やるかやられるか三日以内に決めてくれ

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新生活な二人の章

ここが二人の新居です?

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 新居は九曜の母が大事な息子に選んだだけあり、築年数は中古だがリノベーション済みという、新築にしか見えない外見と内装の無駄に豪華なものだった。
 蝶子のマンションと比べればコンシェルジュも存在しないというこじんまりとしたものであろうが、木造モルタルな安アパートに住んでいた俺には豪邸である。

 部屋に一歩踏み入れた俺は、広々とした室内だけでなく、インテリア雑誌の内装よりも高級感と独身男性が好みそうな無機質感を演出したママさんの手腕に感嘆の溜息を吐きながら呆然とするだけだ。

「金持ちのお坊ちゃん時代もあった俺だが、突き抜けた金持ちの生活感が掴めねえよ。なんか、家って言うよりもどっかの高級コンドミニアムに間違って入っちゃったって感じだよ。」

「君が寛げないならこの内装は失敗だね。君の好きな家具に買い替えるから何でも言って。」

「その気遣いセリフこそ俺をさらに追い詰めると知れ。」

 俺は金持ちの部屋と金持ち九曜の感覚に酔ったようであり、フラフラと目の前のソファに崩れ落ちて横たわった。
 紺色のフェルトみたいな生地が張られたソファは、背もたれの高さが違うという不思議なもので、向かって左側の肘置きなどはマクラのような形をしている。
 つまり、横幅のある大きなソファは、成人男性が転がるには最上のものだと、寝転がった俺に身をもって教えてくれたのだ。

「買い替え不要。俺はこれが気に入った。凄い寝心地がいいな。」

「君が横になったことで、このソファが完成したんだなって、俺は思ったよ。」

 当り前だが俺の体の上に重たい布団が乗って来て、その布団は俺を温めるどころか俺の眠りを邪魔するがごとく俺の唇を蹂躙してきた。
 たった三日で俺は九曜の唇を簡単に受け入れるようになっているどころか、九曜の唇と舌が俺の下唇や歯茎や舌に触れることで、下半身をざわざわと騒めかせてしまう様になってしまったとは!

 ハハハ!
 九曜の下半身はもう猛っているじゃないか!

 俺は九曜の右肩近くの胸を押した。

「空?」

「荷物を片してからだよ。俺達の服などの荷物はこれから届くんだろう?裸になってちゃあ、受け取れないじゃないか。」

 九曜は俺をまじまじと見つめた後、え?と尋ね返して来た。
 俺こそ九曜を見返して、この部屋に引っ越し屋のトラックが再びやって来ることなど無いのだと気が付いた。

「ちょっと、のいて。」

 九曜を押しのけて俺はソファから降りると、リビングダイニングを飛び出した。
 俺達が広い玄関口から入ってきた扉ではなく、その扉の反対側に二つある扉の一つをとりあえず開け広げたのである。

 一つ目の扉の部屋は、リビングのベランダと繋がっているベランダを持つ六畳間の洋室だった。
 シングルベッドと勉強机になりそうな書き物机と本棚が設置されており、なんだか高校生の男子が使いそうな部屋だと感じた。

 俺が失った過去にあったような部屋だと。

 また、その部屋にある本棚には俺の大学の教科書と参考書が詰め込まれているという事で、ここは俺の部屋で良いのだろう。
 俺は室内に入っていくと、両開きのクローゼットの扉を開けた。
 俺のよく知っている俺の安物の服と、俺が全く知らないが俺のサイズぴったりだろう高級な服が俺をあざ笑うようにして揺れている。

 俺は何も見なかった事にして扉を閉めた。

 ママが買ったの?
 九曜が買ってくれたの?
 それは一体いつ買ったものなの?
 恋人がどの程度のストーカーだったのかと、新生活初日から追及したくはないではないか!

「そら?安心していいよ。そこは君の休憩場所でそこに君を押し込むわけじゃないから。一人で勉強したい時の隠れ家でもいいな。ほら、俺と君は新婚でしょう?ちゃんと毎日一緒の部屋で寝起きするよ?」

 俺は戸口の九曜に微笑み返し、それから九曜を押しのける勢いで部屋を飛び出すと、本当に俺が寝起きする予定らしきもう一つの部屋のドアを開けた。

「は、はははは。やられたって感じだな。」

 先程の六畳ぐらいの部屋とは違い、倍は確実にありそうな部屋だった。
 だが、そんな広い部屋が狭く見える程に、無駄に大きなベッドが鎮座している。

「やり部屋にしか見えないやり部屋。」

「ダブルじゃ俺達には狭すぎる。クイーンベッドはお気に召さなかった?」

 呆然と立ち尽くす俺の両肩にしっかりとした両手が置かれ、ウキウキ声で囁かれたが、俺は自分の選択を早まったのでは無いのか?そんな後悔の念ばかりが脳みその奥から湧きたつばかりである。

「お前は俺とやることしか考えていないのか?お前は判事だったよな?どうして二人の部屋にはベッドしか無いんだ?お前はどこで仕事をするんだ?」

「君との生活に仕事は持ち込みたくは無いからね。」

「――仕事に追い込まれたお前に夜食を作ったり肩を揉んだり、俺の描いた新生活は無いのかな?」

「あるある!」

 九曜は俺の肩どころか俺の体を自分に引き寄せて抱き締めてから、俺の左手首を掴んで勢いよく駆け出した。
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