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2日目

第32話 食べ方

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「だ、大丈夫かいっ!
 お嬢ちゃん!」

 流石は料理人、慌てていても
 料理は丁寧にテーブルに置いた。

「手は!
 火傷はしとらんかい!?」

 クロエの手を掴み、
 フキンで掌を拭いて確認している。

「するわけなかろう」

「あ~ビックリした~。
 お嬢ちゃん年の割に、
 熱耐性高いんだねぇ。
 それより、ちょっとお兄さん?
 こんなお嬢ちゃんに
 危ない食べ方教えちゃダメじゃないか」

-危ないの!?

「それと、ムストラ様?
 ボケッとしてないで、止めないと。
 お孫さんが火傷するとこだったんだよ?」

「クロエ嬢ちゃんはワシの孫じゃないのぅ。
 それと、おばちゃん。
 教えとったのは、
 クロエ嬢ちゃんの方で
 教わっとったのが
 こちらのお兄さんじゃ」

「えぇ!?
 そうなのかい?
 おばちゃん早とちりしちまったよ。
 と言うことは、
 二人とも食べ方を知らないんだね?
 ムストラ様?
 ちゃんと教えてあげてくださいな」

「勿論、そのつもりじゃよ」

 おばちゃんは一先ず安心したようで、
 三人分のライス、サラダ、卵スープを
 テーブルに置き、
 厨房に戻っていった。

「さて、おばちゃんも言うとった様に
 あの食べ方は人には危険じゃ。
 名付けるならば、野獣喰いかのぅ」

「野獣……某はドラゴンなのじゃが……」

「なら、竜喰いかのぅ。
 普通の人は熱耐性が
 そこまで高くはないからのぅ。
 ワシとて、この高熱の鉄板に触れたら
 火傷してしまう。
 クロエ嬢ちゃんとシオン殿は平気でも、
 周りの者に心配かけてしまう様な行動は
 控えるべきじゃよ。
 小さい子どもが見て真似したら
 大変じゃしのぅ」

「わかったわかった。
 じゃあ、普通の喰いかたってのを
 教えてくれ」

 ムストラはナイフとフォークの
 説明から入った。

「ナイフは切る為の食事道具で、
 主に肉を切るのに使うのじゃが、
 ナイフだけではステーキも
 動いてしまう為に上手く切れんのじゃ」

 ムストラは実演しながら説明している。
 それを見てシオンも試す。
 ナイフをステーキの上に置き、
 1回引いてみる。
 ……キレイに切れてしまった。
 むしろ、その1引きは周りからは
 見えなかったのだが。
 
「あれ? 切れたぞ?」

「まぁ、今回は
 【フロストバイソン】の肉じゃから、
 他の肉よりか切りやすいかのぅ。
 本来はそのステーキを固定するのに
 このフォークを使うのじゃ。
 このフォークで押さえながら……、
 このように切っていき、
 1口サイズにして食べるのじゃよ。
 食べる時もこのフォークの出番じゃのぅ。
 先程は押さえるのに使ったが、
 今度は刺すのに使う」

 1口サイズに切ったステーキに
 フォークを刺す。

「そして、口に運ぶ。
 これが、
 ステーキの基本的な食べ方じゃのぅ」

 そう言い終え、ムストラは食べ始めた。
 それを真似てシオンも食べ始める。

「噛めば噛むほど
 口内に【フロストバイソン】の肉汁が
 溢れ出るのぅ」
 
「この旨い液体は肉汁と言うのか」

「そうじゃよ。
 そして、この肉汁が口内にあるうちに
 この白いライスを口に含むのじゃ」

 ムストラはフォークでライスを掬い
 口に含んだ。

「これか?」

 シオンも同様にライスを口に運ぶ。

「そうすると、ライスが肉汁に絡み
 更に旨く感じるじゃろ?」

「あぁ、確かにコイツは旨ぇ!」

「だが、味というものは
 同じモノを続けていると慣れてくる」

「味ってなんだ?」

「味とはお主が先程から旨いと
 言っておるモノじゃのぅ」

「この衝撃は味と言うのか!」

「衝撃……まぁ、衝撃かのぅ。
 でじゃ、その味に慣れてくると旨味が
 薄くなったと感じてしまう。
 そこで、このサラダや卵スープを
 食べるのじゃよ。
 サラダはフォークで刺して、
 卵スープはこのスプーンを使うのじゃ。
 スプーンは……」

「これはスプーンと言うのか。
 昨日シチューを食べた時に使ったな」

「なら説明はいらんのぅ。
 この塩味しおみの効いた卵スープを飲むと
 味を感じとる器官である舌が
 洗われたようになり
 ステーキの旨味が
 また戻った様に感じのじゃのぅ」

「おお! ホントだ!」

「次にサラダじゃのぅ。
 サラダにかかっている
 このドレッシングの酸味さんみ
 ステーキの旨味を引き立てる。
 初めに食べた時より旨く感じる筈じゃ」

「おぉ! マジだ! 凄ぇ!
 あ、ところでってなんだ?」

「ふむ、塩味や酸味は、
 ……どう説明してもんかのぅ。
 味の種類かのぅ。
 匂いにも香りや臭いがあったように
 味にも色々あるのじゃよ。
 ちょっと待って居れ」

 ムストラは立ち上がり、
 カウンターへ向かい、
 おばちゃんに何か注文している。 

 ……断られた様だ。
 ムストラが厨房に入っていった。

 暫くして、戻ってきた。
 手には小皿が乗ったお盆を持っている。

「ふぅやれやれ」
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