどうしてこんなにも死にたがりなのかと。
飢えて死にかけた事が無いからか?
戊辰の時の、追い詰められた時の隊の連中の行動が思い出された。
御免と叫んで自刃したり、無鉄砲に敵に切りかかる、そんな死にざまだ。
「功名なくけ死んぐらいでしたら、生っ残っ次くさ名をあぐっべきじゃんそ。」
俺は何度無駄死にをしようとする者に、この言葉を叫んできただろうか。
俺は思い出した悔しさを呑み込んだが、これだけは自分の中では譲れないのだとようやく自分の立ち位置を思い知った事も知っていた。
「そいがわいの考げか?」
「俺はそう思ももす。」
俺と同郷であったらしき老人は、俺を射るような目でしばし見つめ、俺はその視線がなぜか嬉しいと感じていた。
虫けらと考える相手に、そんな目を向けることはないからだ。
「わかった。貴様は来年には市ヶ谷に行け。列国の脅威に対して増強せねばならんのに、死にたがりの兵ばっかいじゃ意味がない。」
彼は言うだけ言うとそのまま応接間を去っていき、俺は名も知らぬ老人の足音が消えてもなお、深々と頭を下げていた。
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