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二日目さえ乗り切れば!

俺が守るからね?

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「今日はさ、ごはんにお味噌汁って感じ。」

「いいチョイスだよ、妹よ。」

 二人は俺の頭の上で手を打ち付け、俺は頭に響くと両耳を塞いだ。

「空くんは二日酔い?」

「そうかもね。なんだか音が響いて頭が痛い。」

 俺の額は大きな手の平が当てられ、その手が何を感じたのか、俺が何か言う間に俺は九曜に抱きかかえられていた。
 花嫁が花婿に抱かれるみたいな、恥ずかしいお姫様抱っこだ。
 女性だったら嬉しいのだろうが、男の俺は硬い体同士でしっくりくるどころか、俺の重さで落ちたらと不安ばかりだ。
 俺は脅える猫みたいに九曜にしがみ付いてしまった。

「かえって具合が悪くなるって!」

「でも、歩くのは辛くない?熱があるよ。」

 俺は熱と聞いた途端に、くらっと目が回った。
 九曜に抱かれている俺は、九曜の首に腕をまわしたそのまま、九曜の肩に自分の頭を乗せた。
 カットソー素材のジャケットは柔らかく、彼の肩が直接に感じられると俺は思ってしまった途端に、例えようもない安心感が湧いてしまっていた。

 安心感って毒にもなる。

 本当はここまで辛くも無いのに、俺は彼の肩から頭を上げる事が出来なくなってしまったのだ。
 そしてそんな俺を知っているかのようにして、九曜は俺の頭を幼子にするようにして彼の大きな手を当てた。
 泣きそうだと、俺は喉が詰まったが、こんな目に遭わせた男に仕返しをしなくてはいけない。
 俺は九曜の耳にだけ届くだろう囁き声をあげた。

「俺は自分で歩けなくなった。ぜんぶ、お前のせいだ。」

 彼の笑い声が彼の肩に頭を押し付けている俺には心地よく響いた。

「いいんだよ。俺も君を守って隠していたいのだから。」

「明日は新天地だろ?俺を誘拐して連れていくのか?」

「それは君の心次第だね。」

 俺は連れていかれたいと九曜にしがみ付く腕に力を込めたが、言葉には決して出来はしないと想いを呑み込んだ。
 母を裏切ることはできない。

 だから九曜を恨んだ。
 どうして無理矢理に連れて行ってくれないのか。
 お前は守るどころか、俺を追い詰めるばかりじゃないか、と。
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